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監査等委員会の概要とその利点(基本編)

清水 敏

1 はじめに

⑴ 2021年5月27日付日経新聞16面記事から

 ある東証第一部上場企業において,監査等委員会が投資ファンドによる取締役選任案に反対する意見を述べたという記事がありました。

 しかも,監査等委員会は取締役会の役員選任案にも一部反対をしているそうです。

 同記事は背景として,過年度に発生した企業内不祥事を原因として創業家一族の分裂があったことを示唆しています。

 監査等委員会が,取締役会とも株主とも異なる,独自の意見を表明した一例となります。

⑵ 増加する監査等委員会への関心

 監査等委員会設置会社は,東証の2020年9月7日付「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び 指名委員会・報酬委員会の設置状況」によると,上場企業全体の30%にも上り,増加傾向が伺えます。

 弁護士実務の現場でも,上場企業による監査役設置会社から監査等委員会設置会社への移行への相談のみならず,監査等委員会設置会社の特徴である,大企業に限られない,常勤の監査等委員を要求されないなどの誘因もあり,ベンチャー企業においてもIPO段階で初めから監査等委員会を設置することも珍しくありません。

 そこで,本コラムでは,近年多くの会社が設置する監査等委員会の概要と利点について基本的な解説をします。

2 監査等委員会とは

 監査等委員会は,三人以上の取締役(監査等委員)で組織され,その過半数は,社外取締役で構成される委員会です(会社法331条6項)。

 監査等委員会は次のような特徴があります。

 ⑴ 組織的監査

・監査等委員会が取締役の監査機能を有し,監査役は存在しません。

・監査権限は,監査等委員会にあり,個々の監査権限がある監査役とは異なります。

・監査の方法は,内部統制システムを利用することが予定されています。このため,監査役と異なり,常勤者を置くことは求められておらず,任意設置となっています(会社法施行規則121条10項イ)。

⑵ 独立性の担保

・監査等委員の選任は,それ以外の取締役とは別に選任され(会社法329条2項),その選任議案について監査等委員会は同意権・提案権(会社法344条の2第1項,第2項)があり,任期は選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなっています(会社法332条1項,他の取締役は1年(同条3項))。

・報酬等について,監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定め,定款の定め又は株主総会の決議がないときは,監査等委員である取締役の協議によって定められます(会社法361条2項,3項)。

・株主総会において、監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べることができます(会社法361条5項)。

・監査等委員の解任決議は,総会の特別決議による必要があります(会社法344条の2,309条2項7号)。

 ⑶ 監査権能

・監査等委員会は,取締役の職務執行の適法性のみならず,妥当性まで監査する権限を有しています。

・監査等委員は,株主総会において,監査等委員である取締役以外の指名・報酬について意見を述べることができます(会社法361条6項)。

3 監査等委員会の利点

 ⑴ 迅速な業務決定

・監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合又は定款に定めのある場合,当該監査等委員会設置会社の取締役会は,その決議によって,一定の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができます(会社法399条の13第5項,第6項)。

・監査等委員会が承認した取締役の利益相反行為について,当該取引に関与した取締役の任務懈怠の推定が適用されなくなります(会社法423条4項)。

 ⑵ 社外取締役の増員(コーポレートガバナンスコードへの対応)

 令和3年4月7日更新された金融庁の「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」は,プライム市場上場企業において,独立社外取締役を3分の1以上選任すること(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)を求めています。

 監査役設置会社では,社外監査役と社外取締役を選任しなければならない二重の負担がありますが,監査等委員会設置会社に移行すると既にいる社外監査役を監査等委員の社外取締役に横滑りさせることで社外取締役の増員を果たすことができます。

 ⑶ 柔軟な制度設計,運用が可能

 監査等委員会では,監査役設置会社と同じような取締役会が重要な業務執行の決定を行う制度設計も可能です。

 これとは反対に,監査において,内部監査委員会などを利用したモニタリングモデルを徹底して,重要な業務執行の決定の多くを取締役に委任することも可能で,個々の会社の実情に応じた柔軟な制度設計ができます。

4 おわりに(コーポレートガバナンス上の有効性)

 監査等委員会設置会社においては,柔軟な制度設計が可能であるため,コーポレートガバナンスは個々の会社における運用に委ねられているといえます。

 運用上,特に,違法性監査のみならず妥当性監査まで監査権限を担う監査等委員が,取締役として取締役会で議決権を有効に行使できるか否かがコーポレートガバナンス上の有効性に係っています。

 今後,監査等委員会設置会社におけるガバナンスに関する事例が重ねられていくものと思われ,関心を持って見ていきたいと思います。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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