弁護士コラムバックナンバー

相続人多数の遺産分割

三浦 希美

 近年、子どもがいない兄弟や叔父叔母からの相続、または、相続開始後から長期間経過した相続等により、付き合いのない親族間の遺産分割、または、相続人が多数の遺産分割手続を担当することがある。

 相続人が100名近い事案や、各相続人の住所連絡先もわからないということも珍しくない。

 高齢化や少子化の影響もあると考えており、今後も増えてくるため、(1)関係が希薄な親族間の遺産分割、及び、(2)相続人多数の遺産分割の解決のポイントを考えてみた。

(1) 関係が希薄な親族間の遺産分割

①相続人全員の正確な把握

 相続の基本ではあるが、まず正しく相続人全員を確定し、住所連絡先等を把握することが重要である。

 被相続人の来歴を相続人が全く知らないこともあり、特に戸籍を丁寧に辿り確認する必要がある。

②相続財産の把握

 生前に被相続人から財産について話を聞いていない場合、被相続人が保有していた預貯金、有価証券、及び、その他財産を漏れなく把握することは非常に難しい。

 弁護士は、経験に基づき、被相続人の属性や遺品等から、調査方法や調査すべき財産等を助言できるため、是非相談して欲しい。

③遺産分割手続の透明性、公平性の確保

 付き合いのない親族間の場合、遺産分割を先導する相続人がいない限り、手続が進まない。

 一方、「しゃしゃり出た」、「財産を狙っている」、または、「自分だけ得をした」と思われないか心配し、手を付けにくい。

 したがって、相続人間の関係が希薄である場合は、特に、遺産分割手続の透明性や公平性を確保する必要がある。

 弁護士は、紛争やトラブルが発生していなくても、手続を正確に行うとともに、透明性や公平性を確保するためにも利用する意義がある。

 付き合いのない親族への連絡や被相続人が居住していた遠方地への移動等、多数の手間暇の省略にもなる。

(2) 相続人多数の遺産分割

①迅速な対応

 (1)に記載した①相続人全員の正確な把握は、相続人多数の場合も重要であるが、相続人多数の場合は、速さが特に重要である。

 時間がかかれば、その間に相続人の方が亡くなり、新たな相続が発生し、相続人が増え、当該相続の決着を待たなければならないこともある。

 さらに、その間に他の相続人が亡くなり、または、意思能力に問題が生じることは、現代の高齢化社会では珍しくない。

 相続人が海外に転居することもある。

 遺産分割手続は、どうしても時間がかかるものではあるが、最短で進めていく必要がある。

②適切な方法の選択

 遺産分割は、相続人全員の意見を一致させ合意することが基本であるが、相続人が多数に及ぶ場合、全員の意見を調整し、合意に至ることは非常に困難である。

 家事事件手続法では、遺産分割事件について「調停に代わる審判」(家事事件手続法第284条)が利用でき、相続人全員の出頭がなくとも解決可能となった。

 もっとも、相続放棄や相続分の譲渡を理由として予め相続人の一部について調停手続から排除決定を受けておくことで、手続中に新たに発生する相続や審判時に送達ができない等のリスクを軽減し、適正な分配が実現できることがある。

 また、相続財産の処分時にかかる費用や税金等をあらかじめ把握したうえで、現物分割、代償分割、又は、換価分割等を選択することも必要である。

 事案によっては、時効取得を理由に移転登記手続を求める通常訴訟を選択することが相応しい場合もある。

 途中で方針変更をすることは困難であり、当初から事案をよく検討して、計画・戦略を練ることが重要である。

 上記のとおり、関係が希薄な親族間の遺産分割や相続人多数の遺産分割においては、対応のポイントが、親族間に紛争が生じた遺産分割事件とは異なる。

 紛争の予防や迅速な解決のためにも、早期より適切な対応が重要である。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
このコラムを書いた弁護士に
問い合わせるにはこちら
関連するコラム
↑TOP