弁護士コラムバックナンバー

働き方改革と生き方改革

三木 昌樹

 働き方改革については、このコラムでも既に清水先生が取り上げておられますが、現在においてかなり重要な課題と思われますので、異なった視点から触れてみたいと思います。

「働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するために、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。」

これは、「働き方改革の実現」と題した首相官邸ホームページ(最終更新日:平成30年2月20日)に記載されている文章です。そして平成29年3月28日に決定された「働き方改革実行計画」の概要が記載されています。それによりますと、日本の労働制度と働き方にある課題として

①正規・非正規の不合理な処遇の差
②長時間労働
③単線型の日本のキャリアパス

の3点を挙げ、それぞれについて、

①正当な処遇がなされていないという気持ちを「非正規」労働者に起こさせ、頑張ろうという意欲をなくす。
②健康の確保だけでなく、仕事と家庭生活との両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参加を阻む原因。
③ライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくい。

といった問題があるとし、これらの問題点については

①世の中から「非正規」という言葉を一掃していく
②長時間労働を自慢するような風潮が蔓延・常識化している現状を変えていく
③単線型の日本のキャリアパスを変えていく、

との方向性を示し、それぞれの対策が具体化すれば労働生産性が向上し国全体の生産性の向上にも寄与するとしています。

 これらの課題のうち①と②は直接的な法規制など(同一労働同一賃金、残業規制などの法制化)によって相当程度現実化が推進されると思いますが、③については、「働き方実行計画」の概要を記載した上記ホームページにおいても、「転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば、自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計可能に。付加価値の高い産業への転職・再就職を通じて国全体の生産性の向上にも寄与。」と記述されているように政府だけでなく労働者と経営者(労働界、産業界)双方の合意や協力の下、長期的かつ継続的に取り組んでいかないと、柔軟な労働市場の形成や企業慣行として確立していくのは難しいと思います。具体的には終身雇用制から雇用移動への移行を支援するとともに、育児などのために家庭に入った女性の復職や高齢者の就業促進などが検討されているとのことです。

 しかしながら、私は、この問題は単に働き方だけなく、我々日本人の生き方遊び方など、言ってみれば人生観そのものに密接に絡んでいる問題だと思います。

 ところで、法律の構成は極めて単純で、権利と義務を定めたものです。権利や義務の発生する事実を、構成要件事実といいます。裁判などでは、この構成要件事実の有無を証拠で立証することになります。政府の働き方改革とは、現在問題となっている、公平・公正でない処遇や、過重労働を法律で規制することによって、日本人の働き方そのものを変えていこう、言うものだと思います。

 しかし、当然のことながら、法律は万能ではありません。法律によって、義務を課せられる側や、場合によっては権利を付与される側も、何とか法律を潜脱しようとします。要は、その法律が受け入れられるには、権利者も義務者もその法律を順守しようと思うことが必要です。

 今回の、働き方改革の実現のために法律で規制しようとしている、同一労働同一賃金や残業規制についても、本当はそれを必要としていない人たちがいるのではないか、と疑われるようなことが既に起きています。すなわち、残業規制についての例外として、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度が予定されていますが、すでにこれらの制度自体が、その適用方法などで残業規制の例外として使えるだけでなく、それらの制度のもとになるデータも捏造されていたという問題が発覚したりしています。

 私は、働くことでその人が幸せだと思えるような環境創りは大切だと思いますが、そのためには、個々人の生き方改革が必要ではないかと思います。さらに、そのための一つの重要な要素は教育ではないかと思っています。政府もそのことを考慮してか、教育改革に取り組んでいるようですが、その方向性や手段については、多くの問題があるように思っています。できれば、いずれこの問題にも触れてみたいと思っています。

以上

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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