弁護士コラムバックナンバー

AI契約書レビューに関する考察

綱藤 明

第1 AI契約書レビューとは

 近年、法律が関わる業務についてITやAIを使って効率化を図るリーガルテックが急成長を遂げています。

 特に、AIによる契約書レビュー(以下「AI契約書レビュー」といいます。)を提供するサービスは、CMなどでも、多々目にするようになりました。

 AI契約書レビューとは、AIが、契約書の内容について、条文の抜け落ちがないかなどを自動的にチェックするサービス(具体的なサービス内容はシステムにより異なります。)を指します。

 業務時間の縮小や人的コストの削減など、企業にとって一見メリットが大きいように思えるこのAI契約書レビューは、今、大きな注目を集めています。

第2 AI契約書レビューの適法性

1 非弁行為との関係

 このようにメリットが大きそうなAI契約書レビューですが、実は、現在、ある問題に直面しています。

 それは、AI契約書レビューが、非弁行為(弁護士法第72条)に該当し、違法なのではないかというものです。

 まず、非弁行為とは

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすること」

 であり、つまり、平たく言えば、

    ①弁護士または弁護士法人でない者が、

    ②報酬を得る目的で、

    ③法律事件に関して

    ④鑑定等の法律事務を取り扱い、又は斡旋することを

    ⑤業(反復して行う意思のあるもの)とする

 ことをいいます。そして、弁護士法第72条はこのような非弁行為を禁止しています。

 非弁行為が禁止される趣旨は、弁護士「資格を有さず、なんらの規律にも服しない者が、自己の利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とする行為を放置すれば、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、これを禁圧する必要がある」(最判昭和46年7月14日判決)というところに由来します。

 要するに、無資格で弁護士法などの規制も受けない者が、第三者の事件に介入することは、当該第三者の権利を害するなど、かえってトラブルになりかねないので、そのような行為を禁止しているのです。

 そして問題となっているのは、AI契約書レビューのサービス提供が、弁護士もしくは弁護士法人ではない者が提供する、一般の法律事件に関する鑑定業務に該当し、禁止されている非弁行為にあたるのではないかという点です。

2 AI契約書レビューサービスの非弁行為該当性

 この点について、法務省は、令和4年10月14日、一つの見解を示しています(法務省の詳細な回答は、法務省ホームページをご参照ください。)。

(1) まず、「法律事件」に該当するか否かについて、法務省は、

「レビュー対象契約書に係る契約は、その目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等の点において様々であるところ、「その他一般の法律事件」に該当するか否かについては、このような個別具体的な事情を踏まえ、個別の事案ごとに判断されるべき事柄である。そのため、契約類型にかかわらず、個別具体的事情によっては、本件サービスが弁護士法第72条本文に規定する「その他一般の法律事件」に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない。」

 との見解を示しています。

 すなわち、AI契約書レビューは、「個別具体的事情によっては」という留保が付くものの、弁護士法72条の要件のうち、「法律事件」に該当する可能性を指摘しています。

(2) 次に、「鑑定等の法律事務」にあたるかについては、

「レビュー対象契約書の条項等のうち、あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるものである限り、「鑑定(中略)その他の法律事務」に当たるとはいい難い」

 として、単に言語を比較したものは「鑑定」にあたりがたいが、これを超えて、「法律上の専門知識に基づいて法律的見解を述べるもの」は「鑑定」にあたると評価される可能性がないとはいえないと指摘しています。

(3) 以上のとおり、法務省の回答は、AI契約書レビューサービスのうち、単に言語を比較することを超えた法律的見解を述べるサービスについては、非弁行為に該当する可能性を示唆するものといえるでしょう(但し、サービス利用者が弁護士または弁護士法人だった場合の例外はあります。)。AI契約書レビューと弁護士の仕事領域

3 AI契約書レビューとの共存の必要性

(1)AI契約書レビューとの共存の必要性

 前項のとおり、AI契約書レビューサービスには、非弁行為抵触の可能性というクリアしなければならない課題が残っているところではあります。

 もっとも、リーガルテックに対応した弁護士法改正や解釈変更の可能性は十分に考えられ、また、上記法務省回答を前提とした新たなAI契約書レビューサービスが開発されることもあり得る以上、弁護士としては、AI契約書レビューとすみ分け、または、共存していく方法を模索するフェーズに入っているように思われます。

(2) 弁護士に依頼する場合のメリット

ア 事業実態を把握したレビューができる

 例えば、同じ「業務委託契約書」というタイトルでも、その仕事分野やビジネスモデルによって、契約内容は大きく異なってきます。

 特に、新規ビジネスを立ち上げる際は、先例がなく、AIによっても契約書レビューは難しいでしょう。

 このように、個別具体的な事業内容を前提に、よりトラブルの起こりづらい契約書を作成するためには、やはり、弁護士の役割は非常に大きいと考えます。

イ 取引先との関係性を意識したレビューができる

 弁護士であれば、契約締結交渉の際に、相手方とのパワーバランスを考慮して、条文の文言を精査、選定することができます。

 例えば、クライアントが、ある取引先と契約締結交渉する場合、当該クライアントにおける当該取引先と契約を締結する重要性、契約締結までにかけられる時間の長短、その他あらゆる事情に応じて、各条文の修正箇所の優先度を検討し、クライアントに提案することが可能です。

ウ 柔軟な文言選定が可能

 前記イにも関連しますが、契約締結交渉においては、取引先との関係上、「○○という文言は使いたくない」「あえて柔らかい表現を使いたい」などのニーズが生じることがあります。

 このような場合であっても、弁護士であれば、法的有効性を考慮しながら、クライアントのニーズに沿った文言を選定できます。

4 結語

 AI契約書レビューは前記のとおり、弁護士法との関係でクリアしなければならない問題もありますが、遠からず、何らかの形で適法に利用できる未来がくることが予想されます。

 そうなったとき、利用者は、AI契約書レビューのメリットとリスクをしっかりと把握し、AI契約書レビューと弁護士をうまく使い分けて活用していくことが、事業活動効率化の鍵となっていくのではないでしょうか。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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