第三者委員会と弁護士倫理
ここ数年、弁護士会での弁護士倫理に関する仕事が増えました。
最近、関わることが多くなった問題としては、第三者委員会に関するものがあります。
企業や組織から第三者委員会や調査委員会に加わることを依頼された弁護士が、自らが委員として関与した案件に関する訴訟事件について、企業や組織の側から依頼を受けて訴訟代理人となることが弁護士倫理に反しないかというものです。
この場合の訴訟の相手方は、調査に協力した関係者が典型です。
弁護士なのだから中立・公正だと思って調査に協力したのに、後に自分が訴訟の当事者(原告ないし被告)となり、相手方となる企業や組織の側にその弁護士が付いて敵対するということになれば、調査に協力した関係者が不満に思うのも不自然ではなく、そのことが弁護士倫理違反にまでなるのかという問題です。
過去の裁判例では、会社が、取締役らの金品受領問題等に関して設置した第三者委員会から再発防止策の提言等を受けた後、取締役らの損害賠償責任について4名の弁護士に委嘱して取締役責任調査委員会を設置した事案があります。
会社は取締役責任調査委員会について、独立性を確保した利害関係のない立場にある社外の弁護士から成る委員会である旨を公表し、当該調査委員会は、取締役らに対し、文書により金品受領問題等に関する事情聴取に協力するよう要請しました。
その文書には、事情聴取の結果は、会社の取締役らに対する責任追及訴訟において証拠として用いられる可能性がある旨の記載がされていました。
その後、取締役責任調査委員会の報告書を受けた会社が当該調査委員会委員の弁護士らを訴訟代理人として取締役らに対し損害賠償を求める訴訟を提起したところ、当該調査委員会の委員であった弁護士らに対して訴訟行為の排除が申し立てられました。
大阪高等裁判所は、取締役らは当該弁護士らの独立かつ中立・公正な立場を信頼し、その事情聴取に応じたのであるとし、弁護士法25条2号及び4号の各趣旨に反するとして各号の類推適用により訴訟行為を排除しました(大阪高決令和3・12・22)。
しかし、最高裁判所は、本件責任調査委員会は、金品受領問題等に関し、会社が取締役らの会社法423条1項に基づく損害賠償責任の有無等を調査、検討するために設置したものであること、取締役らにおいても、本件責任調査委員会の名称及び設置目的並びに上記文書の記載に照らし、本件責任調査委員会が会社のために上記の調査等を行っており、事情聴取の結果が会社の取締役らに対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があることを当然認識していたというべきであるとして、弁護士法25条2号及び4号の類推適用を否定しました(最決令和4・6・27)。
この問題は、弁護士会では、懲戒問題として取り上げられることが多いと思います。
その場合、弁護士の誠実公正義務違反、品位保持義務違反、利益相反という点が問題となります。
この種の依頼がなされた場合に訴訟の代理人になるか否かは、弁護士としての職務の中立性や公正性への信頼を確保するという観点から、委員会の目的、構成及び態様、当該弁護士の立場、依頼内容、活動内容、対外的な説明の内容、当該関係者への説明の内容、代理する事件の性質や内容、当該事件における活動内容等諸般の事情を総合的に考慮して、慎重に検討する必要があります。
この問題は、事例毎に個性・特性があり、形式的・画一的な判断ができず、許否の見極めが容易ではありません。
上記の裁判例でも、高裁と最高裁では異なった判断がなされています。
責任を回避するということだけを考えれば、消極的な判断が無難ということになりそうですが、他方で、依頼者の期待に沿えなくなるという葛藤があり、この点が実際の判断の難しさだと思います。
類似の問題として、内部通報の窓口を担当した弁護士が、通報に関する事件を受任できるかというものがあり、個人的にも、過去に顧問先の企業の内部通報窓口の担当をお断りしたことがあります。
第三者委員会に限らず、弁護士が調査業務ないし調査に類似する業務を行う場合、共通の問題に接することは稀ではなく、留意が必要となります。
なお、本コラムの意見にわたる部分は、弁護士会の見解を示すものではなく、筆者の個人的な意見です。
以上
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