弁護士コラムバックナンバー

監査役ビート〜働き方改革 労働関係法の改正の概要〜

清水 敏

1 はじめに

 監査役の職務において、労働・雇用に触れない時期はない。言うまでもなく企業は多数の人の集団であり、個々の社員の適正な労務管理なくしては企業の成長は見込めない。「人は城」とは武田信玄もよく言ったものである。

 正社員の長期雇用・年功序列賃金体制という我が国の労働・雇用制度は、バブルの崩壊後、批判にさらされながらも存続してきたが、目前に迫る労働人口の減少 に抜本的な対応が出来なければ、企業の存続は危機的である。

 労働法関係法の改正は頻繁に行われているが、国会でも政府は「働き方改革」を掲げて労働制度の抜本的改革を行わんとし、労働基準法、労働時間等設定改善法、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法などの改正についての審議が継続されている。

 本コラムでは、現在に検討されている事項のうち、平成27年4月に国会に提出されたうち特に重要な過重労働対策と非正規と正社員の格差是正についての規制が強化される改正案を概説する。

2 課題と改正法による規制の強化

(1)過重労働対策

 過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害による労災の件数は増加しており(i) 、残念ながら企業の自律的な対策に任せてはこの傾向は変えられていない。過重労働の法的な改善施策が求められている。

 そこで、改正案は三六協定を見直して時間外労働の上限を規制したうえで違反に対する罰則を設けることや、前日の就業時刻と翌日の就業時刻との間に一定の休息時間の確保(勤務間インターバル制度)についての努力義務化などを定めている。

(2)非正規と正社員の格差是正

 非正規労働者は全雇用者の40%程度を占めており(ii) 、非正規労働者の存在は企業活動に不可欠といえるが、非正規・正社員との間には、賃金、賞与、退職金、社員教育、福利厚生に大きな格差が生じており、改正法も非正規雇用労働者の待遇改善により格差の解消(いわゆる「同一労働同一賃金」)を図ろうとしている。

 具体的には、待遇差の不合理性について職務内容、配置の変更範囲など考慮要素の明確化、労働者に対して待遇差の内容・理由の説明の義務化、ADR(裁判外紛争解決手続き)の整備などを定めている。

3 おわりに

 本改正は過重労働対策と非正規雇用労働者の待遇改善について、企業に対して法的な規制を強化するものであり、企業はこれらの対策を改正法の国会審理に注意を払って準備を進めていく必要があるとするほかはない。

 もとより、経営者は労働者に生きがいをもって働ける環境を提供してこそ、社会的な価値を生み出せるものである。

 労働・雇用環境においても、労働者が自由な意思で業務と関われる制度が望ましい。私見としては改正法の焦点である時間外労働時間や非正規・正規について労働者が自律的に選択できる、あるいは労働者の選択による流動性の高い制度設計を目指すべきである。

 「人は城、人は石垣、人は堀」の続き文句は「情けは味方、仇は敵なり」であるが、現在の労働者は従属者的な者であるべきでなく「情け」という表現はやや時代的と感じるが、21世紀の企業においては、労働者の自律的な選択を担保する企業制度を持つことと、読み替えることができるのではないか。

以上

(1) 政府報告によれば、15〜64歳の生産年齢人口は2013年10月時点で7,901万人と32年ぶりに8,000万人を下回ったことに加え、2013年12月時点では7,883万人まで減少しており、今後の予測では2060年には4,418万人まで大幅に減少することが見込まれている。 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2013np/.htm

(i)

平成27年度「過労死等の労災補償状況」

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000128216.html

(ii)

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000120286.pdf

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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