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メルカリ上場の光と影

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

(このコラムは、2018年7月にM&A情報広場に掲載されたものです。) 

第1 はじめに

 株式会社メルカリ(以下「メルカリ」という)は、2018年6月19日、東京証券取引所マザーズへ新規上場した。

 メルカリのビジネスモデルは、これまで比較的小規模なフリーマーケットで個人が自由に商品を売買してきた仕組みをスマホアプリ化したもので、メルカリの配信する専用スマホアプリ(フリマアプリ「メルカリ」)経由で、誰もが自由に商品を売買できる仕組みを構築し、メルカリは売買金額に応じた手数料収入を得ることに成功した。

 メルカリのビジネスモデルで商品を売り買いする当事者は、一部事業者も含まれているものの基本的には個人であり、売買される主な商品は中古品である。その意味では、完全なC to C の取引を仲介するビジネスモデルである。

 ネットオークションと比較すると、C to C の取引を仲介するビジネスモデルである点では共通するものの、メルカリでは商品の売値は固定されており、価格の競りがない点でネットオークションとは異なる。

 メルカリのサービス開始は2013年7月2日であり、ほぼ5年間を経てアプリのダウンロード数は7100万、アメリカで3750万と発表されている(2018年3月31日時点)。

 上場直前の2017年6月期の連結決算実績では、売上高220億7100万円、営業損失27億7500万円、経常損失27億7900万円、配当0円であった。そのうち日本市場での売上高は212億5400万円、経常利益44億6900万円であるのに対し、アメリカ市場での売上高は8億1700万円、経常利益はマイナス72億4800万円であり、日本市場の利益をアメリカ市場の赤字がすべて食い潰していた。

 2018年6月期の連結決算予想(2018年6月19日)では、売上高358億円と発表しているが、営業損失および経常損失については発表していない。その理由としてメルカリは、「競争環境等を踏まえて戦略的に多額の広告宣伝費を使用する可能性があります。広告宣伝費の使用状況によって当社グループの利益が左右されることから、売上高のみの発表とさせていただきます。」と説明している。

第2 メルカリ上場の反響

 メルカリは、日本国内市場では、スマホアプリ「メルカリ」によってフリーマーケット市場の驚異的な拡大の牽引に成功した結果、この5年間での売買取扱高および売上高は劇的に伸びており、国内市場をターゲットとする限り、今後の成長を疑うものはいないであろう。

 メルカリ自身、「当社グループが事業展開しているフリマアプリ市場は、世界的な環境意識の高まりにともなう消費者の消費スタイルの変容を受けて、更なる成長が見込まれます」と説明している。

 メルカリのマザーズ上場に際しては株式市場の話題を呼んだ。大和証券と三菱UFJモルガン・スタンレー証券が共同主幹事を務め、ブックビルディング方式では個人投資家が殺到し(抽選倍率50倍)、上場価格は仮条件(2700円-3000円)の上限で決まったものの、初値は5000円、その後株価は下落したが4000円台でとどまっているようである。

 メルカリの時価総額を仮に1株3000円で算出すると、時価総額はオーバーアロットメントによる売出しを含めると最大4145億円となるといわれていた。

 メルカリは上場に際して、18,159,500株を公募、25,395,300株を売却した(公開株数合計43,554,800株)。単純に計算しても、メルカリはマザーズ上場によって、公募により500億円以上の資金を調達したことになる。発行済み株式総数は135,331,000株であるから、メルカリの大株主である山田進太郎氏およびユナイテッド株式会社等が得た創業者利益も巨額となる。

第3  公募価格決定の仕組み

 他方、メルカリの上場価格の決定がどのような計算でなされたのかは開示されていないので、その詳細は不明であるが、上場直前に開示された2017年6月期の連結決算実績によると、その純資産合計額は44億1400万円にすぎない。

 一般に、株式会社が上場する際に企業価値をどのように算定するかについては、「IPOする会社の業績や将来性などを元に、すでに上場している同業他社のPERなどを参考に、適正と考えられる価格を算出」するといわれている。メルカリの事業形態と比較できる類似業種は存在しないことから、アリババとの比較が行われたようである。

 しかしながら、メルカリが上場に際して公表した「成長可能性に関する説明資料」によれば、メルカリ急成長の実情をもっぱら日本市場に関する数値のみによって説明しており、米国市場の実態は捨象されている。また、メルカリの日本市場での成長率の比較企業として、中国のアリババグループの成長率と比較しているが、アリババグループとはビジネスモデルが異なるといわれている。

 少なくとも、メルカリの急成長は、米国の赤字が克服されない限り、メルカリの損益には反映されないことから、米国市場での赤字解消策が実現可能な具体策として開示され、資本市場の評価を得る必要があると思われる。

 したがって、日本市場の数値のみによるアリババグループとの比較は、正しい比較であるか疑問が残る。

 メルカリの資本市場からの調達資金は、「連結子会社への投融資を含め、当社グループの運転資金(日本及び海外において当社グループが運営するCtoCマーケットプレイス「メルカリ」等のユーザ数拡大に向けたオンライン広告、TVCM、キャンペーンに係るポイント付与等の広告宣伝費)に充当予定。残額は将来におけるサービス付加価値向上のための広告宣伝費、開発に係る人件費等の投資資金等に充当方針」と言われているが、現在大幅な赤字が続いている米国市場の立て直しのための広告宣伝費等に使われるものと思われる。

 どちらにしても、メルカリは資本市場からこれだけ巨額の資金を調達した以上、米国市場の赤字を消する責務は重大と考える。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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