弁護士コラムバックナンバー

聞く力

山田 康成

 私が所属している弁護士会の労働問題検討委員会は、毎年、「こころといのちの法律相談」という電話相談会を開催しています。私もこの相談会の開催に2011年度から現在まで関わっています。

この相談会を開催する目的は、心の悩みを抱えている相談者の悩みの原因が法律問題にある場合、その法律問題を解決することにより、心の悩みを少しでも解消し、自殺予防に役立てることを目的とするものです。この法律相談は、通常の法律相談と違い、精神保健福祉士の方が相談のバックアップをし、心の悩みを解消することが必要となった場合は、精神保健福祉士の方が交代して対応します。

精神保健福祉士は、精神科ソーシャルワーカー(PSW:Psychiatric Social Worker)という名称で、精神科医療機関を中心に医療チームの一員として導入された国家資格の専門職で、カウンセリングのプロフェッショナルです。精神保健福祉士の方は、心の悩みを持つ相談者の話を否定せず、相談者と一緒に考えながら、じっくりと傾聴します。精神保健福祉士の方の傾聴する姿を端からみると、その傾聴スキルの丁寧さに驚かされることが多々あります。

この相談会の相談担当者のための研修会を実施し、心療内科専門医の方のお話しを聞く機会がありました。相談者の話を十分に聞く前に回答すると、客観的にベストな回答をしたとしても、相談者は十分な納得感、安心感を得られないというお話しでした。カウンセリングに来る相談者は、アドバイスを求めているのではなく、話しを聞いてもらいたいと思って相談に来ている方が多いとのことです。相談者の話を真剣に聞き、相談者と一緒に考えることが大切で、「聞く」ことの、心にあたえる効用はとても大きいとのことです。

相談者は、弁護士に専門的知見に基づいたアドバイスを求めていますから、弁護士はなんらかの法的アドバイスをしなければなりません。しかし、相談者の話を少し聞いて、答えが見えてしまったからといって、相談者の話しを十分聞かずに回答しても、相談者の納得感を得られないのであれば意味がありません。また、十分話しを聞かずに、思い込みによる回答してしまう危険もあるでしょう。「聞く力」を高めることは弁護士には必須のスキルであり、このことを肝に銘じて研鑽していきたいと思います。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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