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借地非訟事件の流れとポイント

弁護士・不動産鑑定士 友田 順

1 借地非訟

 借地非訟には、(1)借地条件変更申立事件(借地借家法17条1項)、(2)増改築許可申立事件(借地借家法17条2項)、(3)土地の賃借権(借地権)譲渡又は転貸の許可申立事件(借地借家法19条1項)、(4)競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(借地借家法20条1項)、(5)借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件(借地借家法19条3項、20条2項)がある。

 借地人(借地権者)が地主の許可なく勝手に借地権を譲渡すると、解除されてしまう。そこで、「お金を払うので許可して下さい」というのが、(3)である。

 (3)と(4)が申し立てられた場合には、土地所有者(地主)側から「他に譲渡するくらいなら、私(地主)が借地権を買う」と優先的に借地権と借地上の建物を買い取る権利が認められている(介入権)。

 また、この類型においては、地主側から付随処分として「地代を増額したい」という希望が出る場合も多い。

 あなた(貴社)が地主なら、譲渡承諾料は増額したいし、地代も増額したいだろう。

 介入権を行使するなら、介入権価格はできるだけ安く(減額)したいだろう。

 また、あなた(貴社)が借地人(借地権者)なら、譲渡承諾料は減額したいし、地代は減額(据え置き)したいだろう。

 介入権を行使された場合は、介入権価格をできるだけ高く(増額)したいだろう。

 私は弁護士であり、かつ不動産鑑定士でもあるのだが、「不動産に強い弁護士」とか、「借地権に強い弁護士」と言われることも多く、この手の事件についての知識と経験を深めてきたと自負している。

 以下では、あなたが望む結果に近づけるには、どのような知識が必要か、解説する。

2 借地上の建物の譲渡(賃借権の譲渡・転貸)の流れ

 実務上申し立ての数が多いのは、(3)の土地の賃借権(借地権)譲渡又は転貸の許可申立事件なので、この類型のポイントを解説する。

 この事件は、東京地方裁判所では、民事22部で扱われている。簡単な流れをいうと、借地権者(申立人)が民事22部に申立書を提出する。

 そうすると、裁判所が審問期日を定め、審問期日では、双方から意見聴取がされる(必要に応じて期日を開催)。

 書面で双方の意見が聴取された後、裁判所によって「鑑定委員」が選任される。鑑定委員は、主に弁護士と不動産鑑定士である。

 そして、3名の鑑定委員を構成員とする「鑑定委員会」が、現地調査を行った上で論点つまり

・借地権譲渡の許可を出すべきなのか

・許可を出すとして、譲渡承諾料(名義書換料)はいくらなのか

・賃料(地代)の額は変更すべきなのか

・建物及び借地権価格はいくらとすべきか

・介入権価格はいくらとすべきか

 について意見書を作成する。

 裁判官は、この鑑定委員会による「意見書」を非常に重視するので、当事者も、この内容をしっかりと理解し、場合によっては意見を出す必要がある。

3 土地賃借権(借地権)譲渡許可申立事件で「勝つ」こととは

 皆さんは、土地賃借権(借地権)譲渡許可申立事件は通常の民事訴訟とは違うから、厳密な「勝ち」「負け」はない、と思われるかもしれない。

 確かに、借地権者は、承諾料を払って譲渡が認められることが多いから、その意味で「負け」ではないし、地主側としても、土地価格上昇が見込まれる場面など、必要に応じ、介入権を行使することで借地権を取り戻すことができ「勝つ」ことができる。

 だが、ここで注意して欲しいのは、この事件には、譲渡承諾料、適正な地代(地代を変更すべきか)、建物及び借地権価格をいくらとすべきか、という「お金」の論点が複数含まれていることである。

 そして大事なことは、この「お金」の部分が、「鑑定理論」によって決まっている、ということである。

 私は、「法理論」と「鑑定理論」を駆使して、あなた(貴社)の望む経済的結果に最も近い解決を得ることが「勝つ」ことだと思う。

4 鑑定理論

(1)譲渡承諾料

 譲渡承諾料は、いわゆる名義書換料として慣行化しており、概ね、借地権価格の10%程度とされている。

(2)借地権価格

 そうすると、借地権価格はいくらか、という話になるのだが、この借地権価格を求めるために、前提として更地価格を求める必要がある。

 更地価格を求める手法は複数あるが、実務的に言ってしまうと、近くの公示地(基準地)の価格を見つつ(規準)、取引事例比較法で近隣地域の標準的使用における標準価格の査定をして、個別的な格差の修正をして求める(他の手法を用いる場合もある)。

 個別格差とは、例えば、「不整形だから-1%」とか、「広すぎるから-5%」といった修正のことである。

 このように更地価格が決まったら、次に借地権価格を査定する。

 借地権価格を査定する手法は、(A)借地権割合法と(B)賃料差額還元法を用いることが多い。

 (A)の借地権割合法は、地元精通者意見による堅固/非堅固の借地権割合がどれくらいか、あるいは国税局の財産評価基準路線価図における借地権割合がどれくらいか、を見つつ、対象不動産の借地権割合を査定する手法である。

 こちらは更地価格に割合をかけて借地権価格を出すので、比較的理解しやすい。

 (B)の賃料差額還元法は、難しい。こちらは計算上、(不正確な表現だが)「あるべき地代」を査定した上、この「あるべき地代」(正常実質賃料(地代))と、現実に払われている賃料(地代)(実際支払賃料)との差額を求めて、その差額のうち、取引の対象になっている部分を還元して借地権価格を査定する手法である。

 ここまで計算して、ようやく借地権価格が算出される。

 そこで、その10%であるところの譲渡承諾料(名義書換料)の査定もできることになる。

(3)地代

 付随処分として地代の増額が議論されている場合には、公租公課倍率法や活用利子率によって地代を試算したり、同一需給圏内の地代の事例を収集して、現行地代が「高い」のか「安い」のかが、決められる。

 ここでも、地代に関する手法の理解(「鑑定理論」)が不可欠である。

(4)介入権価格

 介入権価格は、「借地権価格-譲渡承諾料-借家権価格+建物価格-市場性減価=介入権価格」という計算式で求めることが多いが、この計算式のいずれの数値を求めるにも「鑑定理論」の理解が必要であることは、ご理解いただけると思う。

5 まとめ

 以上説明したとおり、この事件には、譲渡承諾料、適正な地代(地代を変更すべきか)、建物及び借地権価格をいくらとすべきか、という「お金」の論点が複数含まれている。

 そして、この「お金」の部分の主張立証には、「鑑定理論」が必須である。

 私は、これらの論点について、「法理論」と「鑑定理論」に基づいて、裁判所に対し必要十分な説明をし、場合によっては鑑定委員会の意見書に更に意見を述べることで、あなた(貴社)の望む経済的結果に最大限に近づけることが「勝つ」ことだと考えている。

 また、「鑑定理論」の理解があれば、事前に「どういう結論になるか」の予測も立て易いだろう。

 非常に専門的な知識が必要になるため、不動産に詳しい弁護士への相談をお勧めする。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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