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RIZAPの苦境

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年12月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1.はじめに

 RIZAPグループ株式会社(以下「R社」という)は2018年11月14日、2019年3月期第2四半期決算説明会において、これまで発表していた営業利益に関する2019年3月期通期の業績予想を、230億円の黒字から33億円の赤字になると下方修正した。

 かかる衝撃的な決算発表を受けて、R社の株価は、決算発表時の425円から200円台に大幅に下落した。

 なお、R社が2018年2月19日、株式会社ワンダーコーポレーション(以下「W社」という)の株式の公開買付け(TOB)による連結子会社化を発表した時点で、当職はR社によるW社の買収についてコメントしているので、今回は、なぜかかる大幅な下方修正を余儀なくされたのか、わかる範囲で分析してみたい。

2.大規模下方修正の要因

 R社の発表によれば、今期の期末の予想が230億円の黒字であったものが、33億円の赤字になる、すなわち、公表値より263億円営業利益が低下するというものである。

 2019年3月期上期の実績としても、すでに前期比で138億円の営業利益の低下が発生しており、営業利益の赤字は88億円に達していると説明している。

 上期の営業利益のかかる大幅な下落の大きな要因として、以下の3つの要因を指摘している。

 ①R社関連事業を除く非上場子会社の減益
 ②上場子会社の減益
 ③先行投資の加速

 期末で営業利益が263億円の下方修正を余儀なくさせられた要因としては、4つの要因を指摘している。

 ①主にグループ入り1年以内の企業の経営再建遅れ 71.6億円の赤字
 ②構造改革関連費用等を含む非経常的損失     83.5億円の赤字
 ③新規M&Aの原則凍結             103.6億円の赤字
 ④その他 連結調整等              4.3億円の赤字

3.主にグループ入り1年以内の企業の経営再建遅れとは

 過去2年間でグループ会社数が52社増加し、合計で85社となったものの、主にグループ入り1年以内の企業の経営再建遅れが原因で71.6億円の赤字が見込まれるという。

 要は、赤字企業を安く買ってきたものの、再建が遅れたため、赤字の垂れ流しとなり、連結決算では、本業の黒字を食いつぶすほどの赤字が出たということになる。

 これはM&Aの難しさ、すなわち負の側面を物語っている。赤字企業を手放す売手側は、自ら黒字化する見通しが立てられないか、再建に時間がかかるものの自ら立て直す体力がないか、選択と集中のためなどの理由で、安くても手放すものと思われる。

 そうであるとすると、買手側としては、買収後明確に黒字化できる見通しがないと簡単には手を出せないことになろう。

 再建に時間がかかる場合、その間の赤字を本業の利益で十分に賄えるだけの体力がないと、連結決算を毀損するリスクが潜んでいるからである。

 かかる再建に必要な構造改革関連費用は、当初の買収金額に上乗せて見積もられるべきであることから、構造改革関連費用が巨額になれば、買収金額もそれに応じて低下させざるを得ないのであって、両者を含めて実質的な買収金額と考えるべきであろう。

 この点、ディールを持ち込まれた買手側としては、正確に赤字の実態を掘り起こし、黒字化に必要な費用まで見積もって買収価格を提示できるかといえば、かなり難しい話であると言わざるを得ない。

 なぜなら仲介するコンサルは、類似業種比較やキャッシュフローベースでしか企業価値を算出してこないからであり、潜んでいる構造的な赤字要因を見つけるのは自らの手腕に委ねられているのである。

 また,短時間に行われるデューデリジェンスによって、かかる本質的な問題は見つけることは至難の業と言って良いであろう。

 ジャパンゲートウェイ(20.3億円の赤字)、タツミプランニング(5億円の赤字)およびサンケイリビング(5.2億円の赤字)の3社を含む非上場子会社の上期の赤字額だけでも、前期の上期合計が20.1億円の赤字であったものが、今期の上期は40.5億円もの赤字に拡大している。

 同様に上場子会社では、W社(32.3億円の赤字)、ぱど(5.9億円の赤字)およびMRKホールディングス(5.8億円の赤字)の3社を含む上場子会社全体の上期の赤字額は、前期の上期合計が3.7億円の赤字であったものが、今期の上期だけでも47.4億円もの赤字に拡大している。

 もちろん、R社の連結決算はIFRSを採用しているので、かかる巨額の営業赤字には、多額の構造改革関連費用が含まれているとしても、巨額の赤字額が本業の儲けを食いつぶしており、R社にこれだけの赤字を吸収できる体力があるのか、疑問が生じてくると言わざるを得ない。

 最近の報道では、W社が抱えている新星堂の赤字の拡大がW社の業績悪化の原因ではないかと言われているが、下期も含めてW社は39億円もの構造改革関連費用を計上することによって、本当に来期から黒字化できるのか、その推移を慎重に見守らなければならないレベルにあると考えられる。

4.構造改革関連費用等を含む非経常的損失とは

 R社の発表によれば、W社、ジャパンゲートウェイ、タツミプランニングを含めて、買収した子会社の再建のために多額の構造改革関連費用を計上するとしており、その総額は83.5億円にも上るとしている。

 赤字会社を買収した際に、その再建が完了する前に、新規M&Aを実行してきたと説明しており、今後は既存事業の改善が見えるまで再建に集中し、新規M&Aは原則凍結すると発表している。

5.新規M&Aの原則凍結による赤字とは

 最も分かりにくいのがこの点である。

 R社は、これまで純資産を下回る価格で買収した企業について、買収に伴う割安購入益(いわゆる「負ののれん」)を利益として計上してきたと言われている。

 実際に、18年3月期決算でも121億円の負ののれんを利益に計上していた。

 ところが、今期は、会計事務所の指導もあってか、1年以内に買収した子会社について、負ののれんの利益計上をやめたところ、その金額が103.6億円にも上るというものである。

 そうであるとすると、営業利益の当期見通し230億円には、かかる負ののれんが計上されていたことになる。

 これはR社の経営にとっては、一つの大きな転換点になると思われる。

 新規M&Aの継続による負ののれんの計上によって、連結決算上の営業利益をかさ上げして株価を上げるというビジネスモデルの終焉を意味するからである。

6.今後の見通し

 R社は、買収した子会社については、選択と集中の方針を打ち出していることから、子会社の売却価格如何によっては、今後大きな損失が発生する可能性も残されている。

 加えて、今後も子会社の営業赤字が継続すれば、保有株式の大きな減損リスクを抱えることになる。

 すべて短期間のうちに再建が完了するか、売却が完了しないと、かかる大きなリスクが顕在化して、本業の体力を削ぐ結果となりかねない。

 以上のことから、R社の再建について楽観視は許されず、市場はかかる空気を読み込んだため,株価が下落したのかもしれない。経営陣の今後の奮起に期待したい。

  以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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