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改正相続法~遺言制度に関する見直し(自筆証書遺言の方式緩和)

九石 拓也

1 改正相続法と施行時期

 改正相続法(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号))が2018年7月に成立,公布されています。

 今回の改正では,①配偶者の居住を保護するための方策(配偶者居住権),②遺産分割等に関する見直し(持戻免除の意思表示推定規定,遺産分割前の払戻制度,遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲),③遺言制度に関する見直し(自筆証書遺言の方式緩和,遺言執行者の権限明確化等),④遺留分制度に関する見直し,⑤相続の効力等に関する見直し,⑥相続人以外の者の貢献を考慮するための方策の6項目について,大幅かつ重要な改正が行われています。

 改正法の施行期日は,改正項目により分かれています。原則は,2019年7月1日ですが,上記③のうち自筆証書遺言の方式緩和については2019年1月13日に施行済み,上記①の配偶者居住権制度については2020年4月1日に施行されます。また,あわせて成立した遺言書保管法(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年法律第73号))の遺言書保管制度については2020年7月10日施行です。

 以下では,既に施行されている「自筆証書遺言の方式緩和」について取りあげます(配偶者居住権,持戻免除の意思表示推定規定については「改正相続法案~配偶者の生活権の保護」をご覧ください。)

2 自筆証書遺言の方式緩和

 従来,自筆証書遺言は,その全文,日付,氏名の全てを遺言者自ら書くこと(自書)が要件とされていましたが(民法968条1項),今回の改正により,相続財産の目録を添付する場合には,目録については自書を要しないこととして,方式が緩和されました(同条2項)。

 これにより,パソコン等で作成した財産目録を添付する方法,遺言者以外の者が代筆した財産目録を添付する方法,不動産の登記事項証明書,預貯金通帳等の写しを目録として添付する方法なども可能となり,全文の自書の負担の大きかった方にも利用しやすい制度となりました。

3 自書によらない財産目録を添付する自筆証書遺言作成上の注意点

 今回の改正で方式の緩和がされてはいますが,有効な遺言を作成するためには,所定の要件を満たす必要があります。

(1)遺言書作成の際の注意点

① 自筆を要しないのは財産目録のみです。遺言書本文の遺言事項,日付,氏名については,従来同様,自書が必要です。

② 財産目録を「添付」する場合の方式の緩和ですので,財産目録は,本文とは別の用紙にする必要があります。本文と財産目録を同一の用紙に記載する場合は方式緩和の対象になりません。

③ 財産目録の記載内容について特に定めはありませんが,対象とする財産の特定に疑義が生じないよう記載する必要があります。

④ 財産目録の「毎葉」に署名・押印をする必要があります。「毎様」とは,全ての用紙,記載が表裏両面にわたる場合にはその両面という意味です。

⑤ 押印に用いる印は遺言者の印であれば足り,遺言書本文に押印された印と同一であることや,実印であることは要件ではありません。また,本文と財産目録との間や複数枚の財産目録間の契印も要件ではありません。もっとも,偽造・変造の防止,遺言書全体の一体性の確保の観点からは,全て実印で押印,契印する方法,同一の封筒に入れて封緘する方法,遺言書全体を編綴する方法などの方法が望ましいでしょう。

(2)加除・訂正の際の注意点

① 財産目録の記載を加除・訂正する場合には,自筆部分の加除変更と同様に,遺言者が変更の場所を指示し,変更した旨を付記して署名し,変更箇所に押印する必要があります(民法968条3項)。変更箇所に押印の上で,「目録第二項,三字削除,三字追加 (署名)」等の記載をすることになります。

② 財産目録自体を差し替える方式での変更も可能です。この場合も968条3項の要件を満たす必要がありますので,遺言書本文に「旧目録削除,新目録追加 (署名)」等を記載し,旧目録全体を抹消する記載(斜線等)と抹消の押印,新目録への追加の押印をすることになります。新目録が自書によらない場合にはさらに署名・押印(上記(1)④)が必要です。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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