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アサヒビール、旧SABミラーの東欧事業を買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2017年3月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

第1 はじめに

 アサヒグループホールディングス株式会社(以下「アサヒHD」という)は、2016年12月13日、ベルギーに本拠を置くビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社(Anheuser-Busch InBev SA/NV、以下「AB InBev 社」という)との間において、AB InBev 社が2016年10月に買収したイギリスを本拠とするSABMiller plc(以下「SABミラー社」という)が保有していたチェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの中東欧5カ国のビール事業、及びその他関連資産の取得を目的として、株式売買契約(以下「本件取引」という)を締結した。

 2016年12月13日付けIRによれば、本件資産の取得価格は7300百万ユーロ(約8883億円)で、アサヒHDが対象事業の買主として欧州委員会から承認されることが先行条件となっている。2017年2月15日付決算短信でも、追加情報として、今回の買収を開示しており、対象事業の取得に関連し、取得金額全額に対して融資予約契約を締結しているとのことである。

第2 今回の買収に先行する買収

 今回の買収に先立ち、アサヒHDは、2016年10月には、約3000億円を投じてSABミラー社のイタリア、オランダ、英国事業及びその他関連資産を取得し、「Peroni」、「Grolsch」といったプレミアムビールブランドを中心として、西欧における強い事業基盤を獲得したと言われている(2016年12月13日付M&A Times)。

 株式を譲渡するAB InBev 社は、2016年10月10日、世界第2位のビールメーカーのSABミラー社を約10兆1000億円で買収したばかりである。アサヒHDのチャンスはここから生じたようだ。独占禁止法に抵触することを回避するため、AB InBev 社はSABミラー社の欧州4社を同年10月にアサヒHDに手放したのである。

第3 売買対象資産について

 今回の買収は、同様にSABミラー社から、中東欧5カ国市場における事業を買収するものである。売買対象の株式及び資産の内訳は、上記IRによれば、「AB InBev 社によるSABミラー社統合前に、SABミラー社が保有していた中東欧 5 カ国市場における事業及びその他関連事業を構成する会社の全株式、並びに「Pilsner Urquell」、「Kozel」、「Tyskie」ブランドを含む知的財産権(但し、米国・プエルトリコにおける「Pilsner Urquell」、「Tyskie」、「Lech」ブランド に係る知的財産権、中東欧5 カ国市場における「Miller」ブランドに係る知的財産権及び中東欧 5 カ国市場以外における「Redd’s」ブランドに係る知的財産権等を除く)その他関連資産」である(以下「本件資産」という)。

 譲渡対象企業は全8社から構成される。

第4 買収リスクについて

 今回、買収する中東欧5カ国のビールもピルスナーウルケルなど名門ビールが多く、営業利益率は約21%。アサヒGHDがこのブランド価値を生かし、自社のスーパードライ拡販と合わせて、相乗効果を生み出せるかが焦点であると言われている(日刊工業新聞ニュースイッチ2016年12月14日)。

 問題は買収価格が巨額であり、アサヒHDにとっては、巨額の「のれん」が発生するおそれがあることである。アサヒHDは、上記決算短信でのれんの処理について、以下のように記載している。

「(ⅲ) 企業結合 企業結合は取得法を用いて会計処理しております。取得対価は、被取得企業の支配と交換に譲渡した資産、引き受けた負債及び当社が発行する資本性金融商品の取得日の公正価値の合計として測定されます。取得対価が識別可能な資産及び負債の公正価値を超過する場合は、連結財政状態計算書においてのれんとして計上します。」

 ブルームバーグの2016年12月15日付の報道では、買収価格は高騰したが、対象資産の価値は約6500億円から7000億円相当であるとのことである。この情報を基に、買収価格の約8883億円との差額がのれんになると仮定して、単純なプレミアム率を計算すると、プレミアムは26%から36%程度となる。

第5 会計基準の変更について

 アサヒHDは、巨額の買収に備えてか、会計基準を2016年よりIFRSに変更した。

 2016年2月15日付IRでは、以下のように記載している。

「アサヒグループは、財務情報の国際的な比較可能性の向上や開示の充実により、株主・投資家の皆さまをはじめとしたステークホルダーに対して、より有用性の高い情報を提供し利便性を高めることを目的として、当年度(2016年1月1日から2016年12月31日まで)より、国際財務報告基準(IFRS)を適用しております。」

 IFRSの利点は、のれんの計上が少なくて済むことである。このように、リスクの高い巨額の買収に際しては、のれんの処理が重要な課題となり、安易な買収を行うと、買収した事業が赤字に転落した際は、巨額の減損処理を迫られる恐れがある。

 このような視点からは、アサヒHDが会計基準をIFRSに変更したのは望ましいことと考えられる。

以上

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