弁護士コラムバックナンバー

原子力損害賠償の現状と問題点について

綱藤 明

1.原子力損害賠償の現状について

 平成23年5月31日付で、「東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針」が策定、公表されました。これを受け、福島県内において、6月16日付で第2回原子力損害関係団体連絡協議会が開催され、第二次指針の内容について県側から各団体(旅館業であれば福島県旅館ホテル生活衛生同業組合)に対して説明が行われました。

 その後、各団体でも個別に説明会を行い、県側から受けた説明を各組合員にフィードバックしました。その概要は、[1]東京電力に対する賠償請求の取りまとめは各組合が行うこと、[2]今後、原子力損害賠償紛争審査会(専門委員会)において、賠償請求の範囲や基準、手続等について議論を行うこと、[3]なお、損害賠償の範囲や基準の制定に当たっては、なるべく一般的な指標を提示し、個別の証拠を要求しないこと、といった内容でした。

2.原子力損害賠償の問題点について

 以上のように、原子力損害の賠償については、一見、賠償のスキームが固まりつつあるようにも見えます。しかしながら、今後、損害賠償の範囲や基準が制定されるに当たっては、いわゆる風評被害の取り扱いなど、相当因果関係論との関係で難しい問題が山積しているのが現状です(なお、「風評被害」とは、一般的に、「放射性物質による汚染の危険性を懸念して敬遠したくなる心理が平均的・一般的な人を基準に合理的な場合」をいうとされています。例えば、農林漁業では、少なくとも平成23年4月末日までに出荷制限区域内で産出されたものが風評被害の対象とされます。また、観光業では、少なくとも福島県内の観光業が風評被害の対象とされています。なお、その他の業種【食品、金融、製造業、サービス業、小売・卸売業、建設・不動産、水道事業〈上水道、下水道〉、運輸・物流、医療・福祉、学校・スポーツ・文化、情報通信等】については、今後の検討に委ねられることになります)。

 例えば、観光産業を例に取れば、損害賠償の範囲や基準を制定するに当たり、[1]過去の観光に関する風評被害発生時との比較を行うこと(具体的には、過去の自然災害・感染症発生時における観光に関する風評被害について、今回の状況と比較・分析することで、原子力損害として相当因果関係を是認できる範囲を特定すること)、[2]観光関連産業における、いわゆる風評被害の範囲を特定すること(国内外の旅行者の旅行に関する意識等について、原発事故との関係を整理・分析することにより、観光関連産業に生じた被害から、旅行自粛等の他の要因を除き、原子力損害と認められる部分を特定すること)、[3]観光関連産業における損害の類型化と被害額の算定方法(観光関連産業における損害の類型化と類型別の被害額の算定方法を体系的に整理すること)などが議論されることになります。

3.最後に

 このように、原子力被害に対して現実の賠償がなされるまでには、まだまだ議論しなければならない事項が山積しており、多くの時間を要することになりそうです。我々弁護士は、原子力災害の重大性に鑑み、今後、原子力被害に対して十分な被害回復がなされるよう、政府、関係団体に対する提言等を含め、主体的に行動していかなければならないと考えます。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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