フリーランス法の取扱いの実務上の重要ポイント
2024年11月1日から特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス法」といいます。)が施行されています。本コラムでは、フリーランス法の取扱いについての実務上の重要なポイントを、発注事業者に課せられる条文毎に説明します。
第1 フリーランスと発注事業者との間の取引の適性化
1 取引条件明示義務(3条)
(1)目的・趣旨
フリーランスに対して業務委託をした場合、発注事業者に直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務を課しています(3条)。
取引条件を文字化して、トラブルを未然に防ぐ趣旨で設けられた重要な義務です。
明示方法は、口頭での明示は許されず、書面または電磁的方法かを発注事業者が選ぶことができます(これを「3条通知」と呼びます)。発注事業者が選択できる点が下請法との違いです。
なお、3条通知の義務は「業務委託事業者」に適用があります。そのため、フリーランスからフリーランスに発注する場合にも適用されます。
(2)内容
3条通知により取引条件として明示する事項は以下の9項目であります。いずれも普通に契約する場合には、当然、定めておかなければならない項目です(3条1項及び公取規則1条)。
①給付の内容 ②報酬の額 ③支払期日 ④業務委託事業者・フリーランスの名称 ⑤業務委託をした日 ⑥給付を受領する日/役務の提供を受ける日 ⑦給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所 ⑧(検査をする場合)検査完了日 ⑨(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項 |
3条通知は、発注事業者がフリーランスとの間で業務委託をすることについて合意した場合に直ちに通知するものですが、あくまで文字により明示することを義務付けるものです。
そのため、契約書の作成を義務付けるものではありません。もちろん、契約書を3条通知とすることも可能であり、上記の項目が含まれている限りは、契約書とは別に改めて通知する必要はありません。
また、3条通知は、契約当事者が合意した内容を文字により示すものであり、発注者が一方的に決めた内容を通知したとしても、3条通知とは認められません。フリーランスの立場からすると、発注事業者が一方的に委託内容と通知してきた場合に、受け入れられない取引条件が記載されている場合には、黙示の合意があったと受け取られないよう速やかに異議を述べることが重要になります。
(3)通知の時期
業務委託をした場合は、直ちに、本法3条に定める取引条件の明示を行わなければなりません。
「業務委託をした場合」とは、発注事業者とフリーランスとの間で、業務委託をすることについて合意した場合をいいます。
「直ちに」とは一切の遅れを許さないという意味です。
すなわち、フリーランスに委託する合意があった際に、直ちに、書面又は電磁的方法により通知しなければならないのです。
もっとも、どうしても直ちに明確に出来ないことがありえます。
このような場合にまで明示が求められるわけではありません。
このような未定事項がある場合には、未定事項以外の事項を明示するほか、未定事項の内容が定められない理由及び未定事項の内容を定めることとなる予定期日を明示する必要があります(公取規則1条4項)。
また、発注事業者は当該未定事項について、フリーランスと十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、直ちに、当該未定事項をフリーランスに明示する補充の明示を行わなければなりません。
そして、補充の明示をする場合には、どの未定部分の補充なのかを明らかにして明示する必要があります(解釈ガイドライン第2部第1の1⑶ケ参照)。
発注するタイミングで具体的な内容が決まってないことは少なくありません。
例えば、ITのシステム開発の業務において、開発を発注するタイミングでは、具体的な詳細な内容は固まっておらず、業務が始まってから発注事業者とフリーランスがお互いに話し合いながら、仕様を固めていくことがあります。
このように正当な理由があるのであれば、それは発注のタイミングで、直ちに明示しなければいけないわけではなく、内容が定まったら直ちに明示するというのが本法3条の通知義務のルールです。
(4)3条通知の重要ポイント(委託する給付内容の明示)
フリーランスに委託する給付の内容については、3条通知により明確に示しておかないと、本法5条が定める禁止行為に該当するか否かの判断の際、不利になる可能性があることを発注事業者は十分に認識しておく必要があります。
本法5条では、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、
発注事業者が受領を拒否(同条1項1号)
報酬の減額(同2号)、成果物の返品(同3号)
不当な給付内容の変更・やり直し(同条2項2号)
をすることを禁止しています。
フリーランスが成果物を納品する際に、発注事業者が求めたものと違ったということで受け取りを拒否したり、受け取ったとしても報酬の減額を求めたり、成果物の返品をしたりするほか、繰り返しやり直しを求めたりすることがあります。
発注事業者の立場からすれば、フリーランスの仕事の内容が求めた内容に適合していないという理由によるものなのですが、それが本当にフリーランスの責めに帰すべき事由により適合しないものなのかが問われることになります。
その際、3条通知でフリーランスに求める給付の内容がそもそも明確になっていないと、フリーランスによる給付の内容が委託した内容に適合しないことがフリーランスの責任とされないので注意が必要です。
(5)どの程度、明確に通知しなければならないか
3条通知で給付の内容を明確にすることの重要性に鑑みると、給付の内容はどの程度、明確にする必要があるのかが問題となります。
この点について、パブリックコメントでは、給付の内容の記載は、フリーランスが当該記載を見て、その内容を理解でき、発注事業者の指示に即した給付の内容を作成又は提供できる程度の情報を記載することが必要と説明されています(パブリックコメント2-1-24)。
どの程度まで具体的に記載する必要があるかは、ケースバイケースの判断にならざるを得ないのですが、重要なのは、受託者であるフリーランスから給付の内容について問い合わせがあった場合には、迅速に、フリーランスに求める給付の内容に関する情報を提供することです。
仮に発注当初に明確に示すことが出来なくても、作業の進捗に応じて、発注事業者がフリーランスに具体的かつ明確に示すことがポイントとなります。
(6)知的財産権に関する注意点
著作権など知的財産権が発生する業務の場合、フリーランスに目的物を給付させる(役務提供の委託の場合、役務を提供させる)とともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えてフリーランスの知的財産権を発注事業者に譲渡、許諾させる場合には、3条通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡、許諾の範囲を明確に記載する必要があります(解釈ガイドライン第2部第1(3)ウ)。
(7)報酬の額及び支払期日(公取規則1条1項7号・同3条)
支払期日は具体的な日を特定しなければなりません。
支払期日を定めなかった場合には、給付を受領した日が支払い期日とされるので注意する必要があります。
報酬の額は具体的な金額を記載する必要があります。
ただし、例えば、時間単価、作業時間に応じて報酬が支払われるといった場合には、具体的な金額を記載することは困難なので、その場合には具体的な金額を算出するための算定方法を明示するという方法でも可能です。
その場合でも、具体的金額が確定した後には速やかに当該金額を明示する必要があります。
また、知的財産権の譲渡、許諾させることを含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を報酬に加える必要があります(解釈ガイドライン第2部第1(3)キ(ア)(イ))。
(8)費用負担
フリーランスが業務を遂行する際に発生する交通費等の費用に関して発注事業者が負担する場合には、その費用等の金額を含めた総額が把握できるように明示する必要があります。
逆に費用等の清算の有無について特段の明示がない場合には、3条通知に記載した報酬の額のみを支払う旨を明示したものとなることにフリーランスは注意が必要です(解釈ガイドライン第2部第1(3)キ(ウ))。
例えば、発注者事業者が指定するリース会社のリース料を勝手に支払って、その後、当該リース料をフリーランスに対する報酬から一方的に控除するという事例があります。
この場合、業務委託のタイミングで発注事業者が、フリーランスにリース料の負担をしてもらうことをきちんと明示し合意していたのであれば、報酬からリース料相当額を控除して支払うことはあり得ますが、そういった明確な合意がないのに、報酬から差し引くといった場合には、5条の禁止行為の報酬減額に該当する可能性があるので注意が必要です。
(9)基本契約がある場合の取扱い(公取規則3条)
基本契約と個別契約がある場合は、基本的事項を基本契約で最初に決めておき、その後、個別の発注をする場合があります。
そういう場合は、個別契約の都度、3条の通知義務が発生します。
その際、その都度、共通事項を明示することは不要ですが、あらかじめ明示した共通事項との関連性は明記する必要があります。
つまり、基本契約書のどこの部分を引用するということを示す必要があるということです。
そのほか、共通事項を明示するときには、共通事項の有効期間も合わせて明示する必要があります(解釈ガイドライン第2部第1(3)コ)。
(10)明示する方法(3条1項、公取規則1条5項及び2条)
発注条件の明示の方法は、発注事業者とフリーランス双方の利便性向上の観点から、
①取引条件を記載した書面を交付する方法、
②取引条件をメール等の電磁的方法により提供する方法、
のいずれかを発注事業者が選択できるようになっています。
事前にフリーランスの承諾を得る必要はなく、この点が下請法との違いです。
なお、電磁的方法により提供する場合、委託するフリーランスを「特定して」電子メール、ショートメッセージやソーシャルネットワーキングサービスのメッセージ機能を送信することに注意しなければなりません。フェイスブックの書き込みなどで、第三者に閲覧させることに付随して、委託する相手にメッセージを送っても3条通知とは認められないのです。つまり、フリーランスへのダイレクトメッセージでなければならないということです。
また、電磁的方法により明示した場合でも、フリーランスから求めがあった場合は、当該業務委託に係る報酬を支払うまでは、書面を交付しなければならない点は注意を要します(3条2項)。
2 報酬の支払期日等(4条)
(1)内容
フリーランスの給付を受領した日から60日以内、かつ、できる限り短い期間で支払期日を設定し支払う必要があります(4条1項)。
報酬の支払期日の定めがない場合には、給付を受領した日が支払期日とみなされます。
つまり、受領した日に即日払いとなるので注意が必要です。
給付を受領してから60日を超えて支払い期日を定めた場合であっても、受領した日から起算して60日を経過する日が報酬の支払期日とみなされます(4条2項)。
これらは下請法と同じ規制です。
(2)再委託の場合における支払期日の例外(4条3項及び4項)
フリーランス法では下請法にはない特例があります。
発注事業者が、他の者から受けた業務委託をフリーランスに再委託する場合は、他の者から発注事業者への報酬の支払期日から起算して30日の期間内に、発注事業者からフリーランスへの報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払うことができます。
ただし、この場合、発注事業者は、3条通知により、当該フリーランスへの委託は、再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日等を示しておかなければなりません。
なお、元委託者からの支払が予定する支払期日から遅れたとしても、当該フリーランスへの支払期日をそれに伴い遅らせることはできません。
具体的には、放送業界や映画制作の現場で多いですが、番組や映画が完成するまでは元委託者から発注事業者に報酬が支払われない場合があります。
そのような場合に、発注事業者がフリーランスに報酬を支払わなければならないとすると、発注事業者の資金繰りは困難になる場合があることに配慮して定められたものです。
3 特定業務委託事業者の遵守事項(5条)
(1)要件
本法5条では、下請法と同様に、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、正当な理由のないものの購入・役務の理由の強制、経済上の利益の提供の禁止、不当な給付の内容の変更・やり直しという7つの禁止行為が定められています。
5条については、1カ月以上の契約期間の業務委託の場合が対象となります(施行令1条)。
(2)契約期間の考え方
契約期間の始期は、以下のいずれかの早い時期をいいます。
業務委託に係る契約を締結した日(3条通知により明示する「業務委託をした日」) 基本契約を締結する場合には、基本契約を締結した日 契約期間の終期は、業務委託に係る契約が終了する日又は基本契約が終了する日のいずれか遅い日をいいます。 |
具体的には、3月1日に業務委託をし、委託された役務を1週間実施する場合であっても、役務提供の実施期間が1週間であるから5条の対象外となりません。
3月1日に業務委託をしていて、実際に役務提供するのは4月1日から4月10日だったという場合には、役務提供の終了日は、業務委託された日から1カ月を経過しているので、5条の対象となります。
したがって、実際には相当多くの業務委託が5条の対象になります。
(3)禁止行為の内容
ア 受領拒否の禁止(5条1項1号)
受領拒否とは、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと」をいいます。フリーランスの給付の一部を受領しない場合も含みます。
フリーランスとの間であらかじめ定めた納期に受け取らないことのほか、契約を解除して受け取らないことや、納期を延期して当初定められた納期に受け取らないことも含まれます。
フリーランスに帰責事由がある場合には、受領を拒否することは可能ですが、その帰責事由は限定的に定められています。
フリーランスの給付の内容が委託内容と適合していない場合や、給付が3条の通知に記載された納期までに行われなかったため、そのものが不要になってしまった場合に限られます。
もっとも3条の通知でそもそも委託する給付の内容が記載されていなかった場合や、不明確であった場合には、委託内容が不適合だという主張はできないことになります。
イ 報酬の減額の禁止(5条1項2号)
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を減ずること」をいいます。
減額の名目、方法、金額の多寡を問わず、業務委託後いつの時点で減じても本法違反となります。
例えば、合意なく振込手数料をフリーランスの負担として報酬額を控除するとか、単価引き下げ要求に応じないフリーランスに対して、引き下げに応じないならと言って、あらかじめ定められた一定割合を一方的に控除するとか、報酬の総額は変えなくても、発注数量のみ増加させたり、頼んでいる役務の内容を増やしたりすることも報酬の減額に該当します。
具体的な事例としては、違約金とか罰金という名目で報酬から控除されたという相談があります。
もともとフリーランスが、違約金や罰金の内容が契約書に記載されていることを理解して合意した場合はともかく、合意したこともないものを勝手に控除された場合は、報酬の減額の禁止に該当することになりましょう。
ウ 返品の禁止(5条1項3号)
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること」をいいます。
特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとして、返品することが認められるのは、特定受託事業者の給付の内容に委託内容と適合しないこと等がある場合で、かつ、一定の期間内に限られます。
次のような場合は、委託内容と適合しないことを理由として特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせることは認められません。
① 3条通知に委託内容が明確に記載されておらず、又は検査基準が明確でない等のため、特定受託事業者の給付の内容が委託内容と適合しないことが明らかでない場合 ② 業務委託後に検査基準を恣意的に厳しくすることにより、委託内容と適合しないとして、従来の検査基準で合格とされたものを不合格とする場合 ③ 給付に係る検査を省略する場合 ④ 給付に係る検査を特定業務委託事業者が行わず、かつ、当該検査を特定受託事業者に書面又は電磁的方法によって委任していない場合 |
返品可能な期間は、給付の内容に直ちに発見可能な委託内容の不適合がある場合には、受領後速やかに返品することが可能です。
もし、その不備の内容が直ちに発見できないような内容であった場合には、給付の受領後6カ月以内であれば返品可能です。
エ 買いたたきの禁止(5条1項4号)
「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること」をいいます。
買いたたきは、特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をする時点で生じます。
買いたたきに該当するか否かは、次のような要素を勘案して総合的に判断されます。
① 報酬の額の決定に当たり、特定受託事業者と十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法 ② 差別的であるかどうかなど対価の決定内容 ③ 「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離状況 ④ 当該給付に必要な原材料等の価格動向 |
判断要素に、特定受託事業者と十分な協議が行われたかどうかという点が含まれている点に注意が必要です。発注する価格は決まっているからといって、フリーランスと協議することなく一方的に価格を決めるような場合です。
オ 購入・利用強制の禁止(5条1項5号)
「特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させることにより、特定受託事業者にその対価を負担させること」をいいます。
具体例をあげれば、フリーランスに購入または利用しなければ不利益な取り扱いをすることを示唆して、何らかの物を購入させたり、サービスを利用させたりする行為が挙げられます。フリーランスが使う意思はないことを示したにもかかわらず、重ねて、サービスの利用や、物品の購入を強制することも禁止されます。
カ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(5条2項1号)
「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」により「特定受託事業者の利益を不当に害」することをいいます。
協賛金や協力金といった名目を問わず、報酬の支払いとは別の金銭の提供、作業への労務の提供等を求めるというのは禁止されています。
もっとも、何か経済上の利益を提供するのは、例えば協賛金を発注者に払うと、それによって業務委託にかかる物品の販売促進につながるなど、フリーランス自身の直接の利益になるといったこともあり得ますので、そういった場合であって、フリーランスが自由な意思によって提供する場合であれば、利益を不当に害するものとは言えません。
キ 不当な給付内容の変更・不当なやり直しの禁止(5条2項2号)
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(役務提供場合は、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること」により「特定受託事業者の利益を不当に害」することをいいます。
「給付の内容を変更させる」とは、特定業務委託事業者が給付の受領前に、特定受託事業者に3条通知に記載された「給付の内容」を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせることをいいます。業務委託を取り消すこと(契約の解除)も給付内容の変更に該当します。
「給付をやり直させる」とは、特定業務委託事業者が給付の受領後(役務の提供委託の場合は、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に、特定受託事業者に当該給付に関して追加的な作業を行わせることをいいます。役務提供の委託契約の解除も給付の内容の変更には該当します。
この場合も、発注事業者が、フリーランスの給付の内容に不満でやり直しを求めたとしても、フリーランスから給付の内容を明確にするよう求めがあったにもかかわらず、発注事業者が正当な理由なく給付の内容を明確にしていなかった場合は、やり直しを求めることはできなくなるので注意が必要です。
ただし、給付の内容の変更や、やり直しに必要な費用を発注者が負担するなどして、フリーランスの利益が害されない場合であれば、この禁止行為には当たりません。
情報成果物の作成委託の場合には、提供された給付の内容として正しいかどうか判断する際に発注者側の価値判断が入ります。
そのような場合にはやり直し等をさせるに至った経緯等を踏まえて、やり直し等の費用をフリーランスと十分協議した上で、発注側とフリーランス側でどういう割合で負担するのか決め、当該割合を発注者が負担するのであれば、フリーランス法上は問題にはならないのです。
第2 フリーランスの就業環境の整備
1 募集情報の的確な表示(12条)
(1)概要
フリーランスに募集する際には、
①虚偽の表示
②誤解を生じさせる表示を禁止するとともに
③募集条件を掲載する場合は正確かつ最新の内容にしておく
ことが求められます(これらを「的確表示義務」という)(法12条)。
フリーランスの募集情報を提供するときに意図して募集情報と実際の就業に関する条件を異ならせた場合や実際には存在しない業務に係る募集情報を提供した場合等には、虚偽の表示に該当します。
虚偽の表示でなくとも、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、誤解を生じさせる表示に該当します。
この規定に違反することになる表示の具体例として、厚生労働省の説明では、
・ 意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する(虚偽表示)
・ 報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する(誤解を生じさせる表示)
・ 既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける(古い情報の表示)などが挙げられています。
なお、フリーランスの募集に関する情報を提供する際には、それが最新の情報であるか判断できるように、当該情報の時点を明らかにして募集情報を表示する必要があります。
(2)的確表示義務の対象となる募集情報
的確表示義務の対象となる募集情報の内容は、具体的には、
①業務の内容
②業務に従事する場所、期間および時間に関する事項
③契約の解除に関する事項
④フリーランスの募集を行う者に関する事項です(施行令2条)。
そして、事項毎の詳細は、指針第2の1(4)に列挙されています。
しかし、フリーランス法は、これらの情報をすべて掲載することを義務付けるものではありませんが、このうち、
①特定受託事業者の募集を行う者の氏名又は名称、
②住所(所在地)
③連絡先
④業務の内容
⑤業務に従事する場所
⑥報酬(以下「募集を行う者の氏名・名称等」という。)
を欠くものについては「誤解を生じさせる表示」に該当するものとして12条違反となるとされています。
募集する発注事業者の立場としては、自らに有利なアピールポイントを中心に広告等に掲載することになりますが、それが本来の条件よりも良い条件になりすぎていないか、必ず募集した条件での発注がなされると誤解を招く表現になっていないか、掲載した情報は最新のものなのかを確認する必要があります。
特に、専ら労働者を募集する広告等により募集していた場合には、職業安定法違反に問われる可能性があるので注意が必要です。
(3)募集の方法
広告等による募集とは、1対1の関係で契約交渉を行う前の時点において、広告等により広くフリーランスの募集に関する情報を提供することを指します。
的確表示義務の対象となる募集情報の提供方法の中に、ファクシミリや電子メールなど、個別に送信するような方法も含まれているため(厚労施行規則第1条)、電子メールなどで働き手となるフリーランスを勧誘するような場合も含まれるのか問題となりますが、この点について、パブリックコメントでは、一つの業務委託に関して、二人以上の複数人を相手に打診する場合は、的確表示義務の対象に含まれると回答が示されています(政省令パブコメ3-1―1~2)。
従って、特定のフリーランスに個別に勧誘するメールを送る場合は対象とはなりません。
フリーランスとの業務委託契約は、労働者のように事業所における労働条件が均一ではない場合が多いです。
そのため、募集に応募したフリーランスとの交渉の結果実際に締結した契約内容が、募集した条件と異なる場合があります。
このような場合は、実際に、募集時に示した内容と条件が異なっている旨を十分に説明して、フリーランスがそれを理解したうえで契約締結すれば、的確表示義務に違反するものではありません。
2 育児介護等と業務の両立に対する配慮(13条)
発注事業者は、フリーランスと6か月以上の継続的な業務委託を行う場合に、フリーランスからの申出に応じ、就業条件に関する交渉・就業条件の内容等について、必要な配慮をしなければなりません。
なお、6か月以上でない業務委託をした発注事業者には、努力義務が課せられています。
指針では、発注事業者が行う必要な配慮の具体的な内容として、フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする、育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりするといった対応が挙げられています。
この配慮義務は、発注事業者に対して、フリーランスの申出に応じて、申出の内容を検討し、可能な範囲で対応を講じることを求めるものであり、申出の内容を必ず実現することまでを法律上求められるものではありません。
実施しない場合は、実施しない旨の伝達と、その理由をわかりやすく説明することが求められます。
実施しない理由は、合理的な理由が必要であることはもちろんです。
3 ハラスメント対策に対する体制整備(14条)
フリーランス法により発注事業者に求められるハラスメント対策の措置を一言で表すと、発注事業者の従業員と同様の措置を講ずることが必要であるということです。
発注事業者が、もともと労働関係法令に基づき整備していた社内の相談体制やツール等を、フリーランスにも同じように活用すればよく、新たに特別なツールを作成する必要はありません。
また、発注事業者は、フリーランスがハラスメントの相談を行ったことや、当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取り扱いをしてはならない点も同様です(14条2項)。
4 中途解除の事前予告・理由開示(16条)
継続的業務委託すなわち6カ月以上の契約の場合に関しては、少なくとも30日前に予告をして解約しなければなりません。
ただし、労働基準法が定める解雇予告手当の支払い義務のような規定はありません。
また、契約が終了する前に、フリーランスから契約解約の理由の説明を求められた場合には、遅滞なくその理由を開示しなければなりません。
16条の趣旨は、一定の契約期間を継続している場合は、発注事業者に対する依存度が高いことが多く、早く次の仕事先を見つける必要があるため、30日という時間の猶予を与えるというものです。口頭による予告は認められません。
契約の中途解約だけではなく、契約の不更新の場合にも適用があります。
16条の「解除」とは、発注事業者から一方的に契約を解除することをいいます。
両当事者の合意解約は、「解除」に該当しません。しかし、その合意が、フリーランスの自由な意思に基づくものであったか慎重に判断されることになります。
「災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合」には、30日前の事前予告をせずに即時に解約できます。
この中で、フリーランスの責めに帰すべき事由により解除する場合が含まれていますが、労基法20条の「責めに帰すべき事由」の考え方と同等程度に、限定的な理由に限られることになっている点に注意が必要です。
業務委託契約書に無催告解除ができる約定が定められ、その約定に基づき無催告解除する場合がありますが、この場合も、16条の「解除」に該当することになります。
単に契約書に定めた条項に該当するというだけでなく、その解除理由が、フリーランス法が定める30日前までの事前予告が不要となる例外事由に該当するものになっているかは慎重に判断されます。
継続的業務委託の中途解約を30日前に予告したとしても、民法651条2項1号の規律が排除されるわけではありません。
たとえ30日前に予告して継続的業務委託を解除したとしても、相手方であるフリーランスの不利な時期に委託契約を解約した場合には、損害賠償義務を負う場合もありうる点には注意が必要です。
また、フリーランス法においても、発注事業者の都合により業務委託契約を解除したことにより、フリーランスの給付の全部又は一部の受領を拒否した場合は、受領拒否の禁止事項に該当する場合があります。
役務提供の場合は、不当な給付内容の変更の禁止事項に該当する場合があります。
以上
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