弁護士コラムバックナンバー
2022年07月

自分らしい最期を考える 〜任意後見・遺言・死後事務委任など

澤田 奈穗

1 はじめに

 以前、私は、老後や死について考えることは、なんとなく怖い気がして、避けていたように思います。

 しかし、後見や遺言などの業務に携わる中で、認知症の方、友人がみな亡くなり親族とは疎遠で、独居が寂しいという方、死が間近であると口にする方などと接するようになり、また、私自身が年齢を重ねたことからも、自然に、老後や死について考えさせられる機会が増えてきました。

 ずいぶん前になりますが、高校時代の友人がアメリカのホスピスで米国音楽療法士として働いていたとき、「ひとは1人で死んで行くものだ」と言っていたのが、今になって思い出されます。

 さて、現代では、近くに家族や親族がいない方、子どもがいない方も少なくありません。

 今パートナーと暮らしていても、いずれ先にパートナーが亡くなり一人になる方もいるでしょう。

 そのような方にとって、将来、認知症などで判断能力が低下したときには、自分のかわりに、財産管理や介護サービスを受けるための契約などをしてくれる人が必要となるかもしれません。

 また、自分が亡くなった後は、お世話になったあの人に財産を残したい、誰かに身の回りのものの処分をしてほしい、という方もいらっしゃると思います。

 さらに、自分が回復不能な末期の状態になったとき、過剰な延命治療を受けたくないといった尊厳死(安楽死とは異なります)を望む場合、どうしたらよいか。

 そこで、今回は、

 ・認知症などになったら、人に財産管理を頼みたい、

 ・死後、誰かに財産を残したい、

 ・死後、身の回りのものを処分してほしい、

 ・尊厳死を望む、

 このような意思に応える法制度について、なるべく簡単にお伝えしたいと思います。

2 任意後見

 将来、認知症などにより判断能力が低下したときに備え、予め自分が選んだ人に、代わりに自分の財産管理や介護サービス等をしてもらえるようにするのが、任意後見です。

 【任意後見の方法】

 自分の能力が十分のときに、将来自分の代わりに財産管理等を行ってもらいたい人と、任意後見契約を締結します。

 契約では、将来どのような事項の代理をお願いしたいのか、後見人にいくらの報酬を支払うのかも取り決めておきます。

 必ず公正証書にしておく必要があります。

 そして、実際に判断能力が低下し、家庭裁判所により任意後見監督人が選任されたら、初めて任意後見契約の効力が生じます。

 実際に、ここから自分の財産管理や介護サービスの契約等を任意後見人にやってもらうことになります。

 【任意後見のメリット(法定後見と比べて)】

 ①法定後見では家庭裁判所が後見人を決定しますが、任意後見では自分が選んだ人に後見人になってもらえます。

 任意後見は、自分の老後において親身になってくれて信用できるこの人に頼みたいという方にとって、おすすめです。

 ②また、近くに家族・親族が居ない方などの場合、最終的には区長による申立てにより法定後見制度で保護されるにしても、それまでの間、混乱して苦しむことがあります。

 前もって任意後見契約をしておき、その際に別途見守り契約などを結んでおけば、ケアマネージャーや地域包括支援センターとの連携が図られ、そのような事態を避けられます。 

3 遺言

 次に、自分が亡くなった後、自分の財産を望むとおりに(誰に、何を)残したい、その意思を実現してくれるのが遺言です。

【遺言を作るメリット】 

 まず、各相続人の法定相続分によらず、自分が望む方法で財産を分けることができます(ただし、相続人に最低限保障されている遺留分に注意)。

 また、遺言がない場合には、相続人の方々が、基本的には法定相続分により遺産分割協議をして財産を分けることになりますが、そこで争いになることも少なくありません。

 対して、遺言をしておけば相続争いを予防できる場合があります。

 相続人に相続手続の面倒をかけさせたくない場合には、遺言で遺言執行者を決めておくのがよいです。

 さらには、法定相続人以外の人、例えば、長年お世話になった友人、あるいは、親のいない子供たちをケアしている慈善団体や難民支援のNPOなどに寄付をしたいという場合、遺言が有用です。

【遺言の方法】

 遺言の方法には、主に公正証書遺言と自筆証書遺言があります。

 ①公正証書遺言

  これは、公証役場にて公証人が作ってくれます(出張も可)。

  内容が正確で、家庭裁判所での検認手続は不要です。ただし、通常数万円の費用がかかります。

 ②自筆証書遺言

   これは、遺言者が自分で遺言全文・日付・氏名を書き、押印します。

  作成が楽ですが、書き方を間違えると無効になります。

  相続開始後、家庭裁判所の検認手続が必要となり、これは面倒な点です。

  ただし、最近の法改正で、法務局による遺言書保管制度ができました。

  この制度では、遺言書の紛失や相続人による改ざんのおそれがカバーされることになり、また、費用も3900円でリーズナブルです。

  さらに、公正証書遺言では、死亡時に公証人から相続人に遺言書の存在を通知されないので、だれにも遺言の存在が分からず日の目を見ない可能性がありますが、この遺言書保管制度を使うと、死亡時に遺言書の存在を特定の人に知らせることができるので、遺言が実現されやすいことになります。

4 死後事務委任

 自分の死後、支援してくれる親族などがいない場合などに、第三者に対して、以下のような事務を委任するのが、死後事務委任です。

 ・最期の入院費や施設利用費など、債務の支払いをしてほしい。

 ・自分の葬儀、納骨、永代供養などを行ってほしい。

 ・借りていたアパートの退去手続をしてほしい。

 ・身の回りのものを処分してほしい。

【死後事務委任の方法】

 上記のような事務を委任したい第三者と、契約をします。

 契約で、具体的に何を頼みたいか、第三者にいくら委託料を支払うのかを決めておきます。

 任意後見契約を公正証書にする際に、任意後見契約をした人と死後事務委任をしておけば、便利です。

5 尊厳死宣言

 自分が将来、回復の見込みのない末期状態になったとき、生命維持治療を差し控える、または中止することで、人間としての尊厳を保たせつつ死を迎えることを尊厳死といい、それを宣言するのが尊厳死宣言です。公正証書にしておくとよいです。

6 おわりに

 自分らしい最期について考えるとき、上手に人に頼るということ、老後のお金のこと、日々どのように生きていたいかなどを必然的に考えさせられます。

 そして、そのことは、自分らしく生きるためのヒントになり得るのかもしれません。

 上記の各法制度の詳細についてご興味がある方は弁護士にご相談ください。

 自分らしい最期を検討する際に少しでもお役に立てれば幸いです。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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