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福島原発事故の損害賠償請求

藤原 宏高

 いよいよ福島原発事故の被害者による東京電力への損害賠償請求が始まりました。福島原発事故による被害が広範囲かつ多方面に及ぶことから、原子力損害賠償紛争審査会は、平成23年8月5日に中間指針を策定し、具体的なケースに対する損害賠償請求の基準を明示するとともに、和解の仲介を迅速に行うべく、原子力損害賠償紛争審査会のもとに設置された原子力損害賠償紛争解決センターが平成23年9月1日から稼働しています。また、各地でも、弁護士会が中心となって被害者弁護団が結成されています。

 このように形だけ見れば、福島原発事故の被害者が東京電力に対して損害賠償請求できる仕組みは整ったかのように見えますが、本当でしょうか。

 福島原発事故と相当因果関係の認められる損害については、東京電力に対する損害賠償請求は可能となっていますが、損害賠償請求の基準として作成された中間指針でさえ、半径20 km以内の警戒区域内に土地建物を所有する住民等の所有権侵害の有無については、明確な基準を定めていない他、多数の自主避難者の損害賠償請求の基準も先送りしています。

 他方、原子炉建屋の水素爆発が契機となって、大気中や海水に大量の放射性物質が放出され、放射能汚染が広範囲に広がったことから、中小企業を中心に、広範囲かつ多方面で予想を超える風評被害や間接損害が発生しました。その中には、マスコミの報道が契機となって風評被害が拡大したケースや、稻わらのケースなど、政府や地方自治体の事後的な対応の不手際が損害を拡大させたケースもあります。

 私が所属する第二東京弁護士会の会派の若手が中心となって「原子力損害賠償の実務」を執筆いたしましたが、編集の過程で、放射能汚染による風評被害等の損害を受けた中小企業は、それぞれのケース毎に、相当因果関係の立証について、きわめて困難な作業を強いられることがわかりました。

 被害額が大規模なケースや立証の困難なケースでは、東京電力への直接請求や原子力損害賠償紛争解決センターによる和解の仲介の他,最終的には訴訟提起による判決や和解での解決も選択せざるを得ない場合もあり得ると思います。このような困難な状況の中で、立証の困難さを恐れず、被害者救済に立ち向かうことこそが、本来の弁護士の姿ではないでしょうか。

以上     

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