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花王による米国オリベヘアケア社の買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年2月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1. はじめに

  花王株式会社(以下「花王」という)は、2018年1月19日付で、米国100%子会社Kao USA inc.を通して、米国Oribe Hair Care社(以下「米国オリベ社」という)と買収契約を締結した。

 花王といえば、日本を代表する消費財メーカーであり、2018年2月1日に発表した決算短信では、2017年12月期の連結売上高1兆4894億2100万円、営業利益2047億9100万円と発表している。その中でも、化粧品から、洗顔料や全身洗浄料などのスキンケア・ボディケア製品、シャンプー・コンディショナーなどのヘアケア製品やヘアスタイリング剤などのビューティケア事業の連結売上高は5860億円で、連結売上高全体の4割近くに達しているが、ビューティケア事業の営業利益率は9.8%で、2017年度からの中期経営計画「K20」で目標としている営業利益率17%に及んでいない。

 そのため、ビューティケア事業の中でも特に営業利益の低迷している化粧品事業の再構築は、中期目標達成のための喫緊の課題であったといえるであろう。

 他方、報道によると、米国オリベ社はトップモデルや女優を顧客として多数もつカリスマスタイリストであるオリベ・カナレス(Oribe Canales)氏が2008年にダニエル・カーネ(Daniel Kaner)氏と共同で設立した会社である。主力商品はサロン向けの高級シャンプーなどのヘアケア商品のほか、スキンケアやメーキャップも展開するが、直近の売上総額は推定で約113億円といわれている。

2. 買収の仕組み

 米国オリベ社の買収は、花王の米国100%子会社であるKao USA inc. が米国オリベ社の株式を取得したものと推測されるが、買収形態や買収価格は非公表である。買収価格は「500億円程度」と報道されているが、契約条件は明らかにされていない。

 ただし、米国オリベ社の売上高が113億円程度と仮定すると、その企業価値からみて極めて高い買い物と言わざるを得ず、買収価格の大部分は暖簾になるものと思われる。

 2017年12月期の花王の営業利益額から見れば、今回の買収が花王の決算に与える影響はそれほど大きくないとも思われるが、今回の買収の発表で花王の株価が一時下がったとも報道されているので、市場が今回の買収を必ずしも楽観視していないことは確かである。

3. 今後の課題

 花王は2018年2月1日、事業戦略「2018年からのさらなる成長のための足掛かり」の一つとして、「米国のスーパープレミアムブランド「Oribe(オリベ)」を所有するオリベヘアケア社の買収」を「高級ヘアサロン向けビジネスへの進出」と位置づけている。

 花王は買収を通じて海外での高価格帯事業を強化する方針であり、花王サロン部のブランドポートフォリオを拡大すると発表している。

 花王はすでに、「ゴールドウェル」や「KMS」といったサロン向けヘアケアブランドをグローバル展開しているが、世界的に高級品として認知度の高い「米国オリベ社」の買収で、重要市場である米国での足場を固める方針と思われる。

なお、米国オリベ社の共同設立者で現在共同代表を務めるダニエル・カーネ氏は、新しく買収した事業体の社長に任命される予定と発表されている。

 これまで米国オリベ社は主に米国市場を中心として、高級ヘアケア製品群等を市場に投入してきたが、花王は今回の買収によるサロン向け製品群の強化により、ワールド企業としてのシナジー効果をどこまで見いだせるのかが、今回の買収について検証されるべき課題であると考える。花王の今後のサロン向け事業の拡大に期待したい。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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