「ちいかわ」の草むしり検定はいかなる資格か
1 ちいかわが草むしり検定5級に合格
ちいかわ(ナガノ『ちいかわ』、X(旧Twitter)連載、単行本は講談社)が草むしり検定5級に合格したことが話題である。
Yahoo!ニュースにも載ったので、ご覧になった方もいるであろう。
草むしり検定5級とは、草むしりに関する試験であり、『ちいかわ』の主人公であるちいかわが、2度の辛酸を舐め、3度目に挑戦していた。
ちいかわは、作内では同種個体の中では愚鈍なものとして描かれており、実際に、初回受験の際に、友人であるハチワレは、ちいかわより後に勉強を始め、しかも、古本屋で明らかに古い参考書又は問題集一冊を入手したのみで合格している(2巻14頁、21頁)。
ちいかわは、連載時からカウントすると2020年8月から5年弱を費やしてこの度合格し、話題になったもので、弁護士ドットコムからは司法試験と比較する記事も出ているが、ここでは、そこまで苦労して合格した草むしり検定はいかなる資格なのかについて、法的性質も交えて分析してみる。
2 基本データ
(1)段階
草むしり検定「5級」というからには、少なくとも1級から5級は存在するものと思われる。
ハチワレが4級に言及している他(4巻121頁)、うさぎが、ちいかわ及びハチワレの受験時点で3級に合格していること(2巻20頁)、ちいかわの5級と同時かそれ以前に2級に合格していることが明らかにされており、サンリオのキャラクターであるポムポムプリンが1級を所持していることも判明している。
5級より下が存在するのか、1級より上(段位)が存在しているのかは明らかではない。
(2)合格率
草むしり検定5級の合格率は、ちいかわ初回受験時のハチワレ受験番号近辺(90番~110番)は15/21(71%)(2巻22頁)、ちいかわ3回目受験時のちいかわ受験番号近辺(73番~127番)は30/55(54%)(2025年7月3日ポスト)であり、合格率が極端に低い試験ではない。
(3)受験資格
作中では、受験資格に制限があるという描写は存在しない。
また、現実の司法試験のような受験資格を得てからの受験可能年限があるという描写も存在しない(司法試験法4条参照)。
(4)試験内容
草むしり検定の問題文そのものは作中で描写されていないが、「草むしり模試」が、ただちに採点されていること(2025年4月3日ポスト)からすると、選択式ではないかと推測される。
3 法的性質
(1)付与主体
現実の資格であれば、付与主体の別によって、国家資格、公的資格、民間資格等の別が存在するが、そもそも「ちいかわ」の世界には国家や政府が存在するという描写が存在しない。
代わりに、ちいかわ等を管理する立場であると思われる「鎧さん」と呼ばれる人型の生命体が存在し、「鎧さん」には階級構造が存在することが明らかになっているが、これらの生命体の立場や、ちいかわ等の他に「鎧さん」の社会が別途存在するかは明らかではない。
ただ、草むしり検定の試験監督は、「鎧さん」と思われる、人型の手を有する者において行われている描写があり(2巻19頁)、「鎧さん」側が実施していることから推測すれば、何らかの公的な資格であると考えて良さそうである。
(2)独占資格であるか
現実の資格には、独占資格とそれ以外(非独占資格)が存在する。
例えば、日商簿記検定や、英検などは、非独占資格である。
これに対し、独占資格には、業務独占資格と、名称独占資格が存在する。
前者は、ある業務については資格を有さなければこれを行ってはならないという場合の資格であり、弁護士などが該当する。
他方で、名称独占資格は、業務を行うことはできるが、当該名称を名乗ることは許されないという効果を有する資格であり、保育士などが該当する。
草むしり検定はどうであろうか。
「検定」という名称は、非独占資格を想起させるが、必ずしも、名称と、独占資格であるかどうかは直結しない。
例えば、モーターボート競争法(昭和26年法律第242号)を受けたボート、モーター、選手、審判員及び検査員登録規則(昭和26年運輸省令第77号)11条は、「競走に出場する選手(以下「選手」という。)の登録の申請は、競走実施機関の行う資格検定試験に合格した者でなければ行うことができない。」として、「資格検定試験」合格者のみがモーターボートの選手に登録できるとしている。
業務独占資格といってよいであろう。
作中では、草むしり検定に合格すると、報酬が増えることが示唆されている(2巻15頁)。
ちいかわ世界では、草むしりを行い、これを「鎧さん」に買い取ってもらうという仕組みが採用されているが(2巻50頁)、ハチワレが「危険草」をむしったところ、エリア「E」には存在しないはずのものであり、報酬がアップされた、という描写があった。
ここで、「エリア『E』」という語に注目したい。
2巻50頁時点でのハチワレは5級所持者であり、エリア「E」での草むしりを行っている。
他方、ちいかわは草むしり検定5級合格前も草むしりを行っている(1巻44頁)。
「E」が5番目のアルファベットであることからすると、草むしり検定は、級に対応したエリア(1級であればA)での業務が可能になる資格と推測できる。
このように、段階が存在し、かつ、業務独占が定められた資格としては、一級建築士(構造設計一級建築士)に業務独占を定める建築士法(20条の2等)等がある。
草むしり検定5級というと、英検5級(中学初級レベル)や漢検5級(小学6年生レベル)を想起し、ちいかわの愚鈍さに思いを馳せてしてしまうが、五級草むしり士だと思えば、有り難みが増すというものである。
(3)「合格証」の存在
このように、草むしり検定は業務独占資格であると推測したが、そのような推測を補強するのが、「合格証」の存在である。
草むしり検定の「合格証」は、写真付きで、級が表示されている(2巻20頁等。表面の情報はそれだけであるが、裏面については描写されていない)。
各「エリア」に、資格者以外が入ることを防止するためには、本人確認ができる必要があり、「合格証」は、写真付きであることが必要である。
描写はないが、「エリア」の中では携帯義務も課せられていると思われる。
身分証明書を兼ねているのであろう。
このようなものとして、運転免許証が存在する(写真につき、道路交通法93条3項、道路交通法施行規則19条3項。携帯義務につき、道路交通法8条4項)。
ちいかわ初回受験時に合格したハチワレの悲しい顔の写真(2巻24頁)も、ちいかわ合格時の、現実感がなさすぎて焦点があっていない目の写真(2025年7月8日ポスト)も、このような機能のために貼られているものと考えられるのである。
以上
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