弁護士コラムバックナンバー

ヨット雑感

三木 昌樹

 私は、海が好きです。以前はダイビングもしていましたが、現在はもっぱらヨットに乗っています。ヨットというと欧米ではプレジャーボートの中で、いくつもの船室を備えた豪華な船を指すことが多いようですが、日本ではいわゆる帆船、帆に風を受けて走る船のことを意味することがほとんどです。

 私の場合もこの帆船のことです。ヨットには大きく分けてディンギーと言われる船室を持たない小型の船と、クルーザーという船室を備えた比較的大きな船の2種類があります。クルーザーはほとんどがエンジンを備え、スクリュープロペラを回して走れるようになっているものが多いです。クルーザータイプの船は大きいサイズの船が多いので、港の中などで小回りが利くようにする必要があるからだと思います。実際、帆走だけで入港するのも不可能ではありませんが、とてもやっかいです。私が乗っているヨットもクルーザータイプです。ちなみに、船を操縦する際に免許(小型船舶操縦士免許)が必要なのは、このエンジンを備えた船の場合だけです。エンジンのない帆船の場合は、どんなに船が大きくても、操船する際に操縦免許の必要はありません。なお、車の場合は「運転」と言いますが、船や飛行機の場合は「操縦」と言います。

 私たちの船は真鶴に繋留されています。私たちと言いましたが、現在は6人の仲間でヨットを維持しています。仲間のメンバーにはいろいろな職業の人たちがいます。皆、ヨットが好きな連中です。その中の4人は、お金はないけど夢と時間だけはあるころに、自分たちで手作りのヨットを造ってしまったほどです。現在の船は30フィート(約10メートル)の新艇です。

 この新艇は、2014年8月に日本で唯一残ったプレジャーボートの製作会社である岡崎造船という会社で建造されました。会社は瀬戸内海の小豆島にあります。わがメンバーは、私を除いてヨットのセミプロみたいな方々ですから、新艇を造る際に何度も小豆島まで出向きいろいろと注文を出し、岡崎造船のほうでも、貴重な意見ということでかなり無理を聞いてくれたとのことです。

 さて、そのようにしてできた新艇を母港である真鶴に持ってくる必要があります。私も、老体に鞭打って回航に参加しました。わがメンバーは4人が小豆島から、一人が途中から参加し、他に2人の助っ人も来てくれました。

 2014年8月15日に小豆島の琴塚というところを出港し、18日のお昼頃に真鶴に入港する予定で計画を立てました。航路は小豆島を15日の午前中に出港し、潮の流れに乗って鳴門海峡を一気に抜けて、紀伊半島を躱したうえで串本を経て那智勝浦で一休みし、16日の午前中に那智勝浦を出港、翌17日の夕方には伊豆半島の下田に入り、翌朝下田を出て18日のお昼頃真鶴に到着するということで、ほぼ予定通りに回航できました。3夜の航海はかなりきつかったですが、鳴門の渦潮を見たり、夜光虫に光る航跡や、本物の(?)水平線から出てくるお月さんや太陽(私は寝ていて見なかった)を拝めたほか、不思議な雲の塊を観察したりして、しんどいけれど楽しい航海でした。

 言うまでもなく、日本は海に囲まれています。日本でも、ニュージーランドのように、もっとヨットに親しめるような環境になればよいと思います。海は、生命が生まれたところとして、私たち人間にいろいろなことを教えてくれるところだと思います。ダイビングをしていたころ、海の中に入ると不思議な感覚にとらわれたものです。水の中で見る景色の素晴らしさもさることながら、音のない世界というか、地上では感じることのできない、海の水だけではない何かで周りを包まれているような感覚にとらわれました。安心感と恐怖感の混在したような感覚でした。

 また、ヨットに乗るようになると、海中とは違った意味で海の素晴らしさや厳しさを味わいました。海中では呼吸ができないことからくる恐怖感が大きかったのにくらべ、海上では落ちたら死ぬかもしれないという現実があります。 海中では全体の動きがゆっくり見えますが、海上では、自然は劇的に変化します。風も波も荒れるときは圧倒的な強さを見せつけてきます。とても人間の力では抗しきれません。勿論、危険はできるだけ事前に回避できるようにするのが大原則です。しかし、いったん海に出ると、想定外のことが起こるのがむしろ当たり前です。海の上では、常に危険はそこにあると言っても過言ではないと思います。

 それでも、ヨットに乗っている人達の多くは、水平線のかなたにある島を目指して航海に出ることを夢見ていると思います。なぜならば、ヨットは、壊れない船体と風さえあればどこまででも行くことが可能だからです。あとは、水と食料と操船の技術さえあればよいわけです。

体力的にも、経済的にも、また、時間に関しても、多少どころか、かなり無理してでも、ヨットに乗り続けている理由がそこにあるような気がします。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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