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社外役員となって

清水 敏

1 はじめに

 2016/9/16付の日経新聞朝刊で「社外取締役 女性4割増」との記事があった、この記事によると、本年において東証1部上場企業の女性社外取締役が479人、女性社外役員を起用した企業が436社となり、昨年より女性社外役員数、起用企業数ともに4割増加したということである。

また、最近、国内最大手の小売販売業者において、長年経営に携わっていた経営者を役員に残すとの人事案が、社外取締役からの反対を受けて右経営者が退任に至るという事件も発生し、社外取締役制度の功罪について論議が活発に行われている。

日本での社外取締役、社外監査役(以下あわせて「社外役員」)の歴史は長いとはいえないが、いずれの事象も、今後は好むと好まざるにかかわらず、社外役員制度を活用することが企業の使命となっていくことを示唆している。

私も社外監査役として、いくつかの企業の役員に就任する機会が与えられているが、これも弁護士を社外役員として活用するという社会の要請があるためであろう。

改めて、社外役員には何が求められているのか考えたい。

2 社外役員制度導入のきっかけ

最も大きなきっかけは、平成26年6月に改正された会社法である。改正会社法は、グローバル化が進展する企業環境において、企業のガバナンスの強化として、社外役員を活用して取締役会の業務執行者に対する監督機能の強化を行った。

この監督機能強化は、日本企業の信頼性を高め、日本企業に対する投資を呼び込み、経済を再成長させるのが目的といわれている。

監督機能強化策は主に3つであり、いずれも社外役員の役割を重視したものである。

(1) 監査等委員会設置会社制度の創設

監査等委員会は、3人以上の取締役から成り、かつ、その過半数を社外取締役が構成員となって業務執行の監査を担うとともに、取締役の人事に関して株主総会における意見陳述権を有する。

(2) 社外役員となるための要件の厳格化

社外役員には、株式会社又は子会社の業務執行者等に加え、親会社の業務執行者等及び兄弟会社の業務執行者等、その株式会社の業務執行者等の近親者はなることができなくなった。

(3) 「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明

上場会社等の取締役は、社外取締役を置かない場合、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないこととなった。

3 社外役員に期待される役割

社外役員制度に否定的な意見として、社外役員は社内の情報に接する時間が限られ会社のことを理解していない、このような社外役員に会社の判断を任せられないということが指摘されている。

実際に、社外役員が世間の耳目を集める大きな判断を下すほど、その社外役員の判断には賛否の議論が付きまとう。また、社外役員が増加しても、単に社外役員を入れただけ(株主総会で社外取締役がいないことの説明を避ける目的など)で、会社の監督機能の強化が図れるわけでは当然ない。

しかし、近年表面化した不正会計事件を起こした大手電機会社、不正な燃費表示を行う大手自動車会社において、会社内の人間だけで、これらの事件を防げたであろうか。

現在でも日本企業には終身雇用制の残滓が存在する。同じ社内で机を並べて長年業務していれば社員がみな同じような思考となり、リスクを皆が見落とすこともあろう、また、仲間意識が芽生え追及の程度が弱くなることも自然である。

このような社員構成の多様性の喪失が、社外の意見の取入れに遅れにつながり、戦後世界を席巻した日本の技術、製品が、いつしか「ガラパゴス」と評価されるようになった一因であると考える。

企業は常に流動する経営環境の下で適切適時な判断を行っていかなければならないが、その判断を身近な同じ会社内の社員だけで決定するのではなく、意思決定の際に、うまく社外役員の多様な知識、経験を織り込むことができれば、経営の選択肢を増やし、強靭な企業の成長を見込め、引いては日本経済の再成長も期待できよう。

3 おわりに

「いかなる悪しき先例も、最初は正当なる措置として始まる」と、かつてユリウス・カエサルは言った。

私は、社外監査役として様々な会社の意思決定に関わり、実際に取締役会等に出席しているが、さらに、取締役会だけでは腑に落ちないことがあれば、取締役会以外の事業会議にも出席をすることにしている。社内役員、一般社員とも事業計画の方針や進捗について突っ込んだ議論を行っていることを実感している。

「社外」という立場ではあるが、会社の社員とは同じ船に乗った仲間である。ぜひ、社外役員として関わった企業には、社外監査役導入の成果を得られるように、質の高い監査活動を行いたい、間違っても「悪しき先例」などにはしない決意をしているところである。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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