弁護士コラムバックナンバー

フリーランスをめぐる法政策

山田 康成

 今、フリーランスという働き方が注目を集めています。フリーランス、すなわち、雇用という形態ではない働き方です。個人事業主とか自営業者とか呼ばれたりすることもあります。フリーランスへ発注をしたり、受注するフリーランスを登録したりするサイトを運営する会社のテレビコマーシャルも流れていたりもします。

 今年の5月、終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたという大企業トップの発言がありました。現行法では、定年延長や再雇用などで希望者全員を六十五歳まで雇用するよう企業に義務付けていますが、政府からは、希望する人が七十歳まで働ける機会を確保することを企業の努力義務とする方針も示されました。

 雇用する側にとって、これだけ長いスパンで終身雇用することの負担は大きく、人材の流動化が進めば、人材育成を社内で行うのではなく、人材を外部から調達することを考えることは自然な流れとなるでしょう。

 その一方で、雇用される側にとっても、一つの会社で自身のキャリアプランを描くことも難しくなってきたといえます。自ずと自身のキャリアと向き合うことが求められ、その結果、仕事の専門性を身につける必要に迫られることになります。

 そのためには、一つの会社にとらわれずに働き、自身のスキルを磨くことを意識しなければなりません。一つの会社に就社するのではなく、まさに、「職」に就くという考え方になります。

 私は大学を卒業したのは1993年ですが、その頃は、私の周りでは、入った会社で一生終えるものだと思っている人がほとんどでした。私は鉄道会社に入社しましたが、特に鉄道会社は終身雇用が当たり前で、私もそのつもりで入社しました。

 ところが、司法試験を受けると決め、会社を辞めることを決めたときは、周りから驚かれたものです。上記の大企業トップの発言を聞くと、時代も大きく変わったことを痛感します。

 フリーランスという働き方は、基本的には労働法の規制を受けません。しかし、雇用という働き方に近いフリーランスも、相当数、存在します。仕事の内容、報酬も一方的に発注者側が決定して、フリーランスに発注するなどの実態が存在するのも現実です。

 この雇用に近いフリーランスの働き方に法的保護の必要性について、現在、厚生労働省で議論されています。「雇用類似の働き方に係る論点成立等に関する検討会」です。

 その検討会で、先日、議論の中間整理が報告されました。その中間整理には、契約内容が書面化されていない実態や、報酬の支払いが約束どおりなされなかったトラブル、就業場所・時間が一方的に決められるとの実態が存在することや、紛争が生じた場合の相談窓口の必要性を指摘する声などがまとめられています。

 昨今、ニュースを賑わせている芸人の闇営業問題では、芸人と所属プロダクションの間の契約書が存在しないことが取り上げられていますが、これも、その問題の一事例を示すものといえます。

 この検討会では、今後、契約内容の書面化の義務付けや、報酬の履行確保や報酬の適正化についての法政策が優先的に検討されるようです。労働法の適用を広げる考え方の他に、独占禁止法や下請け法を、フリーランスにいかに適用するかも論点になるでしょう。

 私が所属する第二東京弁護士会の労働問題検討委員会でも、フリーランスの法政策の在り方について検討するとともに、その電話相談(フリーランス110番)などの取り組みをはじめました。

 今後、増加することが確実なフリーランスという働き方の法政策がどうなるかについては、フリーランスになる人も、フリーランスを活用しようと考えている人も注目していく必要があるでしょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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