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大型ドラッグストアのM&A

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2019年9月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

第1 はじめに

 2019年8月14日、ドラッグストア業界第5位の株式会社マツモトキヨシホールディングス(以下「マツモトキヨシ」という)と第7位の株式会社ココカラファイン(以下「ココカラファイン」という)は、両社による経営統合の協議開始を発表した。

 マツモトキヨシの2018年度連結売上高は5759億円で店舗数1654店、ココカラファインの売上高は4005億円、店舗数1454店であることから、両社の完全な経営統合が完了すれば、売上高で1兆円に迫るドラッグストアとなり、現在業界第1位の株式会社ツルハホールディングス(売上高7824億円、店舗数2082店)を大幅に超える業界第1位となる。

 ただし、両社は、今後、経営統合に向けて協議を開始するとともに、ココカラファインがマツモトキヨシに対して独占交渉権を付与し、基本合意を締結した上、最終契約を締結する予定と発表している。

第2 ドラッグストア業界における大型M&Aの真相

 ドラッグストア市場は拡大を続けてきたものの、都市近郊では飽和状態に近くなってきており、店舗間の競争も激しく、各社、それぞれ売上高を伸ばしてきたが、複数の大型ドラックストア同士が群雄割拠している状態といわれている。

 実際に、マツモトキヨシを例にとってみると、マツモトキヨシの2013年度の売上高は5000億円弱で業界第1位であり、5年後の2018年度には、売上高は5759億円に増えているものの、業界の順位は第5位に落ちている。利益重視の経営に転換したといわれていたが、他社がM&Aを駆使して、売上高を伸ばしてきたものと思われる。

 今回の買収劇の経過は大変興味深いものがある。当初、2019年4月26日にマツモトキヨシがココカラファインと資本業務提携の協議に入ったことを発表した途端、翌日の4月27日には、業界第6位のスギホールディングス株式会社(以下「スギ」という)がココカラファインに対して、経営統合案を送付するなど、マツモトキヨシとスギによるココカラファインの争奪戦が始まった。

 これが奏功したのか、2019年6月1日には、ココカラファインとスギが経営統合の協議開始を発表し、同月5日には、マツモトキヨシはココカラファインとの経営統合をも選択肢に入れると表明し、同月10日にココカラファインは、特別委員会を設置して検討すると発表している。最終的には、8月7日に特別委員会がマツモトキヨシとの経営統合を答申したことから、8月14日に、ココカラファインはマツモトキヨシとの経営統合の協議開始を取締役会で決定した。

 ココカラファインが第三者による特別委員会を設置し、専門家から構成される特別委員会にマツモトキヨシとスギのどちらが良いのかの選択を委ねた背景には、経営統合の形態が合併であれば、株主総会で特別決議を得る必要があり、オーナー経営者ではないココカラファインの経営陣としては、選択の責任を回避する狙いもあったと推察される。

第3 経営統合の課題

 当初、マツモトキヨシはココカラファインに対する資本参加及び業務提携により、マツモトキヨシのプライベートブランド商品のココカラファインでの販売などを考えていたようであるが、スギが経営統合で参戦してきたため、ココカラファインとの経営統合を選択したと思われる。

 両社とも東証第1部の上場企業であるから、合併をしようとすれば、一方による他方の吸収合併か、両社を存続させてホールディングス会社を設立するのか等の合併形態の選択、企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針の遵守、公正な企業価値の算定、合併比率の決定、社名及び人事の決定など、多数の検討課題を克服しないと完全な経営統合は不可能である。完全な経営統合までの道のりは容易ではないと想像される。

 実際に両社の1株当たりの純資産額と株価とを比較してみると、2018年度連結決算書上の1株当たりの純資産額はマツモトキヨシは2,038.76円で、ココカラファインは3,958.25円、他方、経営統合発表後の2019年8月16日の株価はマツモトキヨシが3,555円で、ココカラファインは5,430円である。これを対比してみると、以下の通り、ココカラファインの方がマツモトキヨシより、1株当たりの純資産額を基準に見ると、株価は安いことがわかる。最終的には、両社の経営陣が、自社の株主が納得する合併比率を決定する必要があり、両社の協議は複数の利害が絡みあって、相当困難なものとなることが推察される。

 1株当たり純資産額(2018年度)株価(2019/8/16)
マツモトキヨシ2,038.76円3,555円
ココカラファイン3,958.25円5,430円
単純比率194%153%

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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