シオノギ製薬によるUMNファーマへのTOB
(このコラムは、2020年2月にM&A情報広場に掲載されたものです。)
1.はじめに
シオノギ製薬(塩野義製薬株式会社、以下「シオノギ」という)は、「シオノギ」の愛称で親しまれている創薬型製薬企業の老舗である。
鎮痛薬「セデス」、総合ビタミン剤「ポポンS」などが有名であるが、その後、抗生物質の研究に力を入れ、近年は自社開発の感染症治療薬や疼痛治療薬などを製造するとともに、高コレステロール血症治療薬「クレストール」の成功から、感染症、代謝性疾患および疼痛の重点3領域の研究開発に集中投下してきた。
しかしながら、クレストールの特許が2016年に切れることから、次の柱を探していたようである。
他方、株式会社UMNファーマ(以下「UMNファーマ」という)は、2004年創業のインフルエンザワクチンなどのバイオ医薬品の研究開発メーカーであり、2012年4月にはマザーズ市場に上場した有力なベンチャー企業である。
2.創薬企業の置かれた厳しい現実
今回のシオノギのUMNファーマに対するTOBの背景事情である、創薬企業に課せられている厳しい現実について触れたい。
特許を取得して研究開発に入っても、臨床試験に漕ぎつけられるケースは少なく、莫大な費用をかけて臨床試験に入っても、最終的に新薬としての承認が得られなくて開発を断念せざるを得ないケースも少なくない。
実際に、UMNファーマがアステラス製薬株式会社と共同で行ったインフルエンザワクチンの開発も、ウイルスによる感染症に対して、遺伝子組換え技術を利用し、バイオ医薬品の次世代製造プラットフォームを用いた細胞培養法によるものであったが、最終的に製造承認が下りなかった。
UMNファーマが第一三共株式会社との間で行ったノロウイルスワクチンの共同開発も、頓挫している。
このようなワクチン開発の困難さから、UMNファーマは、2016年12月期決算から債務超過となり、上場廃止の危機に瀕していた。
3.シオノギによるUMNファーマの救済
これに対して、UMNファーマの救済に乗り出したのがシオノギである。
シオノギは2017年10月、UMNファーマと資本業務提携契約を締結し、UMNファーマはシオノギに対し、第三者割当による新株式及び第1回無担保転換社債型新株予約権付社債(第1回CB)を発行した。
その結果、シオノギは、2018年10月には、UMNファーマの31%を超える株主となった。
シオノギは、UMNファーマとの提携について、「両社の提携により、共同で感染症予防ワクチンをはじめとする最先端のバイオ医薬品の開発・申請・上市を実現していくことで、世界の人々の健康に貢献できるものと考えております。」と発表している。シオノギは、上記資金拠出は合計で約 16 億円と発表している。
他方、シオノギは、2017年度にはインフルエンザに感染した患者を対象とする抗インフルエンザウイルス薬ゾフルーザ錠を発売したばかりであり、ワクチンまで開発する必然性があったのか、疑問が残るとの見方もあったところである。
4.公開買い付けの概要
2019年10月30日、シオノギはUMNファーマに対して株式の公開買い付けを行うと発表した。
すでにシオノギは、UMNファーマの株式 5,500,000 株(所有割合:31.08%)を所有していたことから、残りの株式を公開買い付けで取得し、UMNファーマの上場廃止、完全子会社化を目指すというものである。
シオノギの発表によれば、すでにUMNファーマとの資本業務提携により、「ヒト用感染症予防ワクチンをはじめとするバイオ医薬品の原薬となるタンパクを製造する、遺伝子組換え技術を活用した技術プラットフォーム」(基盤技術)が確立されたことから、UMNファーマとの提携を発展させ、ワクチン事業参入に必要な新たな創薬基盤を獲得したい、とのことである。
このシオノギの思いは、UMNファーマの株式買付価格の決定方法にも、現れている。
UMNファーマの株価を基に計算する市場株価法では、1株318円~350円にすぎなかったが、独立した第三者算定機関からの株式価値算定書を取得し、DCF法では1株462円~727円との意見に基づき、最終的な買付価格を1株あたり 540 円と決定している。
過去3ヶ月間の終値単純平均値 325 円に対して 66.15%ものプレミアムがついている計算となる。
その結果、2019年12月12日までに、9,277,924株及び新株予約権914個(株式に換算した数120,600株)の応募があり、公開買付けに応じて応募された株券等の総数が買付予定数の下限(6,322,000株)に達したため、シオノギはその全てを取得し、公開買付は無事に終了した。
シオノギはUMNファーマの株式の83.51%の大株主となり、株式併合等の手続きを経て、2020 年3月 16 日に上場廃止となる見込みと発表されている。
今後の創薬ビジネスにおけるシオノギのリーダーシップに期待したい。
以上
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