弁護士コラムバックナンバー

従業員持株制度

仲田 信範

 従業員持株制度という言葉を聞いたことがあると思います。

 ここでは,主に親族間で株を所有しているケースにおける従業員持株制度を活用することの利点についてお話します。

 親族間で株を持ち合っている場合に一番起きる問題は,会社の経営権をめぐる争いです。

 その次は承継(=相続)です。創業者である現経営者の後,誰がどのように会社を引き継ぐのか,という問題です。

 これらの問題の解決は簡単ではありません。

 特に小なりといえども売上が増えている,従業員も百人を超える,いわば成長期の会社では,取引先や従業員を巻き込み,深刻な事態になります。

 役員はもちろん,従業員にとっても一番困るのは,脱税をしたり,会社のお金を横領したり,倫理観が欠如している経営者が支配しているケースです。

 会社がどんなにうまく成長していても,いつ,内部から会社が崩壊してしまうか,分からないからです。

 このような事態を引き起こさないためには,一人の株主が単独で過半数の株を所有するのではなく,複数の株主にバランスよく株を所有してもらうことが大切です。

 一人の株主が権限を逸脱したら,他の株主が合従連衡してその株主に対峙できるようにすることです。

 だから企業のオーナーはどの株主が,どの程度株式を保有しているかについて,絶えず気を配ることは重要な役割です。

 自分が会社をうまく経営する以上に大事なことです。

 決して未熟で不完全な者に主導権やキャスティングボートを握らせてはなりません。

 相続が難しいのはこの点です。

 息子や娘に継がせたいが,息子や娘に能力や責任が備わっているとは限らないからです。

 会社運営のためには株は集中していることが必要ですが,会社の適正な運営のためには,株は分散が不可欠です。

 適切に分散することで偏頗な運営を防止し,複数の目で経営を見守り,破壊的な経営から会社を守ることができます。

 ところで,会社にとって一番適切な株主はどこにいるでしょうか。

 私の推測では,会社の日常的な運営を継続的に間近に見ている人ではないでしょうか。

 すなわち取引先,金融機関,従業員などです。税理士,弁護士等の専門家も専門分野を通じて会社の経営実態を客観的に把握できます。

 だからこのような人達にバランスよく株を持ってもらう必要があります。

 中でも株主としての従業員は,他の株主と比較して特別な地位にあります。

 というのは従業員にとって会社の運営の在り方は,自分の将来に大きな影響があるからです。

 安定した経営や魅力ある経営は,収入だけでなく従業員の将来を切り開きます。

 従業員としても安定した魅力ある仕事を続けるためには働きやすい環境作りが不可欠です。

 だから従業員の立場からも会社の運営に関与することは,一般の株主とは違い,本質的な事柄が含まれています。

 経営者からみれば,自分が築き上げてきた事業をどのように次世代に承継していくのかは重要な課題です。

 せっかく育ててきても適切な承継者がいなければ,会社は処分するか廃業しなければなりません。

 だから経営者にとって次の時代を担っていく人を育てる環境を作ることも大事な経営の一環です。

 経営者は日常,従業員に接触しお互いに仕事をしている仲ですから,一番従業員の特性を認識できます。

 誰が会社の経営者としての資質があるかを知ることができます。

 いうまでもなく会社の所有者は株主です。

 株を処分すること以外に株主にできることは,経営者の選択です。

 候補者の中から自由に選択できます。

 でも候補者はあらかじめ存在していません。

 株主が候補者を発見しなければならないのです。

 この候補者の発見が一番困難であるとともに,株主にとって最大の仕事です。

 従業員持株制度は,単に従業員の福祉制度としてだけではなく,株主が次世代の経営者の候補者を発掘する場として活用することもできます。

 このような観点からも従業員持株制度の導入と運営を検討されたらいかがでしょうか。

 導入を検討する際には,当事務所にご相談ください。

 従業員持株会の設立・運営に関する税務処理についてもご説明いたします。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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