フリーランス新法の概要と注意すべき重要ポイント
1 令和6年秋から施行されるフリーランス新法
フリーランスという働き方を選択する人が増えています。取引の相手がフリーランスであったり、ご自身がフリーランスとして働いておられたりする方も多くいらっしゃると思います。
今年の秋からフリーランスとの間の取引とフリーランスの方の就業環境の整備に関する重要な法律が施行されます。
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」といいます。)という法律です。
フリーランスは、企業等の発注事業者と比べると交渉力に違いがあり、不利な立場に立たされやすい傾向にあります。
そのため、フリーランス新法によって、発注事業者に対し発注した際に取引条件を明示したり、フリーランスに対する禁止事項が定められたりしています。
また、フリーランス新法は、フリーランスの方が働きやすい環境を整備するために発注事業者に一定の制限を課したりしています。
フリーランス新法に関する政令・規則・指針・ガイドライン等がこれから定められる予定ですが、その内容については、公正取引委員会による「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」(以下「取引適正化検討会」といいます。)と厚生労働省による「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」(以下「就業環境整備検討会」といいます。)により議論されてきました。
今回は、これら検討会の議論の状況を踏まえ、フリーランス新法の重要なポイントについて解説します。
なお、本稿は、令和6年3月下旬の情報に基づくものであることにご留意ください。
2 フリーランス新法の概要
(1)フリーランス新法全体の構成
フリーランス新法は、大きく二つのパートに分かれています。
一つは、フリーランスと発注者との間の取引の適正化を図るためのパートです(第2章)。
こちらのパートは、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)を参考に作られています。
主管官庁は、公正取引委員会、中小企業庁となります。
もう一つは、フリーランスの就業環境の整備を図るためのパートです(第3章)。
こちらのパートは、職業安定法や、労働者に対するハラスメント対策などを参考に作られています。
主管官庁は、厚生労働省となります。
フリーランス新法は、下請法のように、法律の適用を受ける発注事業者の資本金要件は設けられていません。
つまり、会社の規模に関わらず全ての発注事業者が、フリーランス新法について十分に理解することが必要になりますので注意してください。
(2)適用対象となるフリーランスと発注事業者の範囲
ア 適用対象となるフリーランスとは(「特定受託事業者」)
フリーランス新法では、「フリーランス」という用語が一切用いられていません。
適用対象となるフリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。
「特定受託事業者」とは、発注者が業務委託する相手方の受託事業者のうち、従業員を使用しないフリーランスをいいます(第2条1項1号)。
したがって、取引の相手方が、一般に「フリーランス」と呼ばれていても、当該フリーランスが、従業員を使用して事業を行っている場合は、フリーランス新法における「特定受託事業者」には該当しないことになります。
そうなると、特定受託事業者か否かの判断基準となる「従業員」の範囲が問題となりますが、フリーランス新法には「従業員」と記載するのみで(第2条1項1号)、その具体的な内容は記載されていません。
現時点での立法担当者の説明では、フリーランス新法の「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まれないとされています。
雇用保険対象者の範囲を参考に、「週労働20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者」を「従業員」とすることを想定されているようです。
取引の相手方が従業員を使用するフリーランスであるか否かを判別することは、相手方の事情ですが、委託者である発注事業者の実務対応としては、個別の取引で相手方が「特定受託事業者」に該当するかどうか逐一確認する手間をとるよりは、広く個人を含む零細事業者と取引をする場合一般にフリーランス新法に対応できるようにしておくことが現実的な対応といえるでしょう。
取引の相手方のフリーランスが法人化している場合でもあっても、株主が当該フリーランスのみであり、また、取締役もフリーランスのみであり一人社長となっていて、従業員を使用しない法人もフリーランスに含まれます(第2条1項2号)。
イ 発注事業者は、条文ごとに適用される範囲が異なります。
一方、発注事業者については、フリーランス新法では「特定業務委託事業者」と「業務委託事業者」という用語が用いられています。
「特定業務委託事業者」は、フリーランスに業務委託する発注事業者のうち、従業員を使用する発注事業者をいいます。
そして、従業員を使用しない発注事業者のことを、「業務委託事業者」といいます。
書面等による取引条件の明示義務(第3条)については、当事者間の認識の相違を減らし、トラブルを未然に防止するという観点から、従業員を使用しない発注事業者とフリーランスとの取引についても適用対象とされています。
第3条の条文には、発注する側の事業者について、「特定業務委託事業者」ではなく「業務委託事業者」とされているのは、そのためです。
他にも、条文毎に規制の対象となる発注事業者の範囲が異なっていますので注意してください。
具体的には、フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為(第5条)については、一定期間以上の継続的な業務委託をしている発注事業者に限られています。
就業環境の整備に関する規制のうち、妊娠、出産、育児、介護に対する配慮(第13条)、契約の中途介助(第16条)にも継続的な業務委託をしている発注事業者に適用される規制があります。
一方、業務委託の際の発注条件の明示義務を課される事業者(第3条)や、支払い期限の規制を受ける事業者(第4条)については、継続性についての要件はありません。
なお、フリーランス新法は、「発注事業者」との取引に限定し、「仲介事業者」が発注事業者から受託した業務をフリーランスに再委託するものではない限り、仲介事業者に係る規制は置かれていません。
(3)適用される業務委託の内容
フリーランス新法は、(特定)業務委託事業者と特定受託事業者との間の「業務委託」に係る取引に適用されます。
規制対象となる業種の制限がないため、あらゆる業種業態の委託者と特定受託事業者との間の取引が適用対象となります。
3 取引適正化のための発注事業者への規制(第2章)
(1)発注条件明示義務(第3条)
ア 義務付けられる明示内容
発注事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合に、「給付の内容(委託する業務の内容)」、「報酬の額」、「支払期日」、公正取引委員会規則で定めるその他の事項の明示を義務付けています。
これは、契約内容の不明確性に起因するトラブルを未然に防止することを目的するものです。
具体的に明示すべき事項については公正取引委員会規則に委任されており、今後の規則の公表を待つことになりますが、取引適正化検討会が発表した報告書(令和6年1月)によれば、以下の内容が明示対象として挙げられています。
① 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は番号、記号等であて業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの ② 業務委託をした日 ③ 特定受託事業者の給付の内容(役務提供委託の場合は、提供する役務の内容) ④ 特定受託事業者の給付を受領する期日又は役務の提供を受ける期日 ⑤ 特定受託事業者の給付の場所・役務提供の場所 ⑥ 特定受託事業者の給付・役務の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日 ⑦ 報酬の額 ⑧ 報酬の支払期日 ⑨ 報酬の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合に必要な事項 ⑩ 報酬の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合に必要な事項 ⑪ 報酬の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合に必要な事項 ⑫ 報酬の全部又は一部の支払につき、デジタル払いをする場合に必要な事項 ⑬ 具体的な金額を記載することが困難なやむを得ない事情がある場合の、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法 ⑭ 業務委託をしたときに書面又は電磁的方法により明示しない事項(以下「未定事項」という。)がある場合の、未定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日 ⑮ 基本契約等の共通事項があらかじめ明示された場合の個別契約との関連付けの明示 ⑯ 未定事項の内容を書面又は電磁的方法により明示する場合の、当初明示した項との関連性を確認できる記載事項事 |
イ 適用される発注事業者の範囲
先に述べたとおり、この第3条の規制は、特定受託事業者に発注する全ての発注事業者に適用されますので注意してください。
したがって、中小企業の発注事業者はもちろん、従業員を使用しないフリーランスが、フリーランスに対して業務を委託する場合には、第3条の適用を受けることになります。
ウ 明示の方法
発注条件の明示の方法は、発注事業者とフリーランス双方の利便性向上の観点から、①取引条件を記載した書面を交付する方法、②取引条件をメール等の電磁的方法により提供する方法、のいずれかを発注事業者が選択できるようになっています。
下請法では、電磁的方法による提供は認められていませんが、フリーランス新法では認められています。
エ 明示が求められる時期
業務委託をした場合は、「直ちに」、第3条に定める取引条件の明示を行わなければなりません。
ただし、取引条件の内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その事項の内容が定められた後、直ちに明示することも可能としています。
「内容が定められないことにつき正当な理由があるもの」とは、取引の性質上、業務委託に係る契約を締結した時点ではその内容を決定することができないと客観的に認められる理由がある場合をいいます。
具体的には、放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているものの、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「報酬の額」が定まっていない場合などが挙げられます。
(2)報酬の支払に関する義務(第4条)
発注事業者がフリーランスの給付(成果物等)を受け取った日から数えて60日の期間内に報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければならないと定められています。
この規定は、フリーランスと発注事業者との間の交渉力等の格差により、発注事業者が報酬の支払期日を不当に遅く設定するおそれがあり、フリーランスの利益を保護する必要があることから設けられたものです。
また、発注事業者が、他の者から受けた業務委託をフリーランスに再委託する場合は、他の者から発注事業者への報酬の支払期日から起算して30日の期間内に、発注事業者からフリーランスへの報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければならないこととされています。
なお、下請法との違いとしては、上記の再委託の規定のほか、下請法では下請事業者の責めに帰すべき事由による支払の不払いや支払遅延は認めておらず、また、不払いや支払遅延に対しては年14.6%の遅延利息が定められているのに対し、フリーランス新法は、特定受託事業者の帰責事由による支払遅延があり得ることを前提とした規定を置いており(第4条5項)、かつ、遅延利息の定めを置いていない点も挙げられます。
いずれも、フリーランス取引の特徴(フリーランス側の帰責事由による給付の未了・遅滞が生じやすいことや業務委託者側も小規模事業者が多いこと)に配慮したものです。
(3)禁止行為(第5条)
フリーランスとの一定期間以上の継続的な業務委託に関し、次の禁止行為が定められています。
「受領拒否」(1項1号) フリーランスに責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること。 発注の取消し、納期の延期などで納品物を受け取らない場合も受領拒否に当たります。 「報酬の減額」(1項2号) フリーランスに責任がないのに、発注時に決定した報酬を発注後に減額すること。 協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、こうした減額行為が禁止されています。 「返品」(1項3号) フリーランスに責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること。 「買いたたき」(1項4号) 発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬を不当に定めること。 通常支払われる対価とは、同種又は類似品等の市価をいいます。 「購入・利用強制」(1項5号) フリーランスに発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入、利用させること。 「不当な経済上の利益の提供要請」(2項1号) 発注事業者が自己のために、フリーランスに金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させること。 報酬の支払とは独立して行われる、協賛金などの要請が該当します。 「不当な給付内容の変更、やり直し」(2項2号) フリーランスに責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、受領した後にやり直しや追加作業を行わせる場合に、フリーランスが作業に当たって負担する費用を発注事業者が負担しないこと。 |
一人で業務を遂行するフリーランスにとって、一定期間以上の期間にわたって継続的な取引関係にある場合、一般的に、契約期間が長くなればなるほど、発注事業者とフリーランスなどの受注事業者との間に経済的な依存関係が生じ、発注事業者から不利益な取扱いを受けやすい傾向にあります。
こうした実態を踏まえたフリーランス保護の必要性などの観点も踏まえて、政令で定める一定の期間以上継続して行われる業務委託を対象として、発注事業者に対し、受領拒否や報酬減額の禁止などの義務を課すこととされています。
この「政令で定める期間」については、取引適正化検討会の報告書では、フリーランス新法5条の対象となる業務委託の期間は1か月とする方向とすることが適当とされています。
(4)取引適正化に関するルールに違反した場合
取引適正化に関するルール(第3~5条、6条3項)の執行は、公正取引委員会・中小企業庁が所管します。
公正取引委員会・中小企業庁長官には、特定業務委託事業者・業務委託事業者等に対する報告徴収、立ち入り検査の権限があり(第11条2項)、法違反が認められる場合、公正取引委員会は、業務委託事業者・特定業務委託事業者に対し、法に従った措置を取るよう勧告でき(第8条)、正当な理由なく勧告に従わない場合は措置命令及びその旨の公表ができることになっています(第9条)。
業務委託事業者・特定業務委託事業者による報告徴収・立入検査に対する妨害等の行為及び命令違反に対しては、50万円以下の罰金が科されることになっています(第24条1号及び2号)。
また、勧告・命令よりもソフトな対応として、指導及び助言の権限も定められていいます(第22条)。
なお、業務委託事業者から業務委託を受ける特定受託事業者は、フリーランス新法第2章に違反する事実がある場合、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対する申出及び措置要求ができ(第6条1項)、業務委託事業者は、かかる申出を理由とする取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益取扱いを禁止されることになっています(第6条3項)。
3 特定受託業務従事者の就業環境の整備(第3章)
(1) 募集情報の的確な表示(第12条)
ア 概要
特定業務委託事業者が、不特定多数の者に対して、業務を委託するフリーランスの募集に関する情報等を提供する場合には、その情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならないと定められています。
この規定は、広告等に掲載されたフリーランスの募集情報と実際の取引条件が異なることにより、その募集情報を見て募集に応じたフリーランスと発注事業者との間で取引条件を巡るトラブルが発生したり、フリーランスがより希望に沿った別の業務を受注する機会を失ってしまったりするのを防止することを目的として設けられたものです。
この規定に違反することになる表示の具体的な例として以下のようなものがあげられます。
意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示する(虚偽表示) 実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行う(虚偽表示) 報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示する(誤解を生じさせる表示) 業務に用いるパソコンや専門の機材など、フリーランスが自ら用意する必要があるにもかかわらず、その旨を記載せず表示する(誤解を生じさせる表示) 既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける(古い情報の表示) |
なお、当事者の合意に基づいて、広告等に掲載した募集情報から、実際に契約する際の取引条件を変更する場合などは、この規定に違反することにはなりません。
イ 的確表示義務の対象となる募集情報提供方法
的確表示義務の対象となる募集情報の提供方法については、条文上、「新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法」と定められています。
「その他厚生労働省令で定める方法」として規定する事項の具体的な内容は、厚生労働省令及び指針に定められる予定ですが、書面の交付、ファクシミリ、電子メール等(SNSを含む。)、放送、有線放送又は自動公衆送信装置その他電子計算機と電気通信回線を接続する方法(テレビ、ラジオ、オンデマンド放送、自社のホームページ、クラウドソーシングサービス等が提供されるデジタルプラットフォーム等)が予定されています。
ウ 的確表示義務の対象となる募集情報の内容
的確表示義務の対象となる募集情報の内容は、条文上、「業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。」と定められています。
「その他の就業に関する事項として政令で定める事項」として規定される事項等は、就業環境整備検討会の案では、以下のものが予定されています。
① 業務の内容(業務委託において求められる成果物(給付)の内容又は役務提供の内容、業務に必要な能力又は資格、検収基準、不良品の取扱いに関する定め、成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲、違約金に関する定め(中途解除の場合を除く。)等) ② 就業の場所、時間及び期間に関する事項(業務を遂行する際に想定される場所又は時間、納期、期間等) ③ 報酬に関する事項(報酬の額(算定方法を含む。)、支払期日、支払方法、交通費や材料費等の諸経費(報酬から控除されるものも含む。)、成果物の知的財産権の譲渡・許諾の対価等) ④ 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項(契約の解除事由、中途解除の際の費用・違約金に関する定め等) ⑤ 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項(特定業務委託事業者となる者の名称や業績等) |
第12条は、募集情報に載せる場合には虚偽の情報を載せてはいけないということを定めていますが、上記①から⑤の情報の掲載を義務付けるものではありません。
しかしながら、特定業務委託事業者が広告等により特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当事者間の募集情報に関する認識の齟齬を可能な限り無くすことで、当該募集情報に適する特定受託事業者が応募しやすくなり、業務委託後の取引上のトラブルを未然に防ぐことができることから、上記①から⑤の募集情報の内容を可能な限り含めて提供することが望ましいとする指針が示されることが予定されています。
(2) 妊娠・出産・育児・介護への両立への配慮(第13条)
ア 概要
特定業務委託事業者は、フリーランスと一定期間以上の間継続的な業務委託を行う場合に、フリーランスからの申出に応じ、妊娠・出産・育児・介護と業務の両立との観点から、就業条件に関する交渉・就業条件の内容等について、必要な配慮をするものとすると定められています。
この規定は、フリーランスの多様な働き方に応じて、発注事業者が柔軟に配慮を行うことにより、フリーランスが、育児介護等と両立しながら、その有する能力を発揮しつつ業務を継続できる環境を整備することを目的として設けられたものです。
第13条1項では、 業務委託のうち「政令で定める期間以上の期間行うもの」(継続的業務委託)については、発注事業者に対し、その業務委託の相手方であるフリーランスからの申出に応じて、当該フリーランスが妊娠、出産もしくは育児又は介護と両立しながら業務に従事することができるよう、当該フリーランスの育児介護等の状況に応じた必要な配慮を行うことを義務付けられています(配慮義務)。
そして、同条2項では、継続的業務委託以外の業務委託の場合には、発注事業者に対し、フリーランスが育児介護等と両立しつつ業務に従事することができるように配慮をするよう努めることが義務付けられています(配慮の努力義務)。
このように、業務委託の期間によって努力義務か否かを分けているのは、一定期間継続して取引をしている発注事業者に対しては、フリーランスの業務における依存度が高まると考えられ、フリーランスが育児介護等と両立して業務に従事するためには、当該発注事業者から、業務について適切な配慮が行われることがより重要になると考えられるからとされているためです。
この「継続的業務委託」に該当するための要件となる業務委託の「政令で定める期間」については、条文上、第16条に定める「継続的業務委託」の期間と同じ期間となることから、就業環境整備検討会における議論の結果、6か月間とされるとの案が示されています。
イ 発注事業者に求められる必要な配慮とは
発注事業者(特定業務委託事業者)が行う必要な配慮の具体的な内容として、フリーランスが妊婦検診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮したりする、育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにしたりするといった対応が挙げられます。
なお、この配慮義務は、特定業務委託事業者に対して、特定受託事業者の申出に応じて、申出の内容を検討し、可能な範囲で対応を講じることを求めるものであり、申出の内容を必ず実現することまでを法律上求められるものではありません。
(3) ハラスメント行為についての必要な措置義務(第14条)
特定業務委託事業者は、その使用する者等によるフリーランスに対するハラスメント行為について、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じるもの等とするとされています。
この規定は、雇用主として労働関係法令(男女雇用機会均等法等)に基づき講じることとされている従業員に対するハラスメント対策と同様の内容となっています。
発注事業者は、業務委託の相手方であるフリーランスに対しても、ハラスメント行為について適切に対応することが法令上明記されました。
特定業務委託事業者が講じるべきハラスメント対策のための措置の具体的な内容について、次の例が挙げられます。
① ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)、 ② ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制を整備すること(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する)、 ③ ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置)すること |
これらは、特定業務委託事業者が、もともと労働関係法令に基づき整備していた社内の相談体制やツール等を、フリーランスにも同じように活用することになります。
なお、フリーランスの場合は、通常の労働者と異なり、業務の委託を受ける相手方との取引が繰り返される場合があることから、業務委託に係る契約締結前にあっても、契約交渉中に発注事業者からハラスメントを受ける可能性があります。
このような場合については、フリーランス新法14条の措置義務の対象とはならないものの、契約交渉中のフリーランスに対するハラスメント対策も望ましい取り組みとして指針に盛り込む予定とされています。
また、特定業務委託事業者は、フリーランスがハラスメントの相談を行ったことや、当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取り扱いをしてはならないと定められています(第14条2項)。
(4) 契約の中途解約・不更新の際の事前予告(第16条)
ア 概要
継続的に業務委託を行う場合、契約を中途解約するとき又は当該契約の期間満了後にその更新をしないときは、原則として、中途解約日又は契約期間満了日の30日前までに予告しなければならないと定められています。
また、フリーランスからの求めがあった場合には、事業者は、契約の終了事由を明らかにしなければならないと定められています。
この規定は、一定期間継続する取引において、発注事業者からの契約の中途解除や不更新をフリーランスに予め知らせ、フリーランスが次の取引に円滑に移行できるようにすることを目的として設けられたものです。
この第16条の「継続的業務委託」に該当するための要件となる契約の継続期間は、条文上、第13条の「継続的業務委託」と同じ期間となることから、就業環境整備検討会における議論の結果、6か月間とされるとの案が示されています。
イ 第16条の適用を受ける契約の解除又は不更新とは
第16条の「解除」とは、特定業務委託事業者から一方的に契約を解除することをいい、特定受託事業者からの解除は含まれません。
両当事者の合意解約の場合も「解除」に該当しませんが、特定受託事業者からの解約の意思表示が自由な意思に基づくものであったか慎重に判断されることになります。
また、約定解除(当事者間で一定の事由がある場合に事前予告なく解除できると定めていた場合等)も、特定業務委託事業者からの解除も、第16条の「解除」に該当することになります。
「不更新」(不更新をしようとする場合)とは、たとえば、
- 切れ目なく契約の更新がなされている又はなされることが想定される場合であって、当該契約を更新しない場合
- 断続的な業務委託契約であって、特定業務委託事業者が特定受託事業者との取引を停止するなど次の契約申込みを行わない場合(基本契約が締結されている場合も含む。)などをいう。
一方、たとえば、
- 業務委託契約の性質上一回限りであることが明らかである場合や、
- 断続的な業務委託契約であって、特定業務委託事業者が次の契約申込みを行うことができるかが明らかではない場合は対象となりません。
ウ 30日前までの事前予告が不要となる例外事由
条文上、「災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合」には30日前までの事前予告が不要となっています。
この「その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合」とはどのような場合を指すのかが問題となりますが、以下のような場合が想定されています。
① 再委託の際の元委託者からの契約の全部又は一部の解除等により、当該特定受託事業者の業務の大部分が不要となってしまう等、直ちに契約を解除せざるを得ない場合 ② 契約の更新により継続して業務委託を行う場合又は基本契約が締結されている場合であって、業務委託の期間が短期間(30日間以下)である一の契約(個別契約)を解除しようとする場合 ③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由に基づいて直ちに契約を解除する必要が認められる場合 基本契約が締結されている場合であって、特定受託事業者の事情により相当な期間、個別契約が締結されていない場合 |
上記のうち③の「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」とは、労基法20条の「責めに帰すべき事由」の考え方と同等程度に、限定的に解すこととされる予定となっています。
上記④に該当する場合とは、例えば、フードデリバリーの配達員は、様々な仕事を受託することができるアプリに登録していることが多いですが、このアプリの登録が基本契約の締結とされ、個別の仕事の受発注は別途なされ、それが個別契約の締結とされます。
このような場合、アプリには登録していることから基本契約は締結していることになるものの、実際には、そのアプリからの仕事を、相当な期間、受託しないままとなっていることもよくあります。
そのような場合は、当該契約は継続的業務委託契約に該当するものの、30日前の解除の予告は不要となります。
エ その他注意点
民法上は、業務委託契約は、予告期間の制限はなく、いつでも解約できることになっていますが(民法651条1項)、第16条の規制は、それを修正するものです。
しかし、フリーランス新法は、あくまで業種横断的に共通する「必要最低限」の規律を設けるものですので、30日前の予告をすれば、あらゆる業務委託契約が、なんの損失補填をすることなく解約できると解釈されるものではないことに注意が必要です。
これまでの裁判例でも、継続的契約における一方当事者からの解約は、解約することは出来ても、相当の予告期間ないしは損失補填が必要という考え方のもと、その予告の期間の長さについては、取引実情に応じてケースバイケースと判断されています。
(5)継続的業務委託(第13条・16条)
継続的業務委託の概念は、フリーランス新法第3章に規定する13条・16条に共通して適用される重要な概念です。
就業環境整備検討会では、第13条・16条の継続的業務委託契約の期間をどのように考えるか、2以上の業務委託契約を締結する場合にこれらの業務委託契約が継続しているものと判断する基準をどのように考えるべきかが議論され、その結果、以下の考え方として取りまとめられています。
ア 継続的業務委託契約の期間について
(ア)原則的な考え方
第13条の育児介護等に対する配慮義務、第16条の中途解除の事前予告義務の対象となる「継続的業務委託」とされる継続的業務委託の期間については、先に述べたとおり6か月以上とされる予定となっています。
契約の期間の算定方法が問題となりますが、原則、業務委託をした日を始期、業務委託に係る給付を最後に受領する予定の日又は役務の提供を最後に受ける予定の日(給付完了予定日)を終期とすることになります。
例えば、1回限りの業務委託契約では、業務委託をした日から、業務委託に係る給付を最後に受領する予定の日(役務の提供であれば役務の提供の終了日、成果物を納品する契約であれば、納品予定日)までの期間が6か月以上となっていれば継続的業務委託とされ、契約の始期である業務委託をした日からフリーランス新法の規律の適用を受けることになります。
(イ)業務委託契約が更新する場合の期間の考え方
2以上の業務委託契約を更新することにより継続して行うこととなる業務委託契約の場合は通算して期間を計算することになります。
具体的には2か月契約を更新する場合には、3回目の契約更新時に6か月以上の契約期間になることから、3回目の契約更新時からフリーランス新法の規律の適用を受けることになります。
このように考えると、フリーランス新法の適用を免れるために、契約を更新する際に空白の契約期間を設けることによって契約期間を継続して算定されないようにすることが考えられますが、2以上の契約の間に空白の期間が生じる場合に、締結する場合に契約の更新と認められる空白期間は、1ヶ月未満とすることとされています。
例えば、1回目の2か月の業務委託契約が行われ終了し、1か月未満の空白期間のあと、2回目の同じ内容の1か月半の業務委託が行われ終了し、1か月未満の空白期間のあと、3回目の同じ内容の3か月の業務委託契約が始まるような場合、間の空白期間が1か月未満であることから、これら業務委託契約は1回目から3回目まで継続しているものとされ、1回目の業務委託契約から空白期間を含め契約が継続しているものと考えられることとなります。
そして、1回目の業務委託契約から通算して6か月以上となることが判明した3回目の業務委託契約がはじまった日から、フリーランス新法の規律の適用を受けることになります。
(ウ)基本契約がある場合
特定受託事業者の給付又は役務の提供の内容に関連する事項について、事業者間であらかじめ取り決め(以下「基本契約」という。)が締結され、個別の発注は別途行う場合があります。
このような場合は、基本契約により、継続的業務委託の期間を算定することになります。
例えば、基本契約が6か月の契約期間のものであれば、個別契約が6か月未満のものであっても、フリーランス新法の規律の適用は、基本契約の開始時から受けることになります。
(エ)期間の定めがない業務委託契約の場合
期間の定めがない場合の業務委託契約については、フリーランス新法の継続的業務委託にあたるものとされ、期間の定めのない業務委託契約は、業務委託が開始日からフリーランス新法の規律の適用を受けることになります。
イ 2以上の業務委託契約を締結する場合に契約の更新と認められるための契約の同一性の要件について
2以上の業務委託契約を締結する場合に契約の更新と認められるための契約の内容の同一性の判断基準としては、2以上の業務委託契約の両当事者が同一であり、かつ、その給付又は役務の提供の内容が一定程度の同一性を有していると言えることが必要とされます。
給付等の内容の一定程度の同一性の判断にあたっては、機能、効用、態様等を考慮要素として判断される予定です。
その際、「日本標準産業分類」の小分類を参考として、前後の業務委託に係る給付等の内容が同一の分類に属するか否かで判断し、それが適当ではないと考えられる事情がある場合には、上記の考慮要素から、個別に判断される予定です。
(6) 違反行為に対する申告等
第3章の規定に違反する事実があった場合は、フリーランスは厚生労働大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができると定められています(フリーランス新法17条)。
なお、この厚生労働大臣の権限を、都道府県労働局長に委任することになる予定となっています。
そのため、違反行為の申告窓口とそれに対応する報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の命令・公表などの措置は各都道府県の労働局が担当することになると思われます。
4 今後の予定
最後に今後の予定について述べておきますが、令和6年4月以降、政府から取引適正化検討会及び就業環境整備検討会の議論を得てまとめた、政令・規則・指針・ガイドライン案についてパブリックコメントに付される予定です。
パブリックコメントを受けて、必要な修正を加えたうえ、正式に政令・規則・指針・ガイドラインが発表される見込みです。
そのため、今後、これら情報には十分注意してください。
以上
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