弁護士コラムバックナンバー

訴状不受理者に対する対応

綱藤 明

1 通常の送達方法

裁判は、裁判を起こそうとする者(原告になる者)が、裁判所に対して訴状を提出し、裁判所が相手方(被告になる者)に対して、当該訴状を送達して初めて、審理が開始される状態となります。

原則的な送達は、交付送達という方法が用いられます。

交付送達とは、送達の名宛人(訴え提起の場面においては、「被告となる者」を指す。以下同じ。)に対し、送達書類を直接交付して行う方法です。

交付送達が原則的な送達方法となっているのは、直接名宛人に手渡しをするため、送達物の内容を確実に了知させることができるからとされています。

しかしながら、名宛人に訴状を送達しようとしても、送達物が受け取られず、裁判所に戻ってきてしまうこと場合もあります。

このような場合、いつまで経っても、裁判を始めることができず、裁判を起こそうとする者にとって多大な不利益が生じます。

このような不利益を回避するため、民事訴訟法は、交付送達のほかに2つの送達方法を用意しています。

2 付郵便送達と公示送達

送達物が受け取られないパターンとして、大きくは2つのケースが考えられます。

1つ目は、送達場所に名宛人がいるにもかかわらず、送達物を受け取らないケースです。このケースで実務上用いられることが多い送達方法は、付郵便送達です。

付郵便送達とは、書留郵便で名宛人に発送し、発送したときに送達が完了したとみなす方法です。すなわち、この方法によれば、名宛人が実際に受け取るか受け取らないかは無関係に、送達が完了することになります。

付郵便送達の方法が採用されるには、送達先に名宛人が実際に所在していることを調査して、裁判所にこれを書面で報告の上、付郵便送達の方法によることを申し出る必要があります。

調査の方法は、表札の有無、並びに、郵便受け及び電気ガスメーターの状況等の確認のほか、近隣住人の方に対する聴き取り等を行います。

これらを調査した結果、名宛人がそこに所在していると判断できれば、付郵便送達の方法が採用される可能性が高くなります。

例えば、表札があり、郵便受け内に郵便物が溜まっておらず、電気ガスメーターも動いている様子で、近隣住民の聴き取りの結果、直近に名宛人を見かけているとの供述が得られれば、名宛人がその場所に所在しているとの判断に傾くこととなります。

2つ目は、住民票(名宛人が法人の場合は法人登記簿)等記載の名宛人がおらず、その他名宛人の所在場所が不明であるケースです。このケースで実務上用いられることが多い送達方法は、公示送達です。

公示送達とは、裁判所書記官が送達物を保管し、名宛人が出頭すれば書類を交付する旨の書面を裁判所に設置されている掲示板に掲示し、掲示から2週間経過したときに送達の効力が生じる送達方法です。

この公示送達は、付郵便送達と異なり、名宛人の実際の所在地に送達がなされず、名宛人が送達の事実を了知できる可能性が低い等の理由から、最後の手段として用いられます。

公示送達の方法が採用される際にも、送達しようとしていた場所に名宛人が実際には所在していないことを調査して、裁判所にこれを書面で報告の上、公示送達の方法によることを申し出る必要があります。

調査により、付郵便送達の調査とは逆に、送達しようとしていた場所に名宛人が所在していないと判断できれば、公示送達の方法が採用される可能性が高くなります。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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