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システム開発を契機とした準委任契約と請負契約の考察

綱藤 明

1 民法改正による「成果完成型」準委任契約の明文化

 民法上、委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する契約をいいます(民法第643条)。

 そして、法律行為でない事務(作業)を委託する場合は、準委任契約となります(民法第656条)。

 昨今のシステム開発に際して締結される契約は、この準委任契約か請負契約の考え方をベースに合意が形成されていることが多いように思われます。

 この準委任契約ですが、令和2年4月1日に改正民法が施行され、成果物の納品により報酬を受け取ることができる「成果完成型」が明文化されました。

 この「成果報酬型」は、例えば、弁護士の成功報酬のように以前から存在する取引形態ではありましたが、そのような取引実態を受け、前記令和2年民法改正で明文化されるに至りました。

 「成果報酬型」準委任契約の明文化を契機に、クライアントの皆様から、準委任契約と請負契約とはどう違うのか、お問い合わせいただくことが増えてまいりましたので、今回、改めて、それぞれの契約の内容と違いを考察します。

 なお、下記の検討は、有償の準委任であり、それ以外の特約はないことを前提とします。

2 各契約の主な内容、特徴

(1)「履行割合型」準委任契約

 従来から明文化されていた準委任契約は「履行割合型」といわれ、稼働した工数や期間に応じて報酬が発生する点に大きな特徴があります。

ア 報酬を請求できる時期

 工数をこなした後となりますが、期間によって報酬を定めた場合はその期間経過後となります(民法第648条第2項、第624条第2項)。

イ 義務内容

 委託された作業について善管義務は負いますが(民法第644条)、成果物の完成までは目的(義務)としません。

ウ 再委任

 契約者間の信頼関係が前提にあるため、委任者の許諾がある場合、または、やむを得ない場合でなければ、再委任できません。

(2)「成果完成型」準委任契約

 成果物を納品することにより報酬が発生する点で、「履行割合型」と異なります。

ア 報酬を請求できる時期

 成果物の引渡しと同時です(民法第648条の2)。

イ 義務内容

 委託された作業について善管義務は負いますが(民法第644条)、成果物の完成までは目的(義務)としません。

ウ 再委任

 契約者間の信頼関係が前提にあるため、委任者の許諾がある場合、または、やむを得ない場合でなければ、再委任できません。

(3)請負契約

 当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約をいいます。

ア 報酬を請求できる時期

 成果物の引渡しと同時です(民法第633条)。

イ 義務内容

 成果物の完成が目的(義務)となり(民法第632条)、また、契約不適合責任を負います(民法第562条乃至第564条、第599条)。

ウ 再請負

 成果物の完成が目的なので、注文者の許諾などがなくとも可能と考えられています。

3 「成果完成型」準委任契約と請負契約の法的な類似性

 前項のように比較すると、「履行割合型」準委任契約は報酬請求の点で他の2つと大きく異なりますが、「成果完成型」準委任契約と請負契約は非常に似ているように思われます。

 もっとも、「成果完成型」準委任契約は、成果物の完成を目的(義務)とはせず、契約不適合責任も負いません(一部で、準委任にも契約不適合責任が適用される余地があるとの見解もありますが、ここでは割愛します。)。

 そうすると、ベンダーにとっては、請負契約より「成果完成型」準委任契約の方が、責任が軽いということになるのでしょうか。

 実は、一概にそうとも言い切れません。

 「成果完成型」準委任契約においては、前項のとおり、善管注意義務を負っているため、この善管注意義務に違反した結果、成果物が完成しなかった場合には、民法一般の債務不履行責任を負うこととなります。

 このように「成果完成型」準委任契約であっても、成果物の完成について、全くの無責任でよいというわけではなく、結局、請負と同等の責任を負っているとの評価も可能といえます。

 この考え方は、「履行割合型」準委任契約にも妥当するでしょう。

 もっとも、準委任契約も請負契約と同等の責任を負っているとはいえ、善管注意義務違反があったか、すなわち、ベンダーとして要求されるべきレベルの仕事を当該ベンダーがこなしていたかどうかを注文者が立証することは、成果物が完成したかどうかよりも立証のハードルが一般的には高いように感じますので、この点には留意する必要があります。

4 システム開発を締結する際のポイント

 上記のとおり、各契約には違いもあれば類似しているところもあり、システム開発契約を締結する際には、個別具体的な事情を精査し、どの契約の考え方をベースに合意形成していくべきか、慎重に検討する必要があります。

 もっとも、実際のシステム開発の実務では、「履行割合型」準委任契約なのか、「成果完成型」準委任契約なのか、請負契約なのか、判然としないケースもあり、むしろ、複数の契約の性質が混在するケースも見受けられます。

 私の肌感覚ではありますが、システム開発に関する紛争の大きな原因の一つは、注文者とベンダーの認識の齟齬です。

 注文者側からすれば、自らの頭の中で、成果物、すなわち完成後のシステムの形を思い描いているはずですが、それを全てベンダーに伝えていくことは困難でしょう。

 他方で、ベンダーは、専門的知識を前提にしているがゆえに、「このくらいは言わなくても分かるはずだ」「このような仕様になるのは当然であり、わざわざ説明する必要はない」との考えのもと、説明が必ずしも注文者にとって十分でない状況が生じ得ます。

 このような事情が重なることで、注文者とベンダーとの間に、成果物の認識に対する齟齬が生じてしまうのです。

 ですので、注文者とベンダーとの間で、綿密に、成果物たるシステムの完成形に関する認識のすり合わせ、共有をすることが、システム開発の契約締結の際には重要なポイントになると考えます。

 こういった認識のすり合わせを経たうえで、「そのようなシステムを作っていくためにはどのような契約の考え方をベースにすべきか。」という検討プロセスの過程で、上記でお示しした各契約についての考察を参考にしていただければ幸いです。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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