弁護士コラムバックナンバー

市街地再開発事業

小林 弘卓

 目下、都内は再開発ラッシュであり、この種の法律相談もかなり多い。

 相談者の多くは、いかに自分に有利な権利主張ができるかを質問してくる。

 ところが、中には、再開発で棚ぼた的に儲けることはしたくない、という人もいる。

 潔い考え方で共感はするものの、このような考えに対してもう少し深く考えてみたい。

 先ずは、市街地再開発事業の登場人物について。

 再開発の区域内の地権者(所有者や借地権者)が組合員となり、再開発組合を構成する。

 事業施工者は、この組合だから、借家人はもとより地権者も、再開発組合を相手として権利関係の調整を行うこととなる。

 ただし、ここで注意しなくてはならないのは、再開発組合は大手デベロッパーに牛耳られているということである。

 組合員は地権者であり、その中から、理事が選ばれ、定款が作られる。

 ただし、大抵の地権者たちは、およそ不動産開発の素人であるから、彼らだけで事業を進めていくことなどできない。

 ここに、デベロッパーが登場してくる。

 もちろんデベロッパーは、慈善活動で参加するわけではなく、再開発によって得られる利益を求めて参入してくることはいうまでもない。

 デベロッパーは、予め再開発地区の所有権を取得して、地権者として参加することもあれば、組合に対して経済的貢献をすることで参加組合員となることもある。

 また、傘下の不動産コンサルタント業者や懇意のゼネコンを連れてきて、再開発事業を強力に推進していくのである。

 では、デベロッパーのうまみは何かといえば、主にいわゆる保留床を売値よりも安く買い、これを売却して利益をだすわけである。

 再開発では高層のレジデンスやオフィスビルが建設されるから、地権者たちに割り当てられる権利床以外にも多くの床が生み出される。

 例えば、レジデンスでは、最上階に200坪、300坪の部屋をつくり、これをデベロッパーが取得して、何十億円もの価格で、世界の富裕層に売却されることになる。

 こういった物件は高額であるから市場に出回ることはない。

 そもそも再開発事業のスキームは、再開発によって余剰の床を生み出し、これをデベロッパーに売却し、そのお金を原資として高層ビルを建築し、周辺環境をととのえ、地権者たちに権利変換や各補償をするということである。

 そして、再開発により税収の増加が見込まれるから自治体も補助金をだすことになる。

 だから、経済的に見れば市街地再開発では、地権者らの利益とデベロッパーの利益とのせめぎあいなのである。

 そうだとすれば、地権者や借家人が自らの最大限の利益を求めようとすることは極めて経済的合理性のある行動であるはずである。

 だから、この利益対立の構図を十分認識したうえで、自らの態度を決めることをお勧めする次第である。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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