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東京海上日動火災保険による東南アジア損保2社の買収

弁護士法人ひかり総合法律事務所
代表社員 藤原宏高

1. はじめに

東京海上ホールディングス(以下「東京海上HD」という)は2018年6月19日、オーストラリアの保険会社大手のInsurance Australia Group Limited社(以下「IAG社」という)から、東京海上HDのグループ会社である東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上」という)を通じて、IAG社のタイ及びインドネシアの損害保険現地法人2社を買収することで合意したと発表した。

 東京海上HDは、2002年に日本初の上場保険持株会社として誕生後、2004年以降はM&Aを駆使した海外保険事業の拡大に着手しており、2018年度の事業別利益の構成比は、国内が55%であるのに対し、海外保険事業の構成比は45%にも拡大している。

 特に、2018年5月18日に発表した新中期経営計画「To be a good Company 2020」においては、海外保険事業については「グループ全体のリスク分散と持続的な利益成長を牽引する役割を果たします」と宣言している。

 今回の買収は、海外保険事業に占める新興国マーケットの事業別利益の割合が1割弱という課題を克服し、グローバルベースのシナジー追求、日系顧客の海外進出対応強化、更には新たなテクノロジーを利用した変革の推進という海外保険事業のコンセプトに合致した買収であるといえよう。

 他方、IAG社は、アジア事業を見直し、タイ、インドネシアの他、ベトナムの事業も売却したといわれている。

 今回のM&Aは、東京海上HDにとって、まさに絶好の機会であったと考えられる。

2. M&Aの概要

東京海上HDの発表によれば、買収の対象会社は、タイ法人であるSafety Insurance Public Company Limited(以下「セイフティ」という)と、インドネシア法人であるPT Asuransi Parolamas(以下「パロラマス」という)の2社である。

セイフティは、2017年度実績ではグロス保険料311億円、税引後利益5億円、業界8位、他方、パロラマスは、グロス保険料2億円、税引後利益マイナス2億円と発表されている。

 買収価格は、2社合計でおよそ428億円と発表されており、各社ごとの買収価格は公表されていない。

 タイでは2017年より、財務大臣の許可があれば外資100%による生命保険及び損害保険事業の買収も可能となっており、IAG社は保有するセイフティの株式98.6%をすべて東京海上に売却する。

 東京海上HDは、すでにタイで損害保険現地法人Tokio Marine Insurance Thailand Public Company Limited(以下「TMITH」という)を持っており(グループ会社による持株比率99.96%)、グロス保険料272億円、税引き後利益22億円、業界10位であることから、買収後は、セイフティとTMITHの両者併せて業界3位の損害保険グループとなる。特に、主に日系企業向けにサービスを提供してきたTMITHとタイ全土をカバーするサービス網を有するセイフティとが協同することにより、今後は高いシナジー効果が期待される。

 他方、インドネシアでは、保険会社及び再保険会社に対する外資規制が行われており、外資は80%しか損害保険現地法人の株式を保有できない。IAG社は、パロラマスの株式の80%を保有しており、今回は、これをすべて東京海上に売却する。

 東京海上HDは、インドネシアにおいて損害保険現地法人PT Asuransi Tokio Marine Indonesia(以下「TMI」という)を持っており(グループ会社による持株比率60%)、グロス保険料98億円、税引き後利益8億円、業界第14位に過ぎないことから、パロラマスの買収により、当面はパロラマスの経営立て直しを図るとともに、パロラマスの指向するデジタル技術を活用したインドネシアにおけるシェア拡大を目指すものと思われる。

 今回の買収は、東京海上HDにとっては大きなビジネスチャンスであったことから、買収価格はIAG社の主導で決まったものと推測されるが,買収価格決定に関する情報は一切公表されていないので、コメントは差し控えさせていただく。

3. 今後の展望と課題

東京海上HDによるタイにおけるM&Aは,タイ市場におけるシェア拡大の方策としては最も効果的であると考えられる。賃金が比較的安定していることから,日本の製造業の多くはタイに進出しており,物流にはトラック等を使用することが多いため,タイにおける保険市場の拡大は大いに期待出来るところである。セイフティの有するタイ全土をカバーするサービス網を活用して,TMITHは日系企業を対象にサービスを提供し,他方,セイフティは東京海上HDの信用を背景に現地企業を対象にサービスを提供できるなど,大きなシナジー効果が期待出来る。加えて,今後,財務大臣の許可が下りて両者の合併が実現すれば,管理コストの低減など,利益拡大に資することは疑いがない。

他方,インドネシアにおけるパロラマスの経営改善には未知数が多い。パロラマスの黒字化が当面の経営課題と考えられるが,東京海上HDのグループ会社によるインドネシア損害保険現地法人であるTMIの持株比率は60%に過ぎないことから,パロラマスとの合併が容易に進まない可能性もありえよう。日本流の抜本的な対策が打てるのか,期待したいところである。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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