ほったらかしの農地、これからどうする? ~改正農業経営基盤強化促進法を踏まえた農地バンクの利用〜
1.はじめに
本コラムは、相続等によって農地を保有しているけれども、現在利用しておらず、保有農地をどうしたらいいか悩んでいる方はもちろん、現在農業を営んでいるご高齢の方やそのご家族の方で、リタイアについて考えている方、反対に、利用されていない農地を活用して、日本の農業を盛り上げていきたいという方に向けて、農地の賃借について説明するものです。
なお、説明の中で、令和4年5月27日公布の農業経営基盤強化促進法改正についても触れています。
2.日本の農地問題
農地の利用方法を説明する前に、現在の日本の農業・農地の状況を見てみましょう。
株式会社三菱総合研究所の調査では、「2050年に耕地面積が270万ha(2020年420万ha)、農業生産額が4.5兆円(2020年8.9兆円)、農業経営体が18万経営体(2020年107万経営体)まで縮小し、カロリーベースの食料自給率は29%まで低下する」と予想されているとし、「2050年に現状並みの食料安全保障の度合いを維持するために必要な農業生産基盤は耕地面積350万ha・農業生産額8兆円・農業経営体21万経営体」であると計測されたとします(株式会社三菱総合研究所「【提言】食料安全保障の長期ビジョン2050年・日本の農業が目指すべき状態」(令和6年7月31日)(令和6年10月29日最終閲覧)。
項目 | 2020年 | 2050年 |
耕地面積 | 420万ha | 270万ha |
農業生産額 | 8.9兆円 | 4.9兆円 |
農業経営体 | 107万経営体 | 18万経営体 |
食料自給率 | 37% | 29% |
このような農業基盤の脆弱化の原因としては、農業就業者の5割以上を占める60歳世代が高齢化等によりリタイアすることに加え、農地などの経営資源や農業技術が承継されないことや労働力不足などが挙げられており(農林水産省「荒廃農地の現状と対策」(令和6年4月)、これらの解消が今後の課題となっています。
3.農地に関する法律
(1)総論
現在、農地を利活用する方法としては、以下の3つがあります。
① 農地の売却(農地法3条) ② 農地の転用(農地法4条・5条) ③ 農地の賃貸等(農地法3条、農地中間管理事業の推進に関する法律(以下「農地中間管理事業法」といいます。)7条及び農業経営基盤強化促進法(以下「基盤法」といいます。)4条3項) |
今回は、この中から、農地の賃借について、説明します。
(2)農地の賃借方法
ア.農地法の原則
まず、農地は、宅地等とは異なり、当事者間で勝手に賃借することはできません(農地法3条)。賃借する際には、必ず法律で定められた手続を経る必要があります。
なお、このような手続を経ていないものは、いわゆる「ヤミ小作」と呼ばれ、刑事罰(農地法64条1号)の対象ですのでご注意ください。
法律の手続としては、以下の3つです。
① 農地法3条の許可 ② 利用権設定(相対契約)(基盤法) ③ 農地農地中間管理機構を介した農地の貸し借り(農地中間管理事業法) |
イ.各利用割合
令和2年度に行われた調査では、利用権設定が8割を占め、一番多く、次いで、農地中間管理機構を介した賃借、農地法3条許可との順になっています政府統計の窓口案内「令和2年農地の権利移動・借賃等調査結果の概要」(令和5年2月15日)。
ウ.各方法の詳細
各手続について、簡単に説明します。
(ア)農地法3条の許可
農業委員会に申請し、許可をもらうことで賃借する方法です。
許可を得るためには、全部効率利用要件、農作業常時従事要件、地域との調和要件などの要件を満たす必要があります。
(イ)利用権設定
農地を貸したい方と借りたい方が賃借料や契約期間等について直接調整を行い、その内容を市と農業委員会が審査して公告することによって、農地の貸し借りの権利が設定されるものです。借り手及び対象農地について要件があります。
(ウ)農地中間管理機構を介した賃借
農地中間管理機構(農地バンク)が、農地管理事業に基づき、農用地等の貸付を希望する農地所有者から農地を借り受け、農業経営の効率化や規模拡大を希望する受け手(耕作者)に貸し付ける制度です。
a.農地管理事業について
そもそも、農地中間管理事業は、以下の❶から❻の仕組みとして創設され、平成26年度に、都道府県ごとに農地バンクが設置されました。
❶地域内の分散・錯綜しており担い手に集約する必要がある農地や耕作放棄地を借り受け、 ❷必要に応じ、基盤整備等の条件整備を行い、 ❸借り受けている農地を管理し、 ❹まとまった形で転貸し、 ❺その後、再配分機能による集約化を実現する |
b.賃借方法
農地バンクを介して農地を賃借するに当たっては、農地バンクが多数の農地所有者から農地を借り入れて、それを、まとめて耕作者に貸し出す(転貸する)ことになります。
すなわち、農地所有者と農地バンクとの間で契約を締結し、農地バンクと耕作者との間で、更に契約を締結することになります。
農地を無償で貸し付けることも可能です。
なお、面積の小さい土地や土地の一部であっても、農地バンクの利用は可能です。
c.農地バンク利用のメリット
以下のメリットがあげられます。
貸し手 | ・賃料の確実な振込 ・貸付期間終了後の農地の返却 ・農地バンクに貸し付けた農地についての税制優遇 |
借り手 | ・まとまった農地を長期間、安定的に仮受 ・複数所有者から農地を借りる場合であっても、賃料支払や契約事務について、農地バンクが契約を一本化(煩雑な手続の大幅カット) ・農地バンクによる貸し手の相続時の対応(農地バンクにおまかせ) |
エ.小括
以上が農地の賃借方法となります。
(3)基盤法改正
ア.改正内容
上記2の日本の農業の課題を解決するために農業の集約化をより一層目指す必要があるとして、令和4年5月27日に改正基盤法が公布され、令和5年4月に施行されました。
そして、同改正により、令和7年3月末日をもって(対象となる農地を含む地区で「地域計画」が策定されている場合にはその策定日の前日まで)、この②利用権設定が③の農地中間管理機構を介した賃借に統合(②が廃止)されることとなりました(地域によっては、手続上、令和7年1月・2月まで等とするところもあるため、よくご確認ください。)。
上記⑵のとおり、②利用権設定契約は8割以上を占めていたことから、実務上、大きな変更となります。
これにより、令和7年4月1日以降、農地の賃借方法は、以下の2つになります。
① 農地法3条許可 |
② 農地中間機構を介した賃借 |
もっとも、農地法3条許可の件数は多くないため、実質的には、③農地中間機構を介した賃借に一本化される形となると思われます。
イ.改正への対応
そうなると、農地所有者及び耕作者は、令和7年4月1日から、現在締結している利用権設定契約を、農地バンクを介した契約に変更しなければならないのでしょうか。
また、これから農地を賃借する場合には、利用権設定契約を締結することはできないのでしょうか。
これに対する回答としては、「令和7年4月1日以前に締結するものについては、利用権設定契約の締結・更新を選択でき、同日以降もそのままである。ただし、次回の更新時点において、農地バンクを介した契約に変更する必要がある。」ということになります。
したがって、令和7年3月末日(地区によってはそれよりも早い日にち)までに契約を新たに締結する者及び契約期間が満了し、更新の必要がある者は、②利用権設定契約と③農地バンクを介した契約の2種類を選択することができます。
いずれを選択するかは、上記で紹介したメリットと以下のデメリットを比較して決定するのがよいと思います。
・物納ができないこと ・手数料が発生する場合があること(都道府県ごとに決められており、農地所有者、耕作者の双方から徴収します。ただし、補助金の関係から、現状無償とするところもあります。なお、使用貸借契約の場合には発生しません。) ・市街化区域では、農地バンクを利用できないこと ・借り手が見込めない地域での農地バンクの利用は難しいこと |
参考となる資料
農林水産省・農地バンクPR動画(令和6年10月29日最終閲覧)
農林水産省「農地中間管理機構」(令和6年10月29日最終閲覧)
国土交通省不動産・建設経済局 住宅局「『農地付き空き家』の手引き〜田園回帰等の移住促進に向けて空き家や農地を地域資源として活用〜」(平成30年3月作成(令和6年10月改訂))(令和6年10月29日最終閲覧)
農林水産省「所有者不明農地の活用について」(令和6年10月29日最終閲覧)
農林水産省「農地相続ポータル」(令和6年10月29日最終閲覧)
eMAFF農地ナビ(令和6年10月29日最終閲覧)
以上
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