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株式会社アサツー ディ・ケイに対する公開買付

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2017年10月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1.はじめに

 2017年10月2日、米国に本社を置き、世界的にプライベートエクイティファンドを展開してきたベインキャピタル・プライベート・エクイティ,LLC.(以下「ベインキャピタル」という)は、広告代理店国内3位である株式会社アサツー ディ・ケイ(以下「ADK」という)の発行済み普通株式及び新株予約権の全てを公開買付けにより取得すると発表した(以下「本公開買付」という)。

 本公開買付の期間は、2017年10月3日(火曜日)から2017年11月15日(水曜日)まで(30営業日)、買付け等の価格は1株当たり3,660円、買付け総額は最大で約1,523億円程度、と発表している。

 ADKが2017年10月12日に発表した2017年1月から9月までの売上高の合計は2318億9000万円であり、2016年度(1月から12月まで)の決算報告では、年間売上高は3526億7100万円である。

 ADKの株主構成は、2016年12月31日時点では、世界最大の広告グループである英国のWPPグループに属するWPP International Holding B.V.(オランダ法人)が24.50%を保有している。WPPグループは、1998年8月3日にADKと提携協力契約を締結し、ADKの筆頭株主となった。

 上場企業の公開買付に関しては、投資家保護の観点から金融商品取引法によって規制が掛けられており、公開買付広告、公開買付届出書の提出などの開示規制と買付手続に関する規制があるが、詳細は割愛する。

2.本公開買付の目的

 本公開買付に対しては、ADKも10月2日時点で賛同する旨の意思を表明するとともに、取締役会で、株主に対しては買付けに応募することを推奨する旨の決議をしたと発表しており、公開買付者とその対象会社であるADKとの関係では友好的TOBとなる。

 ADKの意図は、ベインキャピタルグループが保有・運営する公開買付者(ビーシーピーイー マディソン ケイマン エルピー(BCPE Madison Cayman, L.P.))が「本公開買付け及びその後の一連の手続を経て当社を完全子会社とすることを企図していること及び当社普通株式が上場廃止となる」ことによって、ADKが筆頭株主の英国WPPグループの傘下から離れ、ベインキャピタル傘下で企業価値を高めた上で、再上場することにあると思われる。よって、本公開買付はMBO的側面も有していると考えられる。

 他方、筆頭株主であるWPPグループとの関係では、ADKと筆頭株主が対立的な公開買付となっている。実際に、WPPグループは、2017年10月12日、買付価格が低すぎるとして、買付に反対する姿勢を示したと報道されている。

3.本公開買付の概要

 本公開買付では、公開買付者は、ADKの総株主の議決権の過半数を保有することとなるよう、買付予定数の下限を50.10%である20,785,200株に設定しているので、応募株券等の合計数が20,785,200株に満たない場合は、応募株券等の全部の買付け等は行わないとされている。

 本公開買付の買付価格は、1株当たり3,660円で、直前の9月28日の東京証券取引所の株価が3,180円であり、過去3ヶ月間の平均株価が2,944円である。単純にプレミアムを計算すると直前株価との対比では約15.1%に過ぎず、平均株価との対比でも約24.3%となり、過去のTOB事例におけるプレミアムが平均30%を超えていることからすると、決して高い価格ではない。

 実際に、本公開買付発表直後、ADKの株価は急騰しており、10月20日時点の株価は3,750円であり、すでに公開買付価格の3,660円を超えている。したがって、すでに株価が公開買付価格を超えている現状で公開買付者に残された手段は、再度買付価格および買付期間を見直した公開買付を行うことである。本公開買付については、今後の買付合戦の推移を見守る必要があるであろう。

 筆頭株主のWPPグループがどのような対応に出るのかは、ADKとWPPグループ間の提携協力契約の内容とその解釈如何によると思われるが、提携協力契約の具体的な内容が明らかになっていないので、コメントは差し控えさせていただく。

 なお、本公開買付では、「公開買付者の保有する対象者の議決権が対象者の総株主の議決権の90%以上である場合、公開買付者は、会社法第179条に基づき、対象者の株主(公開買付者及び対象者を除きます。)の全員に対し、その所有する対象者普通株式の全部を売り渡すことを請求」し、90%に満たない場合は、ADKに対して、「対象者普通株式の株式併合(以下、「株式併合」といいます。)及び株式併合の効力発生を条件として単元株式数の定めを廃止する旨の定款の一部変更を行うことを内容とする株式併合議案を付議議案に含む臨時株主総会」の開催を要請すると表明している。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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