弁護士コラムバックナンバー

選挙権と成人年齢の引き下げ

高木 篤夫

1 選挙権年齢の引き下げ

 先般,国会で改正公職選挙法案が成立して,これまで20歳以上であった選挙権者が18歳以上というように引き下げられた。国政選挙の次回参議院選挙では18歳以上の国民が選挙権を行使できることになる。これは国民投票法によって国民投票は18歳以上というように引き下げられたことから,一般的な選挙についても18歳以上とすべきだという議論による。

若年者にも選挙権を与えることは,一定の政治的判断をし得る能力があるとみて選挙権を付与したものといえるであろう。国民主権のもとでは国民全体の意思に基づく政治の原理であるから,どこから選挙権を与えるかというのはある意味技術的な問題であるといえる。政治的判断の能力が認められるとされる年齢をどこで線引きするかという制度内容の問題として考えることができる。国民主権の権力的契機の面を誰が担えるかを考えた上で,普通選挙制度の中で実際に政治的判断能力の下限をどこにおくかという問題である。

若年層の意思を政治に反映させるという観点からは,現代のある意味高齢者層の政治的意思が反映されやすい構造を是正する意味があるともいえる。

もっとも,ここで政治的判断について公共教育・政治教育等によって自発的に政治的問題を考えて投票行動をするような公民教育が必要となってくるし,実際にも若年者への公民教育をどうするかが課題となっている。

2 民法の成人年齢の引き下げ

国民投票法の制定の際に,あわせて少年法の適用年齢や民法の成人年齢についても引き下げるという議論があり,改正公職選挙法の付則でもこれを検討することとされている。

責任を与えられれば権利(選挙権)行使の能力も成熟するはずということなのだろうか。少年法の適用年齢の引き下げについては異論も多いところでもあり,ここでは民法の成人年齢を考えてみる。

民法の成人年齢をめぐっては、法制審議会(法相の諮問機関)が2009年に18歳への引き下げを答申していた。ただし、若年者の自立支援策などの充実も同時に求め、そうした施策の進み具合を踏まえて国会が判断することになってはいた。

自民党では「成年年齢に関する特命委員会」を立ち上げており,そこで6月11日、民法が定める成人年齢を18歳に引き下げる方向で提言することを決めた。

民法の成年年齢について自民党が引き下げの方向性を固めたことにはちょっと待ってほしいと言いたい。政治的な能力付与と,刑事責任あるいは私法上の行為能力等については区別して考えるべきではないだろうか。

社会的・経済的生活の中での成熟度は18歳だからといって十分とはいえないように思われる。民法上の成人年齢の18歳への引き下げについては内閣府の世論調査で全体では69%が反対だったという統計調査もある(2013年12月14日)。これは,現在の未成年者では社会的・経済的成熟度が一人立ちさせるには十分でないという世間一般の共通認識があるからであろう。現在ではまだ18歳で十分に経済的判断能力が成熟しているような教育制度にはなっていないだろうし,学校等での消費者教育が広くいきわたって若年者の経済的判断の成熟を支援するような施策がなされていかない限り,若年者の社会的成熟度が低いといわれる状況はかわらないように思う。

若年者の消費者被害の実態に接していると,契約というものへの意識がきわめて安易で理解もされていないと感じることは多々あるし,20歳前後では考え方の未熟さを感じることも多い。さらに,負担能力という観点からも日本社会の高学歴化は若年者の経済的独立の時期を後らせてもいる。

現在の民法では未成年者は制限行為能力者とされて,親の同意のない行為は原則として取り消せるというように未成年者に保護を与えている。この保護が,若年者の未熟な判断による経済的被害を防いでいる面があるのは確かである。

若年者を狙った悪徳な商法を用いる事業者もなくなってはいない。未成年者取消ができなくなる20歳を超えたあたりの成年者を狙う悪質業者もいる。悪質な業者などにカモにされてしまった場合,未成年者の行為についてはこの民法の取消権の付与というのが「未成年者」という画一的判断ができる基準が第一にあることから,被害を被ったときに比較的救済に役立つツールとなっているのも事実である。

権利を与えたから,それに相応する責任をという思考で成人年齢引き下げを考えているのであれば,国民主権における選挙権の意味(国民であるからには可能な限り政治的意思を反映させていく)というものと民事上の取引に入るための判断能力の具備(経済社会・取引社会に一人前の市民として参加する)という事の性質の違いをみない雑な議論としか考えられない。

選挙権年齢の引き下げとは別論として,若年者の実態をみた上で議論をしてもらいたいものと思う。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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