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私生活上の非行と懲戒処分

九石 拓也

就業規則に,業務上の行為か私生活上の行為かを問わず,企業の名誉信用を毀損する行為や犯罪行為一般を懲戒事由として規定している企業は少なくないでしょう。例えば「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」や「犯罪行為を行ったとき」等です。今回は,これら従業員の私生活上の非行と懲戒処分の問題について,取りあげてみます。

●懲戒権の根拠

労働契約の締結により,従業員は企業に対し労務提供義務とともに企業秩序を遵守する義務を負います。そして,企業は,事業活動を円滑に行うために企業秩序の維持に必要な規則を定め,従業員の違反行為に対して制裁として懲戒を科することができるとされています。

もっとも,企業秩序は,通常,職場内での行為や職務遂行上の行為を規律することで維持できます。労働契約を締結したからといって,従業員の私生活上の行為全般に懲戒権が及ぶわけではありません。

●私生活上の非行と懲戒権の及ぶ範囲

そのため,判例は,懲戒処分の対象となる私生活上の非行を,事業活動に直接関連するものや企業の名誉信用を毀損するもの等に限定して捉えています。

また,懲戒解雇の場合に退職金を支給しない旨の規定があるときに,懲戒解雇自体は有効とされても,退職金の不支給までは認められないケースもあります。

●裁判で問題となった事例

実際に私生活上の非行に対する懲戒処分の効力が問題となった事例をいくつか紹介します。

①鉄道会社の従業員による電車内での痴漢行為について,職務に伴う倫理規範として決して行ってはいけない地位にあるとして,懲戒解雇処分を有効としたが,退職金全額の不支給は認めず,3割の支払いを命じたもの(小田急電鉄事件・東京高裁平成15年12月11日)。刑事処分が罰金にとどまり,懲戒処分にあたり刑事事件の起訴不起訴以外の要素を十分に検討した形跡がなく,前科前歴,懲戒処分歴が一切ない等として諭旨解雇を無効としたもの(東京メトロ事件・東京地裁平成26年8月12日判決)。

②酒気帯び運転について,運送業者のドライバーにつき,懲戒解雇は有効としたが,退職金については賃金の後払いの性格もあるとして全額の不支給は認めず,3分の1の支払いを命じたもの(ヤマト運輸事件・東京地裁平成19年8月27日判決)。郵便事業会社の従業員につき,懲戒解雇を有効とし,退職金については,永年の勤続の功を抹消するほどの重大な背信行為とはいえないとして,約3割の支給を命じたもの(郵便事業会社事件・東京高裁平成25年7月18日)。消防職員に対する懲戒免職処分及び退職金全額支給制限処分につき,懲戒処分の基準に照らし,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱し違法としたもの(姫路市事件・神戸地裁平成25年1月29日判決)

③社宅内での会社を誹謗するビラの配布行為について,従業員の企業に対する不信感を醸成し企業秩序を乱すおそれがあるとして,譴責処分を有効としたもの(関西電力事件・最高裁昭和58年9月8日判決)。

④深夜に酩酊して他人の住居に侵入し,住居侵入罪として罰金刑を受けた従業員に対する懲戒解雇処分について,刑が軽いこと,指導的な職務上の地位にないこと等から無効としたもの(横浜ゴム事件・最高裁昭和45年7月28日判決)。

⑤職場内での不倫関係については,懲戒解雇を無効としたもの(奈良観光バス事件・奈良地裁昭和34年3月26日,繁機工設備事件・旭川地裁平成元年12月27日判決等),懲戒解雇を有効としたもの(白頭学院事件・大阪地裁平成9年8月29日判決),普通解雇を有効としたもの(長野バス事件・長野地裁昭和45年3月2日判決)があります。

このように,私生活上の非行が就業規則に懲戒事由として挙げられていても,懲戒処分が可能とは限らず,また,懲戒解雇が有効でも退職金不支給まで直ちに有効になるとはいえません。非行が事業活動に及ぼす影響の大きさ等を実質的にみて個別に判断することが必要になります。

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