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採用内定に関する法律問題

九石 拓也

先日、来春の大学卒業予定者の就職内定率が4年連続で改善したとのニュースがありました。企業が継続的に事業を行うには、新たな人材の採用が不可欠です。今回は、新卒者の採用に関わる「内定」の問題について、取りあげてみます。

●「内定」の法律関係

企業が採用を決定した後、実際に入社し就労が始まるまでの関係を、一般に「内定」といい、特に新卒採用の場合、その期間は相当長期になることもあります。そもそも、この「内定」とは、法的にみてどのような関係なのでしょうか。

最高裁は、企業の募集に対する応募は労働契約の申込みにあたり、企業からの採用内定の通知は申込みに対する承諾にあたるとして、これにより労働契約が成立するとしています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。ただし、労働契約の開始時期は卒業後であり、また、提出される誓約書等に記載された内定取消事由が生じたときには解約できるという、始期付・解約権留保付の契約関係と考えられています。

●研修参加の義務

内定期間中に研修等を実施することがありますが、その参加が義務か否かは、企業と内定者との合意(成立した労働契約の解釈)の問題です。参加の合意があったと認められる場合でも、学業の都合等の合理的な理由がある場合には、研修を免除すべき信義則上の義務があるとした裁判例があります(宣伝会議事件・東京地裁平成17年1月28日判決)。

●内定の取消し

採用内定の取消しは、留保された解約権の行使として行われますが、労働契約が成立している以上、解雇の場合と同様、解約権の濫用となるような取消しは認められません。内定の取消しは、採用の当時知ることができず、知ることが期待できないような事実で、そのことを理由に内定を取消すことが、解約権留保の趣旨や目的から客観的に合理的で、社会通念上相当といえる場合に限るとするのが判例です(上記大日本印刷事件)。成績不良等による卒業の延期、健康状態の著しい悪化、重要な経歴の詐称等の重大な虚偽申告などの場合には、個別の事情によりますが内定取消しに合理性・相当性が認められることもあるでしょう。

また、内定後の企業の業績悪化を理由に取消す場合でも、いわゆる整理解雇の4要素((1)人員削減の必要性、(2)人員削減の手段として整理解雇することの必要性、(3)人員選定の合理性、(4)手続の妥当性)を考慮して判断するものとされます。もっとも、既に継続的な就労関係にある一般の従業員と比べ、多少緩やかな基準で認められるべきでしょう。

●内定の辞退

では、内定者の都合による内定辞退は可能でしょうか。あるいは内定辞退者に対する企業からの損害賠償請求は認められるでしょうか。

契約期間を定めない労働契約の場合、労働者は2週間の予告期間を置いて解約することができます。解約の理由に限定はありません。したがって、入社日の2週間前までに内定辞退の通知があった場合には、労働契約の解約は有効で損害賠償請求は困難です。入社日直前の内定辞退の場合、2週間が経過するまで労働契約は終了しませんが(もちろん企業が辞退に応じれば、その時点で契約終了になります。)、それにより法的に請求可能な損害が発生することは稀と思われます。

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