弁護士コラムバックナンバー

ソフマップによる文教堂のアニメガ事業の買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2019年11月にM&A情報広場に掲載されたものです。) 

1.はじめに

 2019年9月27日、書店経営大手の文教堂ホールディングス(以下「文教堂HD」という)は、連結子会社である株式会社文教堂が運営するアニメキャラクターグッズ販売事業(以下「アニメガ事業」という)について、パソコン・ソフト等を販売する株式会社ソフマップ(以下「ソフマップ」という)に事業譲渡すると発表した(以下「本事業譲渡」という)。

 文教堂HDは、前年度の2018年8月期決算(2017年9月1日から2018年8月31日)で約2億3000万円の債務超過に陥ったことから、上場廃止を回避するため、2019年6月28日、「産業競争力強化法に基づく特定認証紛争解決手続」(以下「事業再生ADR手続」という)の取扱団体である一般社団法人事業再生実務家協会(以下「事業再生実務家協会」という)に対し、今後の事業再生と事業継続に向けて、財務体質の抜本的な改善のため,事業再生ADR手続の申請を行った。

 事業再生ADR手続は、2008年11月、私的再生スキームの1つとして運用が始まったもので、産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣から特定認証紛争解決事業者として認定を受けた機関が仲立ちする。

 事業再生実務家協会(JATP)が、国内唯一の認証機関となっている。

 2019年9月27日、無事に、文教堂HDの事業再生計画案に対する銀行団との交渉が纏まり、事業再生ADR手続が成立したが、成立した事業再生計画案には、驚くべき内容が含まれていた。

 文教堂HDの2019年8月期決算によると、売上高は前年比-11%の243億8800万円、親会社の株主に帰属する当期純利益は-39億7700万円、負債は161億7300万円であり、よって、債務超過額は42億1200万円にも膨れ上がっていたところ、銀行団6行は総額41億6000万円を債務の株式化によって支援し(その結果、みずほ銀行が持株比率約19%で筆頭株主となった)、主要株主である日販も5億円の出資を行うことで、上場廃止を免れるというものであった。

 文教堂HDの子会社が営むアニメガ事業は、売上げが5億2591万3000円であったが、経常損失が7752万8000円になっていたことから、成立した事業再生計画案では、選択と集中のため、事業譲渡されることとなったものである。

 他方、ソフマップは、2006年、株式会社ビックカメラの連結子会社となったことから、総合家電量販店事業を縮小し、2011年からはホビー特化型新業態「アキバ☆ソフマップ」を展開している。

2 M&Aのスキーム

 2019年10月31日付けで、アニメガ事業は株式会社文教堂からソフマップに事業譲渡されたが、買収価格は公表されていない。

 文教堂HDは、「競争入札による市場価格を反映した適切な価格」であると説明している。

 アニメガ事業の帳簿価格は、資産が3038万7000円、負債が423万円にすぎないが、2019年9月現在で24店舗となっており、不採算な店舗も含まれていると思われるので、利益の出ている店舗のフリーキャッシュフローを前提に企業価値を算定し、これに不採算店舗の閉店等に関わる構造改革費用等のマイナス面を織り込むと、買収価格はそれほど大きなものではなかったのではないかと推測される。

 実際にソフマップは、2019年11月1日、池袋マルイ店、サンシャインアルタ店、静岡店、三宮店、高松店の5店舗を引き継いだものの、その余の店舗は順次閉店する模様であるといわれている。

3 今後の見通し

 ソフマップは、本事業譲渡について、

「ソフマップ各店では、アニメガブランドの取扱商品の拡充を図るとともに、既存のアニメガ店舗を⼀部継承し、ソフマップとして展開する各種ブランドとも連携、相互のブランドの強みを活かした複合的なサービスや商品ラインナップの充実を図ってまいります。専⾨店としてより充実したエンターテインメントの提供を⽬指し、今後もより多くのお客様にご愛顧いただける店舗づくりを⾏ってまいりますのでご期待ください。」

と説明している。

 ソフマップは、2018年12月から、ソフマップAKIBAを皮切りに、「女性向きアニメキャラクター専門フロア」を開設し、女性向け商品の拡充に努めてきたことから、アニメガ事業の事業承継は、事業拡張のための最も効果的な選択であったものと考えられる。

 他方、日本のアニメ産業は、国内市場を見る限りグッズ販売等は頭打ちになってきていると言われているので、女性向けアニメキャラクターを拡充することによって、アニメ市場の拡大が再び図られることとなれば、ソフマップの狙いは達成されるものと思われる。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
このコラムを書いた弁護士に
問い合わせるにはこちら
関連するコラム
↑TOP