弁護士コラムバックナンバー

契約文言の解釈について

小川 隆史

 1 前回私が担当したこの弁護士コラムでは、契約の解釈として、契約対象範囲について当事者間に認識の違いがあった場合にどのように扱われるかを取り上げましたが、今回は、保険約款の「落雷」という文言の解釈が争われた事例について考えてみたいと思います。

2 甲社が、保険会社との間で、事務所建物及びその建物内の什器備品等を保険目的物として店舗総合保険契約を締結していましたが、これに適用される保険約款には保険金を支払う事故の一つとして「落雷」が挙げられていました。

そして、ある日発生した落雷に伴って生じた瞬間電圧低下によって、甲社でパソコンのネットワークに接続されたハードディスクが損傷しました。

瞬間電圧低下(瞬低)とは、発電所から配電用変電所までの特別高圧送電設備のいずれかの箇所に落雷があった場合に、落雷による異常高電圧エネルギーが下流に流れて停電等が発生することを避けるために、変電所において自動的に当該送電系統の送電を遮断して別の送電系統からの送電に切り替える際に、下流の送電網に0.07秒から2秒程度の間、電圧低下が生じることをいいますが、保険会社が、瞬低によって生じた本件損傷は、本件約款が保険金を支払うべき場合として定める落雷によって保険目的物に損害が生じた場合には当たらないとして甲社の請求を争ったため訴訟となりました。

3 第一審の高知地方裁判所平成26年10月8日判決は、「店舗総合保険によって補償の対象とされる『落雷による損害』は、落雷によるエネルギーを直接受けて保険の目的物が破壊された損害を担保することを想定してはいるものの、このような損害に限定されているわけではない(落雷が間接的な原因であるというだけで、当然に、保険金の支払事由に該当しないとはいえない)ものと解するのが相当である」とした上で、「本件落雷がなければ、瞬時電圧低下が生ずることはなく、本件損傷が生ずることはなかったといえる上、上記認定事実によれば、本件と離れて一般的に観察した場合でも、落雷によって瞬時電圧低下が発生し、ハードディスクが損傷するという事態が生ずる蓋然性は高まることからすれば、本件落雷と本件損傷との間には相当因果関係があるものというべきである」とし、「本件落雷により本件損傷が発生するメカニズムは単純なものであり、時間的にも瞬間的なものであって、近い関係にあるともいえるのである」等として、甲社の保険金支払の請求を認容しました。

4 これに対し、同事件の控訴審判決である高松高等裁判所平成28年1月15日判決は、保険約款改正に至る経緯(店舗総合保険は火災保険商品であるが、火災保険は、もともとは火災のみを保険事故とするものであったところ、落雷が引き続いて火災につながり保険目的物に損害が生じた場合には損害填補が認められるのに対し、火災につながらず落雷ショックにより保険目的物に損害が生じた場合には損害填補が認められないことが均衡を欠くことから落雷も担保されることとなった)や保険料率の算定(落雷独自の危険測定に基づいた保険料率の算定は行われておらず、落雷火災の場合と合わせて火災危険の測定の中に抱合されているものとして算定されたこと)を認定した上で、「『落雷』との用語の理解としては、国語辞典によれば、雷が落ちること、すなわち雷雲と地上物との間の放電として説明されていること(広辞苑第6版)からみても、雷による異常高電圧電流が対象物に通電した場合と解釈するのが一般的な理解であると認めるのが相当である」とし、「本件約款にいう『落雷』により損害が生じた場合とは、異常高電圧電流の通電など落雷のエネルギーによって直接に保険目的物に損害が生じた場合をいうものと解するのが相当である。したがって、保険目的物を雷が直撃する場合はもちろん、直撃ではなくとも、例えば近傍の柱上トランス付近に落雷したため、引込線でつながっている保険目的物の内部を異常高電圧電流が通電した場合には、保険事故となる」と判示し、そのような場合には該当しない瞬低により生じた本件損傷は「落雷」により生じたものと認めることはできないとして、甲社の保険金支払の請求を棄却しました。

5 第一審判決では、相当因果関係や落雷と瞬低の損傷が「近い関係」にあることへの言及があり、瞬低が落雷によって惹起されたものである以上補償されるべきという保険契約者の期待感に親和性があると思われます。

一方で、「落雷」が約款で担保されるようになった経緯や保険料率の算定も踏まえて限定的に解釈した控訴審判決については、送電網の極めて広範囲に損害が生じ得る瞬低を含めることの不都合(保険料とバランスがとれない)という保険の機能への着目も感じられます。

結論として、第一審判決と控訴審判決で判断が正反対となっており、文言解釈の難しさを示している事例であるといえますが、本件については上告及び上告受理申立がなされていますので、最高裁の判断が興味深く待たれるところです。

以上

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