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フリーランスに係る法制度の動向とその課題

山田 康成

 このコラムでは、現在462万人に達していると言われているフリーランスとして仕事をされる方に関する法制度の動向とその課題について述べたいと思います。

 令和4年9月、政府から「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」について、意見募集がなされ、同年10月12日、内閣官房と新しい資本主義実現本部事務局から意見集約の結果とそれに対する考え方が公表されました。

 この意見集約を踏まえ、発注事業者から仕事を受託したフリーランスとの間の取引の適正化を図る目的の新法(以下「フリーランス保護新法」といいます。)の法案が、令和5年の通常国会に提出されることが予定されています。

 フリーランスに対し業務委託する発注事業者は、大企業と比較的して中小企業の規模の会社の方が多いところですが、フリーランス保護新法は、適用される取引の発注事業者の資本金要件は設けられていないため、多くの中小企業の適用が予想されますので、今後の立法動向にも注意が必要です。

 フリーランス保護新法の全体の構成は、①フリーランスに業務委託を行う事業者の遵守事項、②違反した場合の対応等、③フリーランスの申告及び国が行う相談対応の3つに分かれます。

 フリーランスに業務委託を行う事業者の遵守事項の概要は以下のとおりです。

ア 業務委託の開始・終了に関する義務

  ・業務委託の際の書面の交付等

  ・契約の途中解約・不更新の際の事前予告

イ 業務委託の募集に関する義務

  ・募集の際の的確表示

  ・募集に応じた者への条件明示、募集内容と契約内容が異なる場合の説明義務

ウ 役務提供を受けてから60日以内の報酬支払義務

エ フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為

オ ハラスメント対策や出産・育児・介護との両立への配慮等就業環境の整備として事業者が取り組むべき事項

 フリーランス保護新法は、上記遵守事項に違反した場合、行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行うなど、必要な範囲で履行確保措置を設けるとされています。

 また、行政処分に従わなかった場合には罰則を科すこととするなど、履行確保措置が実効性のあるものとなるよう検討しているとされています。

 フリーランス保護新法が、業種横断的に共通する必要最低限の規律を設けるものであることから、その違反行為に対しては、行政上の措置を講ずることが予定されているものと考えられます。

 さらに、フリーランス保護新法の法執行を有効に機能させる目的で、上記遵守事項に違反する事実がある場合には、フリーランスが、その事実を国の行政機関に申告することが出来るとされている点にも、発注者の方は注意が必要です。

 さらに、この申告をしたことによって、フリーランスに対して業務委託を解除すること等その他の不利益な取り扱いをしてはならないとされています。

 フリーランスに業務委託を行う事業者に対して新たに義務を課す内容を含むものであることから、システムの変更等の準備を含め、施行までに十分な周知・準備期間を設けることを予定していると説明されています。

 法律の施行にあたって必要な事項についても、今後、政省令及び指針等において定めることが予定されていることから、仮に令和4年度内に法案が成立した場合であっても、施行までの準備期間はある程度設けられる予定のようです。

 上記のフリーランス保護新法が制定されると、フリーランスとして生計を立てる方はもちろん、兼業・副業として業務委託契約を締結する方にも、フリーランス保護新法の適用を受けることになります。

 フリーランス・個人事業主として働く方の取引を規制する法律はこれまではなく、一般に、フリーランスは、発注事業者と比較すると、交渉力・情報収集力の差がある立場に置かれている方が多いといえるので、フリーランスの方々にとっては、一歩前進といえるかもしれません。

 しかし、フリーランス保護新法が制定されるだけでは、解決できない問題が働く現場には残っていることも指摘しておかねばなりません。

 フリーランスとして働いているとされる462万人の中に、契約は業務委託契約となっているものの、実際の働き方は、時間も働く場所も自由に選択できず、仕事の裁量の少ない実態としては労働者に極めて近い働き方をする方々が数多く含まれている実態があるということです。

 特に軽貨物輸送の下請け、孫請けの立場で働く方の現場では、厳密な出勤・退勤時間は定められていないものの発注者からの一定のノルマを達成するために1日、その発注者の業務に拘束され、自由な働き方とはいえないようなものが多くみられます。

 このような働き方をする場合に発生する最も深刻な問題点は、フリーランスの業務遂行が先履行で報酬が後払いという構造がある上に、労働基準法24条の全額払いの原則や同法16条の損害予定の禁止の条項が適用されないため、色々な理由をつけて発注者から報酬の支払いを止めるということが労働者に比べ容易になされる傾向にあるということです。

 軽貨物輸送で働く方の実態は、一つの発注者のもとで一日の行動が制約され、生活の糧となる報酬の支払いについて全面的に依存している点は労働者と変わりはないといえます。

 半面、普通の労働者の方は、時間の管理も緩やかな働き方が広まっており、テレワークの急速な浸透により、働く場所も自由な設定が出来るようになっています。

 兼業・副業も自由に認める動きもあり、労働者の働き方はかなり柔軟なものに変化しています。

 労働者性の判断基準については、昭和60年に示された労働基準法研究会の判断規準や、平成8年の横浜南労基署事件判決の判断枠組みが現在も適用されていますが、その判断基準が示された時代から労働者の働く環境も意識も大幅に変化しています。

 私は、フリーランス保護新法が制定されると同時に、労働者性の判断基準とその適用の在り方について再検討すべき時期に来ているように感じています。

 政府は、全世代型社会保障構築会議において、現行制度では厚生年金の対象とならないフリーランスの方にも適用を図るという勤労者皆保険の実現への検討がなされていますが、その議論に入る前提として、整理すべき問題だと考えています。

 私は、令和5年は、働く人の未来を考える上で、重要な年になると考えています。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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