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近くの役所で全国各地の戸籍を手に入れることができます

上田 正和

1 人間は誰でもいつかは亡くなりますので,相続の手続きが必要になります。たとえば銀行の預金口座や不動産の名義変更(相続登記),相続税の申告などがあります。

 これらの手続きを行う際に,相続人(遺族)は,亡くなられた方(被相続人)の出生から死亡に至るまでの連続した戸籍の提出を求められることがあります。

 出生してから亡くなるまでに本籍地を変更している場合には,そのすべての本籍地に戸籍の交付を請求する必要があり,これは相続人にとって,時間と労力(さらには費用)を必要とする大変な作業です。このことが,亡くなられた方が保有していた財産についての相続の手続き(名義変更)がやや敬遠されてきたことの1つの理由でもありました。

 遺産とりわけ不動産の名義変更が行われないことは不動産の利用や取引に対して大きな問題とされてきましたが,本年(2024年)4月1日から相続登記の申請が義務化されました。

2 これらに関連して,本年(2024年)3月1日から,戸籍法の改正によって,戸籍証明書(戸籍や除籍の全部事項証明書)を遠方の本籍地でなく最寄りの市区町村の窓口で手に入れることができるようになりました。

 そして,手に入れたい戸籍の本籍地が全国の色々な場所にある場合であっても,1か所の市区町村の窓口でまとめて戸籍証明書を手に入れることができるようにもなりました。

 これらは「戸籍証明書の広域交付制度」といわれるもので,1つの役所で多くの戸籍を一度で手に入れることができるので,相続の際に戸籍を集めることの負担は少なくなるといえます。

 もっとも,この制度の利用にはいくつかの条件があります。主なものをあげてみます。

 (1)まず,窓口における直接請求に限られ,郵送や代理人による請求では利用できません。

 そのため,弁護士や司法書士などの専門職が請求することは認められていません。そして,窓口に来られる方の顔写真付きの身分証明書(運転免許証,マイナンバーカードなど)を呈示する必要があります。

 厳格な本人確認が求められていますので,顔写真のない健康保険証や年金手帳ではダメです。

 (2)コンピュータ化されていない戸籍証明書、つまりスキャン処理されておらず紙の状態で保管されている戸籍証明書を請求することはできません。

 (3)請求できるのは全部事項証明書に限られ,一部事項証明書や個人事項証明書を請求することはできません。

 (4)請求者は,本人,直系尊属,直系卑属,そして配偶者に限られ,兄弟姉妹は請求することはできません。

 以上の他に,事実上の問題として,請求した戸籍証明書の交付を受けるまで通常よりも多くの時間がかかることがあります。

 これは,本籍地に確認を行うのに時間がかかることがありうるためです。午後のやや遅めの時間に役所の窓口に請求を行う場合には交付が翌日になることもありえます。

 このように,新たにスタートした「戸籍証明書の広域交付制度」には多くの条件や課題がありますが,戸籍を手に入れることについて従来の制度に新たな手続きを加えたものということができますので,ただちに「相続登記が簡単になり次々と登記が行われる」とまではいえないでしょうが,一定の前進ということはできるでしょう。今後の利用(運用)の実情と課題が注目されます。

3 「戸籍証明書の広域交付制度」と関連して,戸籍届出時に戸籍証明書を添付することが原則として不要になりました。

 これは,本籍地でない市区町村の窓口に戸籍の届出を行う場合であっても,提出を受けた市区町村が本籍地の戸籍を確認することができるようになったので,届出を行う際に戸籍証明書を添付する必要がなくなったというものです。

 たとえば,新婚旅行先の市区町村(本籍地とは異なる市区町村)の窓口に婚姻届を提出するような場合がこれに当たります。

4 以上のように,戸籍情報のコンピュータ化の進展により新しい制度がスタートしましたが,さらに将来的には,マイナンバーを申請先の行政機関に提示することによって戸籍証明書の添付に代えるという制度の実施が予定されています。

 たとえば,児童扶養手当認定請求などがこれに当たります。

 新しい制度を理解して使うのはむずかしいことが少なくありませんし,思わぬ落とし穴もありえます。

 お悩みの場合には,お早めに弁護士(法律事務所)に御相談されるとよいでしょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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