SKE48事業買収の真相
(このコラムは、2019年2月にM&A情報広場に掲載されたものです。)
第1 はじめに
2018年12月27日、ジャスダック上場企業である株式会社Keyholder(以下「キーホルダー社」という)は、株式会社AKS(以下「AKS」という)が運営するアイドルグループ「SKE48」事業(以下「SKE48事業」という)を、キーホルダー社が設立する100%出資子会社「株式会社SKE」(以下「SKE」という)が買収するとともに、キーホルダー社はSKEの株式20%をAKSに譲渡すると発表した。
キーホルダー社の前身はゲーム施設運営会社であり、2012年にノンバンクのJトラスト株式会社が買収して、42.92%の筆頭株主となったものの、最近の業績は不振であった。そこで、2018年3月には、ゲーム関連の子会社アドアーズ株式会社を売却するとともに、ライブ・エンタメ事業に力を入れるため、7月には子会社の株式会社KeyStudioが新宿アルタにライブエンターテイメント施設「KeyStudio」を開場している。
加えて、キーホルダー社は、著名な秋元康氏を特別顧問に受け入れるとともに、6月18日付けで秋元氏らに対して、320,294個の新株予約権を発行していた。発行株式数は32,029,400株にもなるため、秋元氏らは7月31日付けで大量保有報告書を提出しているが、同報告書によれば、秋元氏兄弟の保有割合は18.03%にもなり、第三者割当による増資で、キーホルダー社は秋元氏側から、最大40億円近い資金の提供を受けることになる。
他方、AKSは、秋元氏らの名前をとって命名され、秋元氏のプロデュースするアイドルグループ「AKB48」、「SKE48」、「HKT48」及び「NGT48」の4グループ等の運営管理会社である。この4グループのうち、名古屋を拠点とする「SKE48」の事業が譲渡されることから、巷では様々な憶測を呼んだようである。
しかし、AKSは、過去に経営のゴタゴタがあったためか、現在はパチスロメーカーの京楽産業.株式会社のグループ会社のようであり、株主は社長の吉成夏子氏が100%保有するものの、同社長も同グループ出身といわれている。SKE48事業の買収の対価は30億円で、キーホルダー社は現金で支払うと発表している。
今後は、キーホルダー社が設立したSKE(キーホルダー社80%、AKS20%保有)が、SKE48事業を承継して、芸能プロダクション事業を行ってゆくこととなるが、もし、秋元氏らがキーホルダー社に出資した資金が、今回のSKE48事業の買収に使われたとすると、SKE48事業買収の実態は、秋元氏らによるSKE48事業の買収とも言えよう。
第2 買収の対象
今回のM&A(事業譲渡)の対象は、SKE48事業であり、対価は30億円である。
「SKE48」は,東京・秋葉原を拠点として活動するAKB48の姉妹グループとして、2008年7月に結成されたアイドルグループであり、姉妹グループとしては最も古いグループに当たるとされる。
キーホルダー社は、AKSが運営・管理するグループの中からSKE48を選んだ理由に、所属メンバー個々の人気,グループとしての印象と知名度,活動実績及び収益性を挙げており、いわゆる「48グループ」の事業の中でもSKE48事業は相当収益性が高いものとして位置づけていると推測される。
買収対象になる事業・権利関係の具体的な内容については開示されていないが、アイドルグループの運営事業は、グループの楽曲等の知的財産権の管理、劇場・興業の運営・企画,芸能プロダクションの運営など相当多岐にわたるものであり、権利関係も相当複雑になっていると思われる。
キーホルダー社の発表では、SKE48事業の2017年11月期売上高実績は21億5500万円、経常利益3億6600万円、2018年5月31日現在の純資産は、3億1100万円である。
そうすると、買収価格30億円は相当高い買い物であるということができよう。
なお、今年の3月1日に事業譲渡の効力が発生すると発表されており、効力発生日に権利義務が承継されることとなると考えられる。
第3 今後の展望
アイドルグループ「SKE48」は、これまで名古屋を拠点に活動を展開してきたが、今後は、東京に本社のあるSKEに母体を移すことで、新宿アルタでの出演など、活動範囲の拡大が期待される。
キーホルダー社としても、秋元氏を特別顧問に迎い入れたことにより、利益率の高いSKE48事業が収益の柱に育つことができれば、業績の拡大や株価の上昇に貢献することが期待される。実際にキーホルダー社は、ライブ・エンターテインメント事業部門を強化するため、秋元氏らの協力を得て、すでに合弁会社・株式会社FAProjectを設立している。
他方、AKSもSKEの株式20%を保有することになるが、キーホルダー社はその理由を、AKSとの連携強化が、事業競争力の強化と成長力の加速に繋がり、両者の協力関係をより実効的なものにすると説明しているが、SKEの株式20%の対価は公表していない。
市場で、AKSのAKB48事業とSKEのSKE48事業が激突することを避けるため、AKSが要求したとも推測されるところである。
以上
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