弁護士コラムバックナンバー

女性の力

三木 昌樹

 なでしこジャパンがサッカーのワールドカップで優勝し、日本における女性の力が見直されています。これまでも高橋尚子さんがオリンピックマラソンで金メダルを獲得したりして、スポーツ界での女性の活躍には目を見張るものがありました。私は、ビジネスの面においても女性の能力をもっと活用すべきだし、将来は女性がさらに活躍するようになっていくと予想しています。しかし、現状を見ると、女性はその能力を発揮しにくい社会構造になっているように思えます。実際、生涯賃金でみると、学歴などを同じレベルで比較しても、女性は男性の4分の3くらいしかないのです。

 私は、大学を卒業した後民間の会社に勤め、30歳を過ぎてから会社を退社し、初めて司法試験に挑戦し、40歳で弁護士登録をしました。

 大学を卒業するまで、私は、いわゆる働く女性を身近に見ることは余りありませんでした。女性は、仮に身近にいたとしても(私の家族には母と妹がいます)、もっぱらプライベートなお付き合いの相手でした。私は、会社に勤めはじめてから、仕事仲間として女性とのお付き合いを始めました。そしてわかったのは女性の仕事に関する意欲と能力の高さです。勿論女性といっても色んな人がいます。女性の社員の中には、良い夫を見つけるために会社に来ている人もいました。そして当時は、女性は寿退社が当然とされていました。そのような中で、仕事に情熱をかける人もかなりいました。当時私が就職した会社では、女性社員の大半は男性スタッフのもとで、その補助の仕事に従事していました。女性はたとえ四年制大学を出ていても、短大卒の扱いで補助的な業務に従事することが普通でした。

 ところが、この補助的な事務作業に従事している女性スタッフの中でも極めて優秀な人が何人もおりまして、私にとって大卒の男性スタッフよりもはるかに使いやすいというか頼りになる人も数人おりました。そこで私は、これらの優秀な女性スタッフに、補助的業務ではない、大卒スタッフの仕事を与えられないか、またはその能力に見合った処遇をできないかと、何度か上司に掛け合いましたが、いずれも却下されました。理由は、当時、会社の人事管理は職掌制度によって行われており、女性はいくら経験をつんで優秀であっても、いったん補助的業務の職掌に入った以上、定められた職掌を超えての処遇はできないとのことでした(現在は改められているそうです)。私のもとでサポートをしていただいた女性は、特に優秀であったため、本人の希望もあり、会社には内緒で大卒スタッフが担当するような仕事をお願いしたこともありました。残念ながら、彼女は、私が会社を退社した後に会社を辞めたとのことでした。彼女にとって、当時は当たり前であった、全く補助的な女性スタッフの仕事は、やってられないということだったようです。

 このようなことは、現在の大会社では殆ど考えられないことだとは思いますが、中小企業ではまだまだ現実のことと思います。要は、日本の風土のようなものが根強く根底にあると思います。いわく、「女は家庭を守ればよい」ということですね。法制度は表向き男女平等をうたい、女性の働く権利を守るようになってきておりますが、現実面はなかなか期待したとおりには変化していないようです。

 司法試験の合格者の女性の割合は徐々に増加してきていますが、25パーセントを少し越えたところで足踏みをしているようです。私は、30年くらい前に司法試験に合格しました。その頃は、この試験は女性向きの試験だと思い、女性の合格者がすぐにでも30パーセントを超え、早い時期に50パーセントに近くなると予想していました。この予想は外れましたが、原因は女性の能力など女性自身の問題ではなく、育った環境や女性を受け入れる社会のあり方など外部要因にあるように思えます。私は、弁護士をはじめ、裁判官や検察官のいわゆる法曹の仕事は女性にも向いていると思っています。きめ細かな配慮や、やさしい心遣いなどが必要な場合が多いと考えるからです。勿論、大きな包容力や大胆な決断なども本当は男性のものではなく、女性の特性の一つであることも知っているつもりですが・・・

 いずれにせよ、私は法曹界だけでなく、世の中のいろいろな仕事の分野の構成が男女半々くらいになれば、世の中がもう少し良くなるのではないかと思っており、早くそのようになれば良いと思っております。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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