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エボラブルアジアによるDeNAトラベルの買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年6月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

第1 はじめに

 オンライン旅行事業等を手がける株式会社エボラブルアジア(以下、「E社」という)と、ゲーム事業を主力事業とする株式会ディー・エヌ・エー(以下「D社」という)は、2018年5月14日、E社がD社の子会社である株式会社DeNAトラベル(以下「対象会社」という)を買収し、E社を連結決算対象の100%子会社とすると発表した。

 E社はオンライン旅行事業等を目的として2007年5月に創業した後、2016年3月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、その翌年の2017年3月に第1部に市場変更した企業で、連結子会社14社(2017年12月31日現在)から構成されるグループ企業である。

 主な事業は、国内を主力とするオンライン旅行事業、ITオフショア開発事業及び投資事業から構成されるが、2017年10月1日から2018年3月31日までの第12期第2四半期では(日本基準)、経常利益は1億2764万5000円の赤字となっており、そのセグメント別の内訳を見るとオンライン旅行事業は一般管理経費を含まないセグメント単体でも赤字化していることが見て取れる。

 他方、対象会社は、海外航空券・海外旅行において国内最大手とのことであるが、D社の発表では、対象会社の財政状況は、2016年3月期及び2017年3月期は黒字であったものが、2018年3月期には営業利益が19億6100万円もの赤字となっている。

 今回の対象会社の売却により、D社は旅行事業から撤退し、主力のゲーム事業に次ぐ新たな収益の柱として人工知能を活用したタクシー配車サービスやヘルスケア関連事業に投資を集中させると報道されている。

 対象会社の経営が急速に悪化した原因は不明であるが、いずれもオンライン旅行業界の競争激化が根底にあるものと推測される。オンライン取引の世界は、アマゾンのような巨人の一人勝ちを阻むことは容易ではないことから、いずれの会社もオンライン旅行事業での規模の拡大を急速に図る必要があったものと推測される。

第2 今回のM&Aの内容

 対象会社は、上場会社であるD社の連結決算対象子会社であるため、対象会社の株価の算定は類似会社比準方式やDCF法等の一般の株価算定手法を用いることとなると思われる。

 E社とD社の発表では、E社が対象会社の全株式を12億円でD社から購入することしか明らかになっていないため、対象会社の企業価値の算定がどのように行われたのかは不明である。ただし、E社の決算発表では対象会社買収によりEBITDAが5億円増加する模様とのことである。また、E社は2018年9月期からIFRSへの移行を表明している。

そのため、買収額12億円のうち、のれんがいくら含まれているかは明らかとなっていない。

第3 シナジー効果

 E社の発表では、今回の対象会社の買収により、E社のオンライン旅行事業での取扱高は1400億円規模に達し、旅行業界のトップ10入り(オンライン旅行業界では第2位)を果たす見込みとのことである。

 実際に、E社の発表するとおりに、国内航空券最大手のオンライン事業者と海外航空券・海外旅行最大手のオンライン事業者である対象会社が同一の経営下に入ることで、一層の商材の充実、相互トラベル会員へのクロスセル、ブランド力向上、及びコスト削減などのシナジー効果が期待できるものと思われる。

他方、今回のM&Aは、対象会社の収益の急速な悪化を受けての買収であるだけに、買収後は、D社全体の企業価値向上によるオンライン旅行事業の収益力の拡大は必須の経営課題であり、加えて世界的なオンライン旅行事業者との競争にも勝ち抜いていかねばならないなど、オンライン旅行事業の経営環境にはきびしいものがある。

よって、今後のD社の経営課題の克服に期待したい。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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