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新株発行不存在確認訴訟

仲田 信範

株主総会

 株主総会の権限について会社法は「株主総会は株式会社の組織,運営,管理その他株式会社に関する一切の事項について決議できる。」と定めています(法295条)。

 株主総会が,会社運営の最高意思決定機関であることを定めたものです。

 会社を代表して日常的な運営をするのは代表取締役です。

 この代表取締役を選任するのは取締役会です。

 だから株主総会の権限の中でも代表取締役を選任する取締役を選任することが一番重要な権限です。

 この仕組みは,国民が国民を代表する首相を直接選ぶのではなく,国民は選挙で衆議院議員を選び,衆議院が首相を選ぶ構造に似ています。

株主の選定

 では,株主はどのように定めるのでしょうか。

 株式会社設立時には出資をした者及び株式の募集に応じた者が,その割合に応じて株主になります。

 会社設立後は,会社が行う新株発行手続きで引受をした者がその割合に応じて株主になります。

 すでに株主であったものが新株発行を引き受けた場合には持株数が増加することになります。

 上記の創立時における株式の募集手続き及び新株発行の手続きは会社法に詳しく定められています。

 株主の選定は会社運営の根幹に係る制度ですので代表取締役が取締役会の同意のもとに厳格な手続きで行います。

新株発行不存在確認訴訟

 株式の発行手続きに瑕疵があった場合,一般の訴訟と同じように個々の新株の引受についてその瑕疵を争うことは可能ですが,その効果は当該訴訟当事者に限られます。

本稿では,新株発行について,個々の株式引受ではなく,会社法に基づいて新株発行の有効・無効について画一的な判断を求める新株発行不存在確認訴訟について述べます(会社法841条1項)。

 新株発行不存在確認が認められる事由の第1は,新株発行について払込がなされていない場合です。

 見かけ上は払込がなされているような外形はあっても,その実体は「見せ金」で実際には払込がなされていない場合も不存在が認められます。

 新株発行手続きに代表取締役が関与していない場合にも原則として不存在確認が認められます。

 ただし具体的な事情によっては認められないケースもあり微妙です。

 新株発行に取締役会の決議や株主総会の決議がない場合やその他の法令違反がある場合,不存在にはならず,新株発行は有効とされています。

新株発行無効確認訴訟 

 この訴訟と同じ類型の訴訟として新株発行無効確認訴訟があります(会社法828条1項)。

 無効確認が認められる事由として,定款違反があります。

 たとえば定款にない種類の新株の発行や,定款に記載された発行総数を超える新株の発行です。

 次に法令違反,たとえば新株発行に代表取締役が関与していない場合も無効原因になりますが,新株発行に取締役会の決議がない場合は無効原因にはならないとされています。

 譲渡制限会社が新株を発行するには株主総会の決議が必要とされていますが,それがない場合には無効原因とされています。

 その他の法令違反がある場合には,それぞれの具体的な事由によって結論は異なっているので,注意が必要です。

上 記で述べた2つの訴訟類型はいずれも発行された新株を,画一的に無効又は不存在とするものですから,その判決は訴えを提起する当事者だけでなく同じ立場の第三者にも効力があります。

 そのため,いずれの訴訟でも被告は会社としなければなりません。

 出訴期間には大きな違いがあります。

 新株発行無効確認訴訟は法的安定性の観点から新株発行の日から6か月以内に提起しなければなりません。

 それに比して新株発行不存在確認訴訟は,出訴期間に制限はありません。

 詳しいことは専門家に相談することをお奨めします。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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