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RIZAPによるワンダーコーポレーションの買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年3月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1. はじめに

 RIZAPグループ株式会社(以下「R社」という)および株式会社ワンダーコーポレーション(以下「W社」という)は、2018年2月19日、R社がW社の株式を公開買付け(TOB)し連結子会社とするとともに、W社の取締役会は当該公開買付けに賛同の意見を表明すると発表した。

 R社は、RIZAPのTVコマーシャルで有名なプライベートジムRIZAPを全国展開している急成長企業である。2018年3月期第3四半期報告書(2017年4月1日から12月31日)によると、売上収益991億2957万3000円,税引き前利益71億1304万5000円と発表している。札幌アンビシャス上場銘柄であるが、近年はM&Aによる事業の多角化を進めており、メインの美容・健康関連事業の他、アパレル関連、住関連ライフスタイル、エンターテイメント部門がある。

 他方、W社は、茨城県を本拠にスーパーマーケット事業を展開する株式会社カスミ(以下「カスミ」という)の子会社であり、CDやゲームを販売する「ワンダーグー」を展開するほか、2012年4月にはTSUTAYAの有力フランチャイジーの一社である旧株式会社サンレジャー(現株式会社VADAWAY)を子会社化し、2013年2月には大型CD店「新星堂」を連結子会社化し、2016年には同社を吸収合併している。ジャスダック上場銘柄であり、2018年1月第30期第3四半期報告書では、2017年3月1日から11月30日までの売上高532億9087万6000円,経常利益1億9173万1000円と発表している。

 しかしながら、国内の人口減少や近年のスマートフォンの普及によるネット配信の一般化により、エンターテインメント商材の販売・レンタル等の国内市場が縮小してゆくとともに、W社の業績も悪化し、2016年度以降の決算では赤字に転落し、厳しい経営環境が続いていたようである。

 両社は、今回のM&Aでは、R社が買収したW社の店舗の中に、RIZAPのトレーニングジムを設けてRIZAPの店舗拡大を図るとともに、W社においても、フィットネスジムを併設するなど顧客ニーズに合わせた複合型店舗を展開することで、集客力の増加を図ると説明している。

2. M&Aのスキーム

 両社の発表によると、買収されるW社の株主構成は、親会社のカスミが筆頭株主として43.11%(240万4200株)保有していることから、カスミから保有株式を公開買付価格1株当たり980円で買い付けることになる。よって、買付総額は単純計算では、およそ23億5,611円となる。

 加えて、W社はR社を割当予定先として第三者割当の方法による新株発行(198万株、1株835円、総額16億5330万円)を行うことも発表している。かかる第三者割当後のR社の保有株式割合は、58%にもなる。

 公開買い付けによって、カスミ以外の応募者が多くなると、W社の上場基準に抵触する事態もあり得るため、対策が検討されているようである。

 公開買付価格については、市場株価法に基づき2018年2月16日を基準日として、1株913円から928円と試算しているので、公開買付価格980円は市場株価の最低価格913円を基準としても、その7%高でしかないので、一般株主からの買取はあまり想定していないものと思われる。実際に、本件M&Aの発表後、W社の株価は急騰して一時は2000円を超えたようであるが、現在は1300円程度で推移している。

 2018年3月23日付R社の発表では,369万1812株の株式を買い付けたとのことである。R社にとっては,安い買物となったのではないか。

3. 課題

 本件公開買付は、CD等のエンターテイメント商材市場の縮小に応じたW社の救済的な側面も強いが、R社にとっては、急速な店舗拡大を図るための投資としては、効率の良い投資であったと思われる。TVコマーシャルを多用したR社の営業センスの高さやその収益力の強さから、かかる大きなM&Aが可能となったものと考えられる。

 またM&Aとともに、R社はW社の増資にも応じることにより、W社の業態変更への投資(フィットネスジムの併設など)を促すことも合わせて計画されており、今後のシナジー効果が大いに期待されるところである。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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