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楽天カード株式会社によるみんなのビットコイン株式会社の買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年9月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1.はじめに

 2018年8月31日、楽天株式会社は、同社の連結子会社である楽天カード株式会社(以下「R社」という)を通じて、トレーダーズインベストメント株式会社(以下「T社」という)との間で、T社の連結子会社であるみんなのビットコイン株式会社(以下「対象会社」という)の全株式を取得すると発表した。

 対象会社は、T社によって2016年12月15日に設立された仮想通貨交換業者である。2017年3月30日に仮想通貨交換所のサービスを開始し、改正された資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)に基づいて、2017年9月7日に仮想通貨交換業者として登録申請し、みなし仮想通貨交換業者として営業していたものの、2018年4月25日に関東財務局より、「経営管理態勢の構築、マネー・ロンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の構築、帳簿書類の管理態勢の構築、利用者保護措置に係る管理態勢の構築、システムリスク管理態勢及び外部委託先管理態勢の構築の改善」を求める業務改善命令が発せられ、改善に努めていた。

 同時期に仮想通貨交換業者の登録を申請し、みなし仮想通貨交換業者として営業していた他社のうち、12社は申請を取り下げ、コインチェック株式会社はマネックスグループ株式会社の完全子会社となり、株式会社LastRootsもSBI ホールディングス株式会社のグループ会社より追加出資を受け、最後に残ったのが対象会社であった。一部のみなし仮想通貨交換業者は、申請が受理されるまでの間、新規ユーザー登録を停止している。

したがって、今回のR社による対象会社の買収により、申請を取り下げていないみなし仮想通貨交換業者3社は、いずれも金融業者によって買収もしくは資本参加された上で、登録についての金融庁による最終的な判断を待つことになる。その背景には、金融庁が資金決済法に基づき,仮想通貨交換業者に「金融機関並みの運営体制」を求めているといわれている(仮想通貨交換業者関係(事務ガイドライン)、16 仮想通貨交換業者関係,Ⅱ仮想通貨交換業者の監督上の着眼点、Ⅱ-1-2 主な着眼点 参照)。

2.買収価格について

 楽天株式会社の発表によれば、R社は対象会社の全株式5100株をT社から2億6500万円で買収するとのことである。

 公表されている対象会社の2018年3月期の決算内容をみると、資本金1億3000万円、純資産は2億530万7000円であるものの、当期純損失は4921万7000円であった。T社は2018年1月10日に発行した新株予約権に基づいて調達した資金の中から、すでに2億円を対象会社に増資していたことから、T社がこれまで対象会社に注ぎ込んだ資金は、優に買収価格を超えているものと推測される。

今後、対象会社の登録申請が認められれば、他の仮想通貨交換業者との類似業種比準方式に基づく企業価値の算定が可能であったと思われるが、T社の公表されている業績からすれば、金融庁の求める期間内に、業務改善命令に従った体制を構築する資金的・時間的な余裕はなかったものと思われる。このため、対象会社を純資産価格(2億530万7000円)をもとに評価せざるを得ず、これに対象会社の資本金1億3000万円の半額程度(6500万円)を上乗せした価格(2億6500万円)で,T社はR社の買収要請に応じざるを得なかったものと思われる。

3.仮想通貨交換業者登録の見通し

 R社は楽天株式会社の連結対象子会社であることから,今回の買収価格が楽天株式会社の決算に与える影響は極めて軽微であろう。しかしながら,みなし仮想通貨交換業者である対象会社が,金融庁の発した業務改善命令を遵守するためには,今後,相当程度の追加投資が必要であると思われる。

 仮想通貨交換業者を経由したマネー・ロンダリングの防止(取引時確認等の措置(事務ガイドラインⅡ-2-1-2)と,外部からのハッキングの防止(システムリスク管理(事務ガイドラインⅡ-2-3-1))は,金融庁に対する必須の遵守事項であり,「法人顧客との取引における実質的支配者の確認」まで要請されていることから,相当程度の人的物的設備を整えておく必要がある。瞬時に行われる仮想通貨交換時においても,かかる審査体制を具備する必要があるので,登録へのハードルは極めて高いといわざるを得ない。

加えて,登録仮想通貨交換業者であるテックビューロ株式会社が運営する仮想通貨取引所「Zaif」から,総額67億円相当の仮想通貨が不正に流出(2018年9月20日発表)した影響も無視し得ない。「Zaif」は登録仮想通貨交換業者であるにもかかわらず2回も業務改善命令を受けていた矢先に,外部からハッキングを受けたことから,システムリスク管理が遵守されていないと判断される可能性は高いであろう。

金融庁としては,今後,仮想通貨交換業者への外部からのハッキング事件を発生させないためにも,システムリスク管理の要件は厳格に審査するものと思われる。

 したがって,今回のR社による対象会社の買収が成功するまでの道のりは,極めて長いものになると思われる。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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