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KDDIによるソラコムの買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2017年9月にM&A情報広場に掲載されたものです。)

1.はじめに

 KDDI株式会社(以下「KDDI」という)と株式会社ソラコム(以下「ソラコム」という)とは、2017年8月2日、KDDIがソラコムの発行済株式を取得する株式譲渡契約を締結し、KDDIはソラコムを連結子会社とする予定であると発表した。

 ソラコムは、通信プラットフォーム「SORACOM」を提供するMVNOで、IOTの普及に必要なモバイルデータ通信回線を使ったクラウド上でのIOT管理ソリューションを提供する創業2014年11月10日のベンチャー企業である。

 クラウド上でIOTを管理できるソリューションを開発するという柔軟な発想から、ソラコムの顧客は自らIOT用の通信インフラ等を構築することなく、独自のIOTシステムを構築できるようになる。

 このように柔軟な発想で開発された「SORACOM」は市場の注目を集め、短期間で開発資金を集めることにも成功し、わずか創業3年でビジネスは急速に拡大した。

 その矢先に、データ通信のインフラを提供する大手通信会社のKDDIがソラコムを買収して連結子会社化するというニュースは、市場を驚かせたに違いない。

2.買収スキーム

 日本経済新聞社の2017年8月16日付報道によると、買収スキームは正式には公表されていないが、KDDIはソラコムの株式の過半数を約200億円で買収した模様である。

「株式の過半で200億円だから、ソラコム全株の価値は200億強〜400億円弱と評価されたことになる。過去の資金調達から推測すると、ソラコムの純資産は30億円程度。すると、ソラコムは純資産のざっと6〜13倍の価値があるとKDDIに認められたことになる。」

 未公開企業の企業価値の判定は、DCF法に基づく複数の企業価値の試算をもとに、最後は企業間の交渉によって決定されるが、KDDIはソラコムには極めて高い企業価値があると評価したものと思われる。他方、買収価格のうち、純資産額を超える部分は暖簾として処理されるものと思われるので、買収後、当初の事業計画が狂い、赤字が継続するなどの不測の事態が発生すると、巨額の減損リスクを抱えることになる。

 企業のM&Aには、かかる減損リスクが潜んでいるので、その経営判断は慎重に行わなければならないが、減損リスクがあっても買収を決断することも必要であり、簡単にその是非を評価することはできない。

3.今後の進展

 市場にとって最も気になる点は、KDDIがソラコムを独占し、KDDI以外のモバイルデータ通信回線を使用させないことであるが、ソラコムは、「今後、海外の通信キャリア向けにサービスを展開するには通信会社との深い関係が重要です。KDDIは第1のお客さんではありますが、KDDI以外の通信会社に対してもサービスを提供していくことを合意してもらいました」(https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ09HJF_W7A810C1000000/)と述べているので、KDDIの買収の狙いは、モバイルデータ通信回線を提供するKDDI側として、MVNOであるソラコムの経営基盤を強化し、IOTの普及を加速度的に促進することにあると思われる。

 また、将来は、ソラコムをMVNOの枠を超えて、IOTに特化したデータ通信ソリューション企業として発展させてゆくことができれば、日本経済の発展に大いに貢献するものと期待される。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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