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改正高年齢者雇用安定法

九石 拓也

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、今年(平成25年)4月1日から施行されます。

今回の改正のポイントは次の3点です。

(1)継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

(2)継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大

(3)義務違反の企業に対する公表規定の導入

(1)継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

高年齢者雇用安定法は、65歳未満の定年を定める事業主に対して、65歳までの高年齢者の雇用確保措置として、[1]定年年齢の引き上げ、[2]継続的雇用制度の導入、[3]定年の廃止のいずれかの措置を講ずるよう定めています。

従来、[2]の継続雇用制度を導入した場合、労使の合意に基づいた基準に従って、継続雇用の対象となる高年齢者を選定することが例外的に認められていましたが、今回の改正法でその仕組みは廃止されました。

これにより、今後、継続雇用制度を導入する事業主は、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが義務付けられます。

この改正の背景には、今年4月からの厚生年金の支給開始年齢の引き上げがあります。定年後に年金も賃金も受け取れない期間の発生を避けるねらいです。

ただし、改正法の施行後も、希望者全員を例外なく継続雇用の対象としなければならないわけではありません。

改正法の施行前に労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、段階的な経過措置として、年金支給開始年齢以上の者について、引き続き継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められています。

また、高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(平成24年11月9日厚生労働省告示)では、「就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。…)に該当する場合には、継続雇用しないことができる」とされ、例として、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること」、「勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと」が挙げられています。

なお、高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、継続雇用の希望者の希望に沿った労働条件での雇用を義務付けるものではありません。再雇用にあたっての裁量の範囲での合理的な労働条件を提示していれば、労働条件について合意できず、結果的に継続雇用とならなかった場合でも同法違反となるわけではありません。

(2)継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大

継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大しました。継続雇用制度の対象者の増加により、同一企業内だけでの雇用確保には限界があるため、雇用確保先の対象を拡大するものです。

対象となるグループ企業の範囲は、改正高年齢者雇用安定法施行規則に定められています。

(3)義務違反の企業に対する公表規定の導入

高年齢者雇用確保義務に違反している事業主に対しては、指導、助言及び勧告の制度がありますが、さらに実効性を高めるため、勧告に従わない企業名を公表する規定が設けられました。

企業としては、解雇・退職事由、継続雇用時の就業条件に関する就業規則の整備等、法改正をふまえた対応が求められます(参照厚生労働省高年齢者雇用安定法Q&A

労働法分野では、有期雇用契約の無期雇用契約への転換等を定める改正労働契約法も同じ日に施行になります。雇用形態、賃金制度全般についてこの機会に再度検討するのもよいでしょう。

本コラム中の意見や推測にわたる部分は、執筆者の個人的見解であり、ひかり総合法律事務所を代表しての見解ではありません。
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