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SNS考-誤解と偏見があるかも知れませんが?-

渡邉 清

1 10年以上前のことになると思いますが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」)が今ほど隆盛を極めていない時期、私は、SNSに関する講演を聴きました。

 そのとき、既に「プラットホーム」という言葉が使用されており、講師の話では、SNSが提供するインターネット上のプラットホームは、世界中の誰もが自由に参加できる場所で、そこで、世界中の人々が、交流をし、友人になり、情報交換をし、科学・芸術・政治等々に関する言論の場を作って活発な意見を交換することなどができる、一般の人が、現実の世界で行うことが大変だったことが、SNSで簡単にできるようになるということでした。

 私は、講演を聴いた後、早速、とあるSNSに登録し、しばらくの間、友人らとの間で近況報告などの情報交換をしていましたが、その後、使用頻度が減少し、数年前には、そのSNSから退会しました。

 現在は、SNSは利用していません。

 そうなったのは、使用するメリットを感じなくなったこともありますが、やはり、巷で指摘されているSNSの弊害が大きな理由です。

 もちろん、先の講師の話のようなプラットホーム上での健全な交流もあり、それが多数であるとは思いますが、他方、虚偽情報の拡散、他者に対する誹謗中傷、無責任な言論の横行、詐欺等の犯罪行為等々、法律上、倫理上許されないようなことがプラットホーム上で行われており、最近では、SNSのせいで政治が歪められたと思われる事態が発生したことは周知のとおりです。

2 私は、SNSを含むインターネットの利用も低調です。

 もちろん、仕事上、メール、WEB会議等の利用は避けられませんので、全く利用しないことはないのですが、ネットショッピング、ネットバンキング、キャッシュレス決済は利用していませんし、近時、話題となっており、書面作成に利用している弁護士もいると聞いている生成AIも利用していません。

 ネットショッピングについて言えば、私は、高価な品物、例えばブランド品、家電製品、家具などを購入するときは、デパート、家電量販店、家具店などに行き、品物を見て、触れて確かめ、店員さんから、品質、性能などについて詳しい説明を聞いて購入し、それ以外の日用品、食料品などは、近所のスーパー、コンビニや東京であればあちこちにある激安店などで購入しています。

 ネットショッピングと比べれば、時間と労力が必要で、高い値段で買わされていると言われるかも知れませんが、それでもいいと思っています。

 デパートなどでの、扱っている品物についての詳しい知識と経験をもっている店員さんとのコミュニケーションは楽しいものです。

 ネットショッピングに関しては、それを利用して高価なブランド品などを購入しようとする人が、インターネット上の写真などで現物の品質、性能、形状などを十分に判断できないため、購入に先立ち、デパートやブランド店に行き、現物を手にとって確かめ、店員さんに説明をさせて品質等を確認し、問題がないと思えば、ネットショッピングを利用して購入するという話を耳にしたことがあります。

 しかしながら、購入する気が全くないにもかかわらず、デパートなどに行き、品定めをし、店員さんに説明までさせるに至っては、デパートなどが提供するサービスのただ乗りであり、犯罪とまでは言えないかも知れませんが、サービス窃盗と言っても過言ではない反倫理的な行為であると思います。

 もちろん、デパートなどが、そのような行為も、店の賑わいにつながればいいなどという理由で容認するなら別です。

 ただ、いわゆるウィンドウショッピングの客とは異なり、購入意思が全くないばかりか、商売敵とも言えるネットショッピングを利することになる行為をデパートなどが容認するとは思えません。

 今や、インターネットを高度に利用している人の中には、スマートフォン1台で、日常必要なことのほとんどをやってしまう人もいるようです。

 インターネットの進歩には驚くばかりですが、利用する人は、その弊害も認識し、節度をもった利用をして頂ければと思います。

3 SNSなどでは、他者の名誉や信用を低下させるような投稿などが問題となっていますが、そのような投稿をされた者が、投稿者に対し、投稿を削除することなどを求めると、投稿者が、憲法の表現の自由の侵害だと主張して削除等を拒否することがあるようです。

 投稿者をA、投稿された者をBとし、A、B共に公務員等ではない私人とします。

 Aの投稿が表現の自由として保護されるかは、憲法解釈上の争点のひとつであり、専門的には、「人権規定の私人間効力」の問題と言われています。

 もともと、憲法は、国家権力の濫用から国民の権利、自由を保護するために定められているものですから、憲法の人権規定は、国家権力が国民の人権を侵害しようとした場合などに、国家権力に対して主張できるものと考えられています。

 そのような考えを前提とすれば、人権規定は私人間には適用されないことになり、先の例では、Aは、Bに対して表現の自由を主張できないことになります(非適用説)。

 しかし、人権は、個人の尊厳に基づく人にとって普遍的かつ重要なものであり、また、憲法は国家の最高法規であることにかんがみれば、私人間で人権侵害と言える事態があった場合にも人権規定が適用されるべきであるという考えがあり、現在はその考えが通説です。

 ただ、その考えにも二説あり、人権規定が私人間に直接適用されるという考え(直接適用説)と、民法などの私人間に適用される法の解釈の中に人権規定の趣旨などを取り込んで解釈することにより、人権規定が私人間に間接的に適用されるという考え(間接適用説)があり、間接適用説が、通説、判例となっています。

 間接適用説を前提とした場合、先の例で、Bが、Aの投稿が民法の不法行為(民法709条)に該当するとしてAに損害賠償を請求した場合、不法行為の要件である違法性や権利侵害の存否に判断において、Aの投稿が、憲法の表現の自由として保護されるものであるか否かも考慮しつつ判断されることになると思われます。

 Aは、Bに対し、無条件に、自己の投稿が表現の自由によって保護されるとは言えないということになります。

 まして、投稿が虚偽の事実を含んでいたり、単に相手方を誹謗中傷するものであれば、それが保護されるものではないことは言うまでもありません。

 SNS上で、他者が精神的苦痛を感じたり、他者の名誉、信用が害されるかも知れないような内容の投稿をする場合、投稿は、自分の考えの表現であるから、憲法の表現の自由によって保護されるなどと単純に考えるのは間違いです。

 SNS上の投稿であるからなどと軽く考えることなく、その投稿が対象としている相手方に配慮し、また、投稿の必要性、有益性なども考慮しつつ、適切な投稿をしてほしいものです。

 そのようなことが守られる限り、SNS上のプラットホームは、真に世界の人々の交流の場になるものと思います。

以上

*参考文献  芦部信喜著、高橋和之補訂「憲法 第三版」岩波書店

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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