弁護士コラムバックナンバー

遺産分割(とくに遺産分割の調停手続)の進め方

上田 正和

1 遺産分割について

 遺産分割は,亡くなられた方(「被相続人」といいます。)が保有していた財産(遺産)を引き継ぐ人を確定させる手続です。

 相続人(たとえば,故人の夫や妻や子)の間で話し合いによって解決できればよいのですが,それがむずかしい場合には裁判所の手続によることになります。

 ただ,裁判所の手続といっても,遺産分割は相続人同志という近親者間の問題であり,できるだけ円満に解決することが望ましいので,家庭裁判所における調停手続によって進められます。

 調停とは,調停委員が当事者(各相続人)の考えを個別に聴きながら相続人間の調整を図り,話し合いによって遺産分割を行う手続で,テレビで見るような法廷で行われる裁判手続とは異なり,非公開で,時間をかけて調整を行っていく手続です。

 調停手続は1か月半か2か月に1回の間隔で実施されることが多いようです。

 遺産分割の調停を主に進行させるのは2名(男女各1名)の調停委員(民間人で,非常勤の国家公務員)ですが,東京家庭裁判所では2名の調停委員のうち1名は弁護士会の推薦を受けた弁護士です。

 私もこの弁護士調停委員として複数の遺産分割調停事件を担当しています。

2 遺産分割事件の特徴

 法的な紛争にはそれぞれむずかしい問題があります。

 遺産分割は,亡くなられた方(被相続人)が残した財産を複数の相続人が「取り合う」(ていねいな表現を用いるとすれば,「(遺産という)有限の財産を分ける」と表現できます。)ものですが,被相続人と各相続人や相続人相互の長年の人間関係につながる感情的な問題が主張されることが多く,遺産の多い/少ないにかかわらず,相続人間の主張を調整することがむずかしい事案が少なくありません。

 たとえば,「故人は〇〇〇〇〇と言っていた。」「他に△△△△△が遺産としてあるはずだ。」「相続人の□□□は被相続人からお金を借りていた。また,▽▽▽は被相続人の預金通帳や財布を勝手に管理していた。」等が主張されることが珍しくありません。

 遺産分割について相続人の間で話し合いによって円満に解決できない場合には,家庭裁判所の調停手続によることになりますが,調停手続における遺産分割の大まかな流れ(進め方)を次に説明します。

3 遺産分割の調停手続の流れ

 最初に指摘させていただくことですが,裁判所の手続になったからといって,裁判所が被相続人の遺産を職権で調査して遺産のリストを作ってくれるわけではありません。

 裁判所は法律に従って正義を実現してくれる国家機関なので何でも行ってくれる(万能である)と思われる方が時々いますが,決してそのようなことはありません。

 被相続人が残した財産(遺産)としてどのようなものがあるのかは,それぞれの相続人が情報を出しあって遺産のリストを作っていくことが求められます。

 また,相続人の中の誰かが被相続人の財産(たとえば預金)を勝手に引き出して使い込んだという問題は,原則として遺産分割の調停手続の対象外となります。

 遺産分割の調停手続の大まかな流れは以下に述べるようなもので,調停委員はこの順序に従って調停手続を進行させます。

(1)相続人の範囲(誰が相続人であるのか)を確定する。

 ・ 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)等の戸籍関係資料に基づいて行われます。

 相続開始時(被相続人の死亡時)から長期間となっている場合には,必要な戸籍関係資料が多くなります。

(2)遺産の範囲を確認し確定する。

 ① 相続開始時(被相続人の死亡時)に存在し,遺産分割時(調停手続時点)にも存在することが確認できて,相続人の誰が取得するのかが決まっていない財産(遺言がなく,遺産が共有状態にある財産)が遺産分割の対象となります。

 ② 遺産の例としては,土地や建物,預金,現金,株式,貴金属等があります。

(3)遺産の評価を行う。

 ① 遺産分割は,遺産を各相続人の法定相続分(例えば,配偶者と子は1/2ずつに応じて分配するものですから,対象となる遺産の評価(「金額で示すと〇〇〇万円」になる,というものです。)を行う必要があります。

 預金や現金についての評価は簡単ですが,土地や株式の評価が問題になることが少なくありません。

 ② 遺産である土地や株式の評価を行う場合,それらの財産の価値は変動しますので,評価の時点(基準時)が問題になりますが,家庭裁判所では遺産分割時(現在時)の評価を基準にします。

 そして,評価をめぐって相続人間で争いがある場合には鑑定を行うことになります。

 土地については,所在場所や数や種類によりますが,鑑定費用に50万円や100万円かかることはよくあります。

 鑑定費用は,法定相続分に従って各相続人が負担することが多いです。

(4)遺産の評価が行われることによって,被相続人が残した財産の価値が金額(「〇〇〇万円」)で示されますので,法定相続分に従って各相続人が取得できる金額を算定します。

 ・ 相続人の誰かに,特別受益(被相続人から既に特別な利益を受けていること)や寄与分(遺産の増加や維持に特別の貢献を行ったこと)という事情があれば,これらを考慮して各相続人の取得額の調整を行います。

 ただ,特別受益にしても寄与分にしても認められるための要件は厳しく,「特別」であることが客観的な資料で示されることが必要です。

(5)(4)で各相続人が取得できる遺産の価値(〇〇〇万円)が決まったことを踏まえて,最後に遺産の具体的な分割方法を決めます。

 ① どの財産を誰が取得するのか(土地は誰が取得するのか,預金は誰が取得するのか)という問題です。

 ② 分割方法としては,(ア)現物分割(個々の遺産をある相続人が単独で取得する),(イ)代償分割(一部の相続人が法定相続分を超える遺産を取得する代わりに他の相続人に代償金を支払う),(ウ)換価分割(遺産を売却して売却代金を分配する),(エ)共有分割(遺産を複数の相続人が共有する)があります。

 共有分割は本来的な遺産分割でなく,問題の解決を先送りにするという面があります。

 そして,一般的に不動産の共有(とくに兄弟姉妹による共有)は将来の紛争を招く可能性があるので好ましくないとされています。

4 以上のプロセスを経て,被相続人が保有していた財産(遺産)について,相続人の誰が引き継ぐのかが決まれば調停の成立となり,家庭裁判所によって調停調書が作成されます。

 調停調書には判決書と同様の効力がありますが,この調停調書によって財産の名義変更(たとえば,不動産の登記手続)が行われることになります。

 本コラムでは,家庭裁判所における遺産分割の調停手続の概略(基本的な進め方)を説明しましたが,実際にはさらにむずかしい法律問題が出てきたり,最近の法律改正が影響する場合があります。また,同族で事業を行っている場合には,その規模の大小を問わず,事業承継(事業活動の維持・存続)にも関わりますので,早い段階で弁護士に相談されるのがよいでしょう。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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