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未公開株の相続税

仲田 信範

 未公開株(取引相場のない株式)の評価方式について,以前にもコラムを書きましたが,今回のコラムでは,相続することになった遺産の中に未公開株が含まれている場合に起こる問題を,相談者からの質問形式でご紹介します。

相談者からの質問

 私の兄弟は2人です。兄が,父親の経営していた会社を引き継いでいます。

 私は,父の会社とは関係のない会社に勤務しているサラリーマンです。

 会社の株は1株500円のいわゆる未公開株で,発行済株式は10000株です。

 株主は父が2000株,父の兄弟が300株,残り7700株は取引先や会社の従業員が持っています。

 配当は毎年1株について50円です。

 父が亡くなり,相続が開始しました。

 父の持っていた2000株について,兄が1300株,私が700株を相続することにしました。

 相続税を計算するために,株価を評価してもらったところ,1株2万円にもなるとのことで,株の相続税だけで300万円以上納めなければならないとのことです。

 将来に向けて,私が会社から受け取るのは毎年3万5000円の配当金だけです。

 そのために相続税を300万円以上払うのは納得できません。

 どうしてこんなに税金が高くなるのでしょうか。

 また税金を安くする方法があれば教えてください。

答え 

 未公開株の相続税評価額(遺贈・贈与を含む)の算定方法には,原則的評価方式と特例的な配当還元方式とがあります。

 どんな株主でも,株式からは配当しか受領していないのですから配当還元方式が原則と思われるかもしれませんが,税金が安くなる配当還元方式は例外的なのです。

 原則的評価方式の基本は,純資産方式です。

 純資産方式とは,会社を清算すると仮定して,会社の時価資産から負債を引いた純資産価額を発行済株式数で割った金額を株の評価額とする方式です。

 原則的評価方式では,会社の規模に応じて,類似業種比準方式を採用し(大会社),もしくは純資産方式と併用することができます(小会社の場合,類似業種比準方式0.5,純資産方式0.5を加重平均)。

 類似業種比準方式とは,会社の業績に類似した上場会社の株価を参考にして評価する方式です。

 通常は純資産方式に比べれば株の評価額は下回ります。

 配当還元方式により,額面が500円の株式を評価する場合,直近2年の配当額を平均し,それを10%で割った金額となり,配当額が年50円であれば500円,つまり今後10年間で受け取る配当金額の合計額に相当します。

 相続税における未公開株の評価は,同族株主か否かによって異なります。

 同族株主とは,株主とその親族(6親等以内の血族及び3親等以内の姻族)及びその株主と一定の関係にある人の持っている株式の議決権割合が30%以上である場合,その株主及びその同族関係者を指します。

 相続で株を取得した相続人が同族株主に該当する場合,基本的に,株の評価は原則的評価(純資産評価方式・類似業種比準方式,併用方式)が適用され,同族株主に該当しない相続人は例外的評価である配当還元方式が適用されます。

 ここで問題となるのは,同族株主でなくても,取得者の属する株主グループ(6親等以内の親族及び3親等以内の姻族等を含む)の議決権割合の合計が15%以上であり,かつ取得者の取得後の議決権割合が5%以上の場合には,原則的評価方式が適用になることです。

 ご質問の場合,遺産分割によって,お兄さんが1300株,あなたが700株(7%)を取得したとすれば,それに叔父の300株を加えると親族株の合計は2300株(23%)となり,あなたは15%以上の株式を持つ株主グループの一員に該当します。

 あなたの取得後の議決権割合は7%ですから原則的評価方式が適用され,1株2万円の高い評価を受けます。

 あなたが配当還元方式の適用を受けるためには,取得する株式を500株未満にしなければなりません。

 499株を取得することをお奨めします。

 なお,お兄さんは会社を引き継いでおり,一人で1700株(17%)保有することになり(中心的な株主),また会社役員ですから原則的評価方式の適用を受けます。

 以上のように未公開株の株式の評価方法は相続人に非常に厳しい定めになっており,1株の違いで税金が何倍も違う結果となりますので,相続人はもちろんのことですが,経営者は生きているうちにそのことについても十分留意して遺言をしておくことをお奨めします。

 相続で配当還元方式が適用されるのは以下の場合です。

  ① 同族株主以外の相続人が取得する株式

  ② 同族株主であるが,下記のすべての事由に該当する相続人が取得する株式
   ※ 他に中心的同族株主(同族株主の一人及びその配偶者,直系血族,兄弟姉妹,一親等姻族が保有する株式の議決権割合が25%以上である場合のその株主)がいる
   ※ 会社役員でない
   ※ 株式取得後の議決権割合が5%未満である

  ③ 株式取得後,議決権割合の合計が15%未満のグループに属する相続人の取得する株式

  ④ 株式取得後,議決権割合の合計が15%以上のグループに属する株主でかつ下記のすべての事由に該当する相続人の取得する株式
   ※ 他に中心的な株主(株主の一人及びその同族関係者の有する議決権割合の合計が15%以上であり,かつ一人で10%以上の議決権割合を有する株主)がいる
   ※ 役員でない
   ※ 株式取得後の議決権割合数が5%未満

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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