弁護士コラムバックナンバー

賃料増額請求の対応

弁護士・不動産鑑定士 友田 順

1 条文・制度の概要

 最近、賃料増額請求のご相談がかなり増えてきた。

 アフターコロナのトレンドだと思う。

 ここでは、賃料を増額したいと考える方や、逆に増額請求をされたがどう防御すべきなのかと考える方に対し、条文・制度の概要や理論的な背景をご案内したいと思う。

 まず全ての基本となる条文だが(法学は常に条文がスタートラインである。)、借地借家法32条1項本文は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定めている。

 ここでは、公租公課の変動、土地・建物の価格の変動その他の経済事情(物価変動、国民所得水準の変動等)、近傍同種の建物賃料との比較により不相当になった場合、賃料増減額請求権が発生すると規定されている。このように、借地借家法上はややざっくりとした規定ぶりになっているのだが(そうは言っても、法が経済事情の変動として公租公課の増減等を明示的に例示列挙したことは各手法の適用の過程や試算賃料の調整にあたり重視されるべきように思う。)、実際には、より具体化された理論である不動産鑑定評価基準が定める継続賃料についての鑑定評価手法(4種類)に基づき継続賃料は決定される。そのため法理論もそうだが鑑定理論も重要ということになる。

 具体的な手続としては、調停前置主義なのでまず調停が実施され、不調停(不成立)の場合には訴訟で適正額を争うことになる。直近合意時点が争われる事案も多い。

2 鑑定理論

 不動産鑑定評価基準上、継続賃料の鑑定評価基準は、「現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域もしくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の経緯の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意して決定する」とされている。

 そして、具体的な手法として、①差額配分法、②利回り法、③スライド法、④賃貸事例比較法の4つが定められている。

①差額配分法は、鑑定評価基準では、「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法」とされている。

 基準そのままの表現だと少しわかりにくいが、この手法を簡単にいえば、「新規賃料を求めて、それと現行賃料の差額のうち一定割合を現行賃料に加減する」という手法である。

 差額のうち現行賃料に加減されるのは、多くの事案において1/2である。

 ②利回り法は、「基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法」である。

 これは、不動産の価格が「りんごの木」だとしたら、賃料はその木になる「りんご」なので、そのような両者の関係性を根拠として、簡単に表現すると「価格から出発して、価格に利回りを乗じることにより、賃料を求める手法」である。

 ③スライド法は、「直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法」である。

 この手法は、現行賃料(のうち純賃料)に各種指数(物価等)や不動産インデックス(賃料指数、建物価格指数等)から求めた変動率を乗じることで賃料を求める手法であるが、どうしてもマクロ的な判断になりやすく、試算賃料の調整において手法の中で重視される度合いはどうしてもあまり高くない傾向にはある(ただし、各手法間に優劣はないことに留意が必要である。)。

 ④賃貸事例比較法は、「多数の継続賃料の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るすべての経済的対価をいう。)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法」である。

 この手法は実際の事例に着目した実証的な手法であり、もし適用できた場合の信頼度は高いはずなのだが、現実には、継続賃料の事例資料を収集することがかなり困難であるため、適用が断念される場合も多い。

 4手法あるが、実際には、差額配分法と利回り法が重視されやすい傾向にあると思う(なお、あくまで傾向である。というのは、鑑定評価基準には、4手法を「関連づけて」決定せよとあるので、この文言からは、本来は4手法を同等程度に重視するのが原則になるべきと思われるからである。)。

 差額配分法というのは、新規賃料から出発する手法だから、新規賃料が増額すれば、導き出される継続賃料も増額方向になりやすい。

 利回り法は、不動産価格から出発する手法だから、価格が上昇すれば、果実たる継続賃料も上昇方向になる。

 このように、継続賃料を考えるに当たっては、価格や新規賃料の分析が必須となる。

 なお、差額配分法が重視されることと関連するが、継続賃料は、新規賃料の水準には至らないことがほとんどである。

 この点も、交渉において留意しておく必要がある。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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