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買収防衛策と事前警告型ライツプラン

清水 敏

1 はじめに

 令和7年の株主総集中日(6月27日)も過ぎました(この原稿を書いているのは2025年6月末です。)、もう梅雨明けも迫っており暑い夏が始まります。

 昨年この時期に、経済産業省の「企業買収における行動指針」を参考に、「大量の株式を保有された場合における取締役会・取締役が執るべき行動」と題したコラムを掲載しました。

 同意なきTOB(敵対的買収)の発生件数は、今年も高水準で推移しています。

 本コラムでは、企業が執るべき対応として、買収防衛策について整理して、近年普及していると言われている事前警告型ライツプランについて紹介をします。

2 買収防衛策

 買収防衛策は大きく分けて、平時に導入される事前型と敵対的買収が現実化してから導入される事後型があります。

ポイズン・ピル(毒薬条項、事前型)

 特定の買収者が一定割合以上の株式を取得した際に、既存株主に新株を有利な条件で大量に付与する新株予約権を与えることで買収者の持株比率を希釈し、買収を困難にする手法

 後述する事前警告型ライツプランは、このポイズン・ピルの一種です。

 他にも、あらかじめ発行した新株予約権を信託銀行などに信託して、敵対的買収などがあったことを条件として、新株予約権を発動する信託型ポイズン・ピルがあります。

 この場合、買収提案があった場合、敵対的買収かどうか、独立した特別委員会がその提案の是非を審査させることもあります。

ゴールデン・パラシュート(事前型)

 経営陣が買収により退任する場合、高額な退職金などの経済的負担を発生させて買収を抑制する手法

 ゴールデン・パラシュートにより、買収の結果、経営陣は退任しても金銭的な補償を受けることができますが、自己保身と批判されることや 株主利益に反する場合もあると言われています。

ホワイトナイト(事後型)

 敵対的買収を仕掛けられた企業が、敵対的買収を仕掛けてきた企業(=ブラックナイト)に対抗するため、友好的な第三者企業に支援や買収を依頼して、敵対的買収を阻止する戦略

 ホワイトナイトには、買収を阻止できるが、結果的にホワイトナイトと提携が企業価値を毀損することや最終的に対象企業が買収されることに変わりはないとの指摘があります。

クラウン・ジュエル(王冠の宝石事後型)

 敵対的買収が顕在化した際、買収者が最も価値を見出している中核的な資産・事業(中核的な取引、子会社、ブランド、特許技術など)を、第三者に譲渡することで買収の魅力を低下させる手法

 クラウン・ジュエルには、企業の資産が既存することで企業価値が下がる可能性があるとの指摘があります。

3 企業価値を高める「事前警告型ライツプラン」とは?

概要

 事前警告型ライツ・プラン(Advance Warning Poison Pill)は、既存株主に新株予約権(ライツ)を付与することによって、敵対的買収者の持株比率を希薄化させ、買収の実行を困難にするポイズン・ピルの一種です。

 買収者に対して「事前に警告を発する」買収防衛策で、既存株主への透明性・正当性を重視した設計といわれています。日本の上場企業でも採用例があります。

♢ブルドックソース最高裁判決(2007年、事後型ポイズン・ピルを認めたもの)

 スティールパートナーズの公開買い付けに反対したブルドッグソース社が、同公開買い付けに反対をして、既存株主に対して新株予約権を付与しました。

 判決では、スティールパートナーズによって、ブルドッグソースの企業価値がき損され、株主の共同の利益が害されることになるような場合、その防止のためにスティールパートナーズを差別的に取り扱うことについて、株主平等の原則に反しないとして、新株予約権の付与を認め、ポイズン・ピルは一定の要件を満たせば有効であるとする指針となっています。

♢建付け

・株主に対し、一定の買収行為があったことを条件に既存株主に新株予約権を無償で与える。

・新株予約権は、時価より有利な価格で新株を取得できる内容で設定をして、既存株主に権利行使を促して、敵対的買収者の持株比率を希釈し、実質的に買収を阻止する。

♢メリット、デメリット

・事前に導入・公開されるため、市場や株主に周知されることで、透明性・予見性を確保できる。

・新株予約権を付与する際には、審査過程(例えば、第三者委員会)を設けて判断を行い、真に企業価値を高める提案かどうかを見定めるため、恣意的運用を防止する。

・デメリットは、経営陣の自己保身、株主平等原則との緊張関係が生じることです。新株予約権付与の適正は、第三者委員会がどれだけ公正・適正に判断ができるかに依存してしまうことになります。

 現在、上場企業では株式の持ち合いが急速に進んでいます。

 株主総会に関わると、買収対抗策については、企業のみならず特に既存個人株主の関心が強まっていることを肌で感じます。

 東京証券取引所は、ポイズン・ピル自体を禁止していませんが、ポイズン・ピルを導入している企業に対して、その必要性や正当性、手続きの公正性などを十分に説明するよう求めています。

 特に、濫用を防ぐために、社外取締役や第三者委員会による評価・判断について運用状況を注視しているところです。

 今後も、これらの企業に関わる弁護士として、専門的・中立的な観点から企業価値向上に貢献して参ります。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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